消費者が買うための組織 地域に不可欠の生協に回帰

コープかがわ 理事長 木村 誠さん

Interview

2012.12.20

生活協同組合コープかがわは2008年、設立以来の危機に瀕した。全国各地の生協が販売した中国製冷凍餃子で、健康被害が発生して信頼が揺らいだ。生協法の改正で収益源だった共済事業が分離されたうえ、固定資産価値の下落を財務諸表に反映させる減損会計制度が導入された。赤字店舗の損失を計上しなくてはならなくなり30億円以上の損失を出した。泣きっ面に蜂、追いかけるようにリーマンショックが襲った。

08年5月、理事長に就任した木村誠さん(52)は事業の立て直しに苦しんだ。

「スーパーと同じ土俵で競争をしてきましたが、間違っていた。生協は消費者が、買うための組織で、売るための組織ではない、と改めて気づきました」

東日本大震災と原発事故の経験は、私たちの消費行動に少なからず影響を与えた。スーパーマーケット業界は昨年度、15年連続の売り上げ減となったが、組合員の出資金で運営する生協業界は前年度に比べ0.7%増えて4年ぶりの増収増益(日本チェーンストア協会1月23日発表と日本生活協同組合連合会9月19日発表)となった。

生協は商品を供給する

男性を対象とし家電製品の職域生協として1966年に設立されたコープかがわは74年、主婦400名が主力となり「おいしい牛乳を飲もう」という香川県を代表する生協になった。

取り扱い品目も増え、80年代のバブル期は業績が二桁ずつ伸びた。94年をピークに少しずつ対前年比は下降線をたどったが、県内の世帯数約39万の半数、19万世帯が加入する組合に大きく成長した。

2008年の業績悪化に続いて09年と10年は供給高を前年に比べ10%ずつ落とした。「このままではコープかがわの将来はない」。本来の姿に戻ろうと考えた。

スーパーは商品を売るが、生協は商品を供給するのだ。スーパーと対抗するために価格ばかりに気を取られたのは間違いだった。組合員の期待も価格だけではなかった。

食材使う情報を提供

昨年、「買う立場の店を目指そう」と職員に呼びかけて方針を変えた。「値段や産地、成分やグラム表示は売るための情報です。それに加えておいしい調理法や組合員の我が家のお気に入り料理など、食材を使うための情報を提供しています」

試食販売も発想を変えた。売りたい商品の試食から、本当にこの商品でよいか、確かめてもらうような試食に切りかえた。

バナナもリンゴも1個から、キャベツは半分から4分の1や8分の1、またはザク切りで売り始めた。単価は下がるが量が少ないから無駄なく使える。そしてまた買いにきてくれるので、来店客が増えた。

減収傾向に歯止めがかかった。11年度の供給高は約200億円で前年比99%。内訳は15店舗ある店舗事業が約93億円、下半期は増収に転じた。「共同購入」と各家庭に配達する「個配」の宅配事業は106億円で、10年に始めた夕食宅配は利用者が当初の2倍以上となり、13年度は事業の柱の1つになり得る1億円を見込めるところまできた。

安心支える宅配夕食

夕食宅配は、カロリーや塩分に配慮した野菜や魚をメーンにしたおかずコースが530円、ご飯付きコースが580円。毎週月曜から金曜まで、毎日自宅に届ける配達料無料のサービスだ。組合員ならだれでも利用できる。

配達のとき留守だったならば、保冷箱も用意されている。翌日食べていない場合は安否確認して、何か異常を感じたら、登録された緊急連絡先へ電話をする。

配達スタッフには、ガソリン代込み1食100円を支払うが、収入目当てというよりボランティアとして、定年退職者や家庭の主婦が参加。なかには夫婦で配達する人も。

「配達すると喜ばれるので、やりがいがある、といわれています」。スタートしたころは約350食だったが1年目に約450食、2年目の今年11月で約830食に増えた。

週5日の日替わりメニューは、飽きないように1カ月ごとに変わる。近い将来、2000食ほどに増えたら、2種類のメニューから選ぶことも可能になる。

現代版「向こう三軒両隣」

▲8月から始めた有償助け合いシステム「おたがいさま高松」のステッカー  ▲高齢者の自宅に夕食を届けるサービスをPRするチラシ

▲8月から始めた有償助け合いシステム「おたがいさま高松」のステッカー

▲高齢者の自宅に夕食を届けるサービスをPRするチラシ

コープかがわの組合員による、地域の人と人を結ぶ新しいサービスが始まった。

今年8月から始めた有償助け合いシステム「おたがいさま高松」だ。困っている人が1時間800円の利用料を支払い、支援者が1時間600円で手伝う。差額200円は運営費に充てる。

このサービスは島根県で始まった。様々な依頼事を引き受ける。食事づくりや庭の手入れ、ペットの世話、七五三の着付けなど、家事や育児や介護応援に関することを電話で受け付け、コーディネーターが事前登録の支援者を調整して紹介する。

「お手伝いをするかどうかを基準やルールによって決めるのではなく、困った人と助けてあげられる人をつなぐことを一番にしています」

島根方式の特色は、今日は依頼者でも、明日は自分が出来ることで支援する側にもなれる点。困った人と支援者が互いに入れ替わることが出来る。

「人のために役立つ充実感を通して、自分が成長できたという声もあります」。困った人を支えることで支援する側も元気になる。

「おたがいさま高松」は、地域の人と人とのつながりで暮らしの問題解決を目指す現代版「向こう三軒両隣」だ。

【 申し込み先 】
「夕食宅配」
フリーダイヤル
0120-4884-16

「おたがいさま高松」
TEL:087-814-4811
FAX:087-814-4812

組合員の暮らしに向き合う

宅配のグループ利用者が数人集まり、近所の空き家の草取りなどをして管理している例もある。空き家が荒廃すると、地域の防犯上よくないので協力し合っているのだ。

「宅配を通して、つながりが生まれ、地域コミュニティーを形成する、というのは、配送の担当者の意識も変わります」。大手スーパーやコンビニ、外食業者も参入してきたが、顔の見える生協の宅配事業は、組合員との人間関係を大きな力にしている。

地域になくてはならない存在……理事長になって5年目、生協の目指す方向を確信した。

「1年目は、何をしたらいいか考える余裕がなかった。これからは、組合員の暮らしに向き合い、薄紙を重ねるように信頼を積み上げて利用者を増やし続けます」

◆写真撮影 フォトグラファー 太田 亮

木村 誠 | きむら まこと

1960年 高松市庵治町(旧木田郡庵治町)生まれ
1984年 岡山大学法学部卒業
1984年 生活協同組合コープかがわに入る
2006年 常務
2008年 理事長
写真
木村 誠 | きむら まこと

生活協同組合コープかがわ

所在地
高松市新北町14-27
TEL:087-835-6800
FAX:087-835-6848
設立
1966年
理事長
木村 誠
出資金
67億6500万円
供給高
199億5600万円
エリア
香川県全域
組合員
191,306人
確認日
2018.01.04

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