新リーグの追い風で どん底から再生へ

ファイブアローズ 社長 星島 郁洋さん

Interview

2015.11.19

バスケットボールには地域を元気にする力がある。そう確信する星島さんは追い風に乗り、もう一度スタートラインからスポーツビジネスの世界に挑んでいく。

Bリーグでバスケ界は変わる

「バスケットボールはマイナーなスポーツです。でもBリーグが出来れば全国的にも注目される。日本バスケが劇的に変わる可能性があると思っています」

日本のバスケットボール界は長年、トップリーグの分裂状態が続いていた。実業団の流れを汲みプロとアマチュアが混在するNBLと、完全なプロ球団でファイブアローズが所属するbjリーグが並立。競技の普及、選手やチーム強化のためにもリーグ統一はバスケットボール界10年来の懸案だった。

サッカーJリーグの初代チェアマン、川淵三郎氏がバスケット界でも改革を主導し、今年、リーグ統一がようやく実現した。Bリーグは1部、2部が18チームずつ、3部が9チームの計45チームで来年9月にスタートし、ファイブアローズはまずは2部で参戦する。

「かつてJリーグが日本のサッカー界を変えたように、バスケットも何としてでもそこへ持っていきたいと思っています」

星島さんは大学を卒業後、経済産業省に入った。世界貿易機関(WTO)が行う多角的貿易交渉の立ち上げや中小企業の金融支援などキャリア官僚のど真ん中を進んでいた。

しかし、入省10年目の2010年4月、突然転機が訪れた。上司に誘われて初めて見に行ったbjリーグの試合。一瞬でその魅力に引き込まれた。

「スピーディーで迫力があって戦略性も高い。会場もお祭りのような雰囲気でとにかく楽しい」

スポーツとエンターテインメントが融合した新たな産業をつくり、日本を元気にすることが出来る。そう確信した星島さんは、その3カ月後には経産省を辞め、当時経営が破たんし後継者を探していたファイブアローズの社長になった。完全な債務超過状態だったが、スポンサー収入の見通しが立っていると聞き、チケット収入やコストカットで借金は5年で返せると踏んだ。
だが、思わぬ落とし穴があった。

もがき続けた5年間

「私も甘かったんです。5000万円のスポンサー収入が決まっているという話でしたが、実際はその3割程度しか無かった。さらに隠れ債務のようなものも次々と出てきました」

社長になってからは、日々お金のやり繰りに追われ続けた。「すみません。返済をもう少し待ってもらえませんか・・・・・・」。頭を下げ、怒鳴られ、またお金を借りに走った。チームに投資するどころか、負債を増やしながら選手やスタッフの給料を払うのがやっとの状態。チームは3年連続でリーグ最下位に沈み、客も入らない・・・・・・「負のスパイラルにはまり、生きていくのも精一杯でした。毎日逃げたい気持ちとの戦いでした」

しかし、逃げ出すことはなかった。「ボロボロのチームでもついてきてくれた選手やスポンサー、ファンの皆さんを裏切ることは出来ませんでした」。そして、こう続ける。「もちろん、一大決心をしてこの世界に飛び込んだ私自身の意地もありました」

何とかして現状を打開したい。泥沼でもがき続ける星島さんの元に届いたのが、新リーグ誕生というビッグニュースだった。

市場は間違いなく有る

10月11日は終盤の逆転劇でホーム開幕2連勝飾った。 黄色のユニフォームが高松ファイブアローズ

10月11日は終盤の逆転劇でホーム開幕2連勝飾った。
黄色のユニフォームが高松ファイブアローズ

新リーグ参戦をきっかけに大手企業とのパートナー契約も決まった。今こそ改革の時だ。星島さんは3つの目標を掲げ、チームにメスを入れる。

 一つ目は「やはりチームが強くないといけません」。コーチ陣も一新して目指す理想のプレースタイルがある。「ラン &(アンド)ガン」だ。殴り合うような激しいディフェンスでボールを奪い、すぐさま攻撃に転じて点を取る。「胸のすくような誰もが楽しめるバスケットです。面白いなあ、すごいなあと思ってもらえるプレーを見せないといけません」

二つ目は集客だ。「アメリカのプロスポーツにはチケットセールスのプロがいて、セールスマンを養成する学校もある。チケットをどうやって売るかをとことん考えて戦略を練る必要があります」

現在ファイブアローズは、1億円を超える債務超過状態にある。観客数は1試合平均約1000人。これが3000人になれば1年で借金は返せるが、「まずは倍増が目標です。2年以内に債務超過を解消したいと思っています」

三つ目の目標には、星島さんの大きな夢が詰まっている。

「世界一のアカデミーを作りたいんです」

社長になってからの5年間は地獄のような日々だったと振り返るが、そんな中でも成果を上げてきた事業がある。小中学生8人からスタートしたバスケットボール教室だ。今では生徒は400人に増え、コーチ陣が熱心な指導を続けている。「プロを目指すならファイブアローズのアカデミーだと子どもたちが目指してくれるような場所にしたい。地域をあげて子どもたちを育てていくような育成型のクラブチームにするのが一番の目標ですね」

スポーツの種目別の競技人口はバスケットボールが世界で最も多く約4億7000万人、2位はサッカーで約2億4000万人、日本で人気の野球は1200万人だという。星島さんはこれらのデータを示しながら、プロ野球、Jリーグ、それにBリーグが将来の日本のプロスポーツを牽引していくと力を込める。「まだ成熟していないだけで、バスケットボールの市場は間違いなく有ります」

キャリア官僚からスポーツビジネスの世界へ飛び込んだ。その人生の選択に後悔は全くないと話す。「子どもの頃、バスケットボール部に入らなかったことの方が後悔しています。マンガのスラムダンクも好きだったのに、何でこんなに楽しいバスケットをやらなかったんだろう」と笑う。

「しっかり球団を立て直し、負債も一刻も早く返済し、夢のある魅力的な球団として地域に貢献していきたいですね」

星島 郁洋 | ほしじま いくひろ

1976年 岡山市生まれ
2001年 京都大学法学部 卒業
    経済産業省 入省
2007年 中小企業庁金融課課長補佐
2010年 経済産業省 退職
    ファイブアローズ 代表取締役
写真
星島 郁洋 | ほしじま いくひろ

株式会社ファイブアローズ

住所
高松市国分寺町国分901−1
TEL:087-813-7120
FAX:087-813-7121
設立
2005年(株式会社スポーツプロジェクト高松として)
資本金
1億円
事業内容
プロバスケットボールチームの運営
2015−16シーズン
4勝8敗(西地区12チーム中10位・11月8日現在)
《レギュラーシーズン成績》
2006−07 3位(8チーム)
2007−08 2位(西地区5チーム)
2008−09 3位(西地区6チーム)
2009−10 7位(西地区7チーム)
2010−11 9位(西地区9チーム)
2011−12 9位(西地区9チーム)
2012−13 9位(西地区10チーム)
2013−14 7位(西地区10チーム)
2014−15 8位(西地区10チーム)
確認日
2018.01.04

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