足元から生まれる 笑顔と喜び

菱屋 社長 植村 暁美さん

Interview

2016.04.21

国内最大手のインターネットショッピングモール「楽天市場」には、約4万2000店舗が出店している。昨年、靴販売部門で大賞を受賞し、"SHOP OF THE YEAR"の称号を手にしたのが、高松市の靴小売業、菱屋が運営するネットショップ「アウトレットシューズ」だ。パンプスを中心に、サンダルやブーツなどのレディース靴を年間に約60万足販売した。

社長の植村暁美さん(39)がこだわるのは履き心地とデザインだ。「足元が決まると、その日一日が楽しくなると思いませんか?」

14年前、結婚を機に夫の父親が経営する菱屋に入社。ネット通販サイトを立ち上げ、昨年8月、義父から社長を引き継いだ。

インターネットの普及や、家に居ながら買い物できる手軽さで急成長したネット通販市場だが、同時に競争も熾烈を極めている。自分に社長業が務まるのかという不安もあった。しかし植村さんは、「自分達が履きたいと思える商品を作る。その先にはお客さんや社員の笑顔と喜びがある」。その揺るぎない信念で、厳しい市場に果敢に挑んでいく。

アナタの代わりに試着します!

アウトレットシューズの通販サイトには、「足をやさしく包む」「歩きやすい」「靴ズレ知らず」といった言葉が躍る。「パンプスは足に合っていなかったら痛いんです。目指しているのは、履きやすくて痛くない靴です」

レディース靴は、22.5~25.0cm位のサイズが一般的だ。S、M、L、LLの4サイズしかない商品もある。しかし、アウトレットシューズでは、21.0~27.0cmまでの0.5cm刻みの他、足幅やブーツのふくらはぎ周りにいたるまで、細かくサイズ展開した商品を多くそろえている。「足のサイズや形は人それぞれ。小さいサイズ、大きいサイズで困っているお客さんはたくさんいます」

靴を買う時は試し履きが付き物だが、ネット通販ではそれができない。そのためサイトには全商品について「アナタの代わりに試着します!」という欄がある。社員のほとんどを占める女性スタッフが商品を実際に履き、感想を書いている。「素足で試着。私の普段のサイズは21.5cmですが、この靴だと私は22.0cmを選びます」「タイツを履いて試着。夕方、足がむくんでくると窮屈に感じるかも」「ふわっとしていて履き心地が良い」「素材が硬めなので足の甲が痛かったです」・・・・・・。良いことも悪いことも包み隠さず書く。「それがお客さんからの信頼に繋がると思っています」

スポンジを厚くしたり、柔らかいメッシュ生地を使ったり、少しでも履き心地を良くしようと改良も重ねる。中敷きにジェルを入れたこともあるが、「クッション性の高い商品ができたと思って喜んでいたら・・・・・・ジェルが漏れて靴の中がべちゃべちゃになってしまいました」。苦笑いしながら植村さんは振り返る。
主力商品のパンプス。豊富なカラーバリエーションと0.5㎝刻みのサイズ展開で1デザインで100通り以上の品揃えを持つ商品もある

主力商品のパンプス。豊富なカラーバリエーションと0.5㎝刻みのサイズ展開で1デザインで100通り以上の品揃えを持つ商品もある

仕入れから製造へ

1925年創業の菱屋は、元々は靴の卸業者だった。国内の大手シューズメーカーと代理店契約を結んで小売店に卸したり、中国製の靴をカタログ通販業者に卸したりしていた。

2002年、植村さんは入社後間もなくして、当時社長だった義父から相談を受けた。「カタログ通販で売れ残った在庫品をさばけないか」。実店舗を持つと固定費がかかる。これからはネット市場が伸びてくる。そう考えて、楽天市場に出店したのがアウトレットシューズだった。「当時はネットショップが出始めの頃。新しいことにチャレンジしてみようと思い立ちました」

