食品プリント技術を駆使して 海老せんべいをメディアに

志満秀 社長 島 光男さん

Interview

2012.11.15

海老(えび)せんべいを焼くのは難しい。生地を練る回数も、5回と10回では味が変わる。火加減は気温と湿度で違う。類似品や競合商品も多いから売るのはもっと難しい。会社の継続はさらに難しい。イノベーションで新しい市場や顧客を開拓しないと衰退する。

1950年創業の志満秀(しまひで)は、小えびの珍味「えびてつ」など海産珍味から、海老せんべいを主力商品にして、みやげ物や贈答品など、えび一筋で歩んできた。

3代目社長島光男さん(49)は食品にプリントする技術で、QRコードや、写真やイラスト、メッセージを海老せんべいに印刷して、結婚や出産祝い返しの市場を開発、キャラクタービジネスとのコラボレーションも始めた。海老せんべいそのものを、消費者と直接つなぐメディアにしたのだ。

※QRコード
デンソーウェーブの登録商標。バーコードが1次元つまり横方向だけにしか情報をのせられないのに対し縦と横の2次元で情報をのせられるので大量のデータを記録できる。

100年続く老舗 目指して

▲海老せんべいを焼く機械が並ぶ志満秀工場

▲海老せんべいを焼く機械が並ぶ志満秀工場

海老せんべいは、よほど商品に魅力がないと食べてもらえない。ポテトチップにポップコーン、あられや豆菓子など、競合商品はむちゃくちゃ多い。

「危機感を持ちながら仕事をしています。海老を基本にして変わり続けないと、100年続く老舗にはなれません」

今年で創業62年目、100年に届くのは次の代だ。売り上げ15億円、百貨店を中心に販売する海老せんべいメーカーでは3位だ。

海老せんべいの本場は愛知県だ。東海市の坂角(ばんかく)総本舗は100億円、名古屋市の桂新堂(けいしんどう)は40億円。差は大きい。

お土産から贈答品へ

神戸国際大学を卒業して米国の南フロリダ大学付属の語学学校に2年間留学した。帰国したとき、四国土産として売っていた海老せんべいを見て、味はいいのに外観がやぼったいと思った。

1年ほどして経験もないのに専務になった。包装をオシャレにするともっと売れると感じた。デザインを変えて当時の直営店や、デパートに出していた店舗をリニューアルした。これが当たった。百貨店のギフト用に企画した商品がヒット、中元・歳暮の時期には製造が間に合わないほどになった。「増産できる態勢ではない」と古参社員が反発した。

近所の奥さん方を集めて、就業時間が終わった後、徹夜で製造して間に合わせた。自分のやり方が成功して売れたので、つらいとは思わなかった。

祖父は職人だったが、父は営業マンだった。原価計算がどんぶり勘定だったので、祖父や職人の仕事を見たり手伝ったりして、製造工程の内容や作業の細かい方法を記録した。教わらなくても作り方を覚えた。10年ほど夢中で仕事をしているうちに、専務として信頼されるようになった。

2年がかりで海老ラスク開発

海老を使っていろんな菓子に挑戦した。海老の粉末をふりかけた豆菓子や、海老せんべいにバタークリームを挟んだり、砕いてチョコレートをかけたりした。新商品を100種類あまり作った。売れるものもあったが、売れないものもあった。

2年かけて海老ラスクを開発した。ラスクはパンやカステラなどを薄く切り、卵白と粉砂糖を塗って焼いた洋菓子だ。「普通は甘い味しかありませんから、えびの塩味が合うと思いました」

製パン業者と共同で、専用の柔らかいパンを開発した。桜エビの粉末をまぶしたら、時間がたつと生臭くなって失敗した。脳みそや背わたの酸化が原因だった。

「これがだめならあきらめようと思ったとき、満足のいく製品ができました」。海老せんべいと同じ下処理で、頭と殻を取って粉末にしたらうまくいった。

カレー味や明太子味の海老ラスクも開発した。

表にイラスト、裏に氏名

5年前、食品のカラープリント技術と出会って海老せんべいが変貌し始めた。QRコードを食べられるインクで海老せんべいに直接印刷した。

表に顔のイラスト、裏に名前や会社の情報を入れたQRコード付のえびせんべいは、食べられる名刺だ。携帯電話で読み取ると、簡単にホームページにアクセスしたり、アドレス帳に登録できる。

海老が長いヒゲと曲がった姿で長寿のシンボルに例えられることから、新郎新婦の写真を印刷して、結婚式の引き出物として売りだした。

結婚市場の延長線上に出産祝い返しなど赤ちゃん誕生の関連需要がある。赤ちゃんの写真と名前と両親のメッセージを印刷した海老せんべいを、妊婦向けの雑誌の通販カタログに載せた。

マスコットキャラクターのプリントえびせんべいも作った。「地名の今治市から名付けた地域おこしのマスコットのバリィさんは、ゆるキャラの人気投票で全国2位だそうです」。今年の春から半年で8枚入りの箱を1万5千個売っていまも好調だ。

歌う初音ミクえびせん

▲昔ながらの小海老の珍味「えびてつ」 ▲生まれた赤ちゃんの名前と誕生日が入った海老せんべい(見本) ▲地域おこしのマスコット、ゆるキャラも海老せんに。「パリィさん」は愛媛県今治市のゆるキャラ ▲「みくせん」は歌う海老せんだ。電子歌姫初音ミクのテーマソングがダウンロードできる

▲昔ながらの小海老の珍味「えびてつ」 ▲生まれた赤ちゃんの名前と誕生日が入った海老せんべい(見本) ▲地域おこしのマスコット、ゆるキャラも海老せんに。「パリィさん」は愛媛県今治市のゆるキャラ ▲「みくせん」は歌う海老せんだ。電子歌姫初音ミクのテーマソングがダウンロードできる

09年5月に発売した、ネギ入り初音ミク海老せんべい「みくせん」は、歌うせんべいだ。ウェブ上のバーチャルポップシンガー初音ミクの製造元クリプトン・フューチャー・メディアと、コンテンツ制作を高松で手がけるMMAgencyと共同企画した。

ヤマハが開発した音声合成ソフトウェア「VOCALOID2」で動く「みくせん」はテーマソングがQRコードを使ってダウンロードできる。

「老舗のやることではない」との批判もあるが、異業種から引き合いが増えてきた。どこにどんな需要があるか分からない。「出来ませんとは言わない。出来ますと答えて」悩むことが多くなった。

「みくせん」は、インターネットでテーマソングと、包装箱やキャラクターのイラストを募集して開発した。志満秀に誘われて、お客さんも作り手になったのだ。QRコードで情報をもったプリント海老せんべいは新ビジネスのゆりかごになるかも知れない。

島 光男 | しま みつお

1963年 観音寺市生まれ
1985年 神戸国際大学経済学部卒業
1985年 南フロリダ大学付属語学学校に留学
1988年 帰国し志満秀に入社
1989年 専務に就任
2007年 代表取締役社長に就任
写真
島 光男 | しま みつお

株式会社 志満秀(しまひで)

所在地
音寺市観音寺町甲2744-1
TEL:0875-63-2238
FAX:0875-63-2432
設立
1954年
資本金
6150万円
代表取締役社長
島 光男
社員数
98人
事業内容
海老菓子の製造・販売
営業所
岡山、高松
事務所
大阪、東京
沿革
1950年 島秀雄氏(光男氏の祖父)が観音寺市港町で
    有限会社島秀水産を創業
1954年 株式会社設立、社名を「志満秀」に
1955年 小えび珍味「えびてつ」を開発
1958年 「えびせんべい」を開発。三越高松店と取引を開始
1982年 天満屋岡山本店と取引を開始
1984年 徳島そごう、いよてつそごう(いずれも当時)と取引開始
1986年 高知大丸との取引開始で、四国四県の各百貨店と取引成立
1990年~2010年 福岡県、大分県、広島県、大阪府、東京都、千葉県、埼玉県の百貨店に出店
確認日
2018.01.04

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