数年で在庫は無くなった。靴の展示会などを回り、メーカーから人気商品を仕入れて売るというやり方で、出足は好調だった。しかし、長くは続かなかった。「サイトも頑張って作っているのに、なかなか売れなくなりました。入れ代わり立ち代わりライバル店が現れて価格競争が激しくなり、たとえ売れたとしても利益がほとんど出ない・・・・・・社員も残業続きで疲弊して、どうすればいいのか分からなくなってしまいました」

なぜ思うように売れないのか。植村さんはあることに気づいた。「社員達がよく、『こういう靴が欲しいのに無いなあ』とか、『この靴はあまり好きじゃない』とこぼしていたのを思い出したんです」。販売していた靴は全て、他社から仕入れたものだった。

「自分達が履きたい靴、お客さんに履いてもらいたい靴を、自分達で作ろう」

09年頃を境に、菱屋は仕入れ販売業者から、製造販売業者になった。「そこが大きな転機でした」

デザインやカラーバリエーション、サイズ展開や素材まで自分達で商品を企画した。今どんなものが売れているのか、お客さんはどんな商品を望んでいるのか、社内にマーチャンダイザーを置き、市場調査も徹底的に行った。「メーカーさんに委ねるのではなく、自分達で考えて商品を作る。実際に売れた時はとてもうれしくて、自信にもなりました」

お客さんにサイトに来てもらわなければ、ネットショップはやっていけない。植村さんには持論がある。「本当に履いてほしいという気持ちがあれば、ページにも表れてお客さんに伝わると思っています」。サイト用の商品撮影やモデルはスタッフ自らが行う。歩いている姿を動画で撮影し、靴の柔らかさを表現するなど工夫も凝らす。

昨年の楽天市場「SHOP OF THE YEAR」では、靴販売部門に加えて、優良サイトを評価する「動画賞」も受賞した。現在、アウトレットシューズのサイトには、一日に5万人ものアクセスがあるそうだ。

一瞬でも笑顔に

学生時代は政治学科で国際関係を学んだ。将来は途上国支援などの仕事に就きたいという夢があった。しかし、結婚で事情が変わった。夫が同じ高松市内で別の会社を立ち上げて独立したため、義父から会社を引き継ぐことになった。「自分がやりたかったこととは違っていたので、実は葛藤がありました」。だが、この会社でもできることはある。最近、そう思うようになった。「例えばアフリカでは、靴やサンダルが無くて困っている人がたくさんいます。ノウハウを提供して雇用を生み、そこで作られた商品がいろんな国で買えるようになる。いつか、そんなことができればと思い描いているんです」

急成長したネット通販市場だが、少子化などで国内のネット人口は頭打ち状態だとも言われる。一方でネットショップの競争は今なお激しく、数年で撤退していく店舗は少なくない。

「はじける笑顔と喜びのために」。3年前、社員達と一緒に会社の理念を作った。自分達は何のために、誰のために仕事をしているのか。選んでもらえるショップになるための、社員と共有する道標だと植村さんは話す。

「おしゃれは足元からと言いますし、自分に合ったサイズやデザインの靴を履くとすごく気持ちいいと思うんです。きょうのコーディネートはこれで決まったなと、一瞬でも笑顔になれるような靴をこれからも作っていきたいですね」

植村 暁美 | うえむら あけみ

1976年 愛知県生まれ
1999年 名古屋大学法学部 卒業
2002年 上海復旦大学交換留学 修了
    菱屋 入社
2014年 専務取締役
2015年 代表取締役社長
写真
植村 暁美 | うえむら あけみ

株式会社 菱屋

住所
高松市朝日町18-22 中第三ビル
TEL:087-851-6400
FAX:087-851-6403
創業
1925年
設立
1950年
資本金
2000万円
従業員
35人
事業内容
靴、小物、アパレル商品の企画・製造・販売
ネットショップ「アウトレットシューズ」の企画・運営・管理

アウトレットシューズは、楽天市場、Amazon、Yahoo!、ポンパレモール、Qoo10、DeNAに出店
地図
URL
http://www.hishi-ya.com
確認日
2018.01.04

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