
ともに再スタートを切った社員らと。最前列が徳田さん=高松市藤塚町の穴吹工務店本社
「普通なら親会社からトップが送り込まれてくるので、『社長になれ』と言われた時は驚きました。社員もびっくりしたでしょうね」
徳田さんが掲げるのは、オーナー企業だった穴吹工務店の体質改善だ。マンション分譲に特化して一から十まで全てを自社で行ってきたこれまでの手法からの大転換を試みる。
「柔軟な発想で、他社とも積極的に関わっていく。それが一番重要だと思っています」
ともに困難を乗り越えてきた社員達に、やりがいや喜びを感じてもらいたい。その思いを胸に徳田さんは、新生穴吹工務店の舵を取っていく。
新規事業と他社とのコラボ

昨年10月、高松市藤塚町に「かがやきの季(とき)栗林公園」が完成した。穴吹工務店が初めて手掛けたサービス付き高齢者向け住宅だ。6階建てで総戸数は60戸。訪問看護や通所介護の事業所のほか、クリニック、ドラッグストアなどの施設やサービスがワンストップでそろっている。24時間体制で看護師が常駐し、要介護5までの60歳以上の高齢者を対象に賃貸する。
施設の運営は介護や医療の専門業者が請け負い、「良好な関係が築ける運営業者さんを開拓し、地方都市を中心に広く展開していく計画です」
高齢者向け住宅への進出と、他業者とのコラボレーション。これが、徳田さんが導入した新生穴吹工務店の新たなやり方だ。
「これまでは外部との関わり合いが少なく、自由な発想や柔軟性がありませんでした。だから、新しいビジネスが生まれてこなかったんです」
強みが弱点でもあった
用地の仕入れ、建設、販売、アフターサービスなどマンション分譲に関わる全てを自社で行うことで、高品質な商品を安定的に供給していた。しかし、他社の手を借りない徹底した自社一貫体制は、業界内では極めて珍しいやり方だった。時に外部環境に鈍感であったり、鎖国状態などと揶揄されることもあった。
マンション供給戸数でトップに立ったとはいえ、マンションを作って、売って、回収しての繰り返し。日本一を喜ぶ暇もなく、次の仕事がまた追いかけて来る。アイデアを出し合う余裕もなかった。
当時、徳田さんは財務本部副本部長も兼務していた。元々、借入依存の高い企業体質で、会社が日に日に弱っていくのは手に取るように分かっていた。悪化する資金繰りを何とかしようと銀行を回って頭も下げた。「会社の行く末が見えない。この先、会社がどうなるのかという不安感はずっとありました」
そして、「全速力で走っていたところで、急に息の根を止められた感覚でした」。09年、穴吹工務店は1400億円の負債を抱え経営破たんした。「マンション以外のもので稼いで何とかしのげないものかとも思いましたが・・・・・・何もないんです。何十年も商売を続けているのに、なぜ未だに分譲マンションしかやっていないのかと、当時はよく考えていました」
リーマン・ショックで悪化した経済環境、景気低迷による消費者の購買意欲の減退、用地取得費や建築費の上昇・・・・・・破たんの原因は様々あったが、サーパス一本やりで、全てを自前で完結させる固定化した手法が、穴吹工務店最大の強みであり、同時に弱点でもあったと徳田さんは振り返る。
他社と知恵を出し合って
自社一貫体制がウリだった穴吹工務店は、「他社との関わりを持たず、請負をしない会社」と言われていた。しかし今では、他社と共同で工事を受注することもあれば、設計や施工など工程の一部を請け負うこともある。「以前は『社内ノウハウの外部流出なんてまかりならん』という考え方でした」。しかし、他社と関わることでいろんな発見がある。社員も多くを吸収し、一つの現場が終われば成長して帰ってくる。「他社と協業して知恵を出し合うことでビジネスの幅も広がっていきます。現在まだ8割を占めている分譲マンション事業の比率も今後下げていくつもりです」
数ではなく質を追う

高齢者住宅第1号プロジェクト「かがやきの季(とき)栗林公園」
来年竣工予定の分譲マンション「サーパス昭和町一丁目」
「頑張れば立ち直れると思ったんです。今いる社員は、そう信じた人間ばかりでしたから」
社長になり、「数を追いかけるのはやめて、質を追いかけよう」と心に決めた。社員らには自由な発想を求めるようにした。「こんなデザインを考えましたと、設計担当の社員が延々とプレゼンするんです。思いがいっぱい詰まっていて、そのまま販売トークに使えそうな熱いコメントが次々と出てくるんですよ」。徳田さんはうれしそうに話す。
入社した1984年、最初に配属されたのは、開設したばかりの東京支店だった。当時関東で穴吹工務店の認知度はゼロに等しく、用地仕入部門で新規開拓に駆けずり回った。
3年後、サーパスの関東第1号物件を手掛けた時、お客さんにこう言われた。「穴吹の名前は知らないけれど、しっかりしたものを作っている」。商品を認めてもらえたことが何よりもうれしかった。「お客さんに信用してもらえる商品を作る。会社を取り巻く環境は変わりましたが、ものづくりの精神だけは、今も変わらない穴吹工務店のDNAだと思っています」
三大都市圏など都市部に強い大京との棲み分けで、今後は地方都市が穴吹工務店の主戦場となる。「地方には空き家や空き地も多く、活用できそうな土地もたくさんある。地域に密着して需要を掘り起こしていきます」
そして、目指していく会社像についてこう語る。
「社員が満足できる会社にしたい。社員が満足すれば、お客さんも満足してくれる。そこが穴吹工務店再出発の原点だと思います」
編集長 篠原 正樹
徳田 善昭 | とくだ よしあき
- 1960年 高松市生まれ
1984年 成蹊大学経済学部 卒業
穴吹工務店 入社
2008年 取締役 関東支社長
2009年 取締役 東日本支社長 兼 財務本部副本部長
2010年 取締役 事業本部長
2013年 代表取締役社長
- 写真
株式会社 穴吹工務店
- 住所
- 高松市藤塚町1丁目11番22号
TEL:087-835-7111
FAX:087-835-7222 - 資本金
- 25億円
- 事業内容
- 不動産開発、不動産販売、建設請負
- 従業員
- 455人(2016年4月1日時点)
- 支店
- 東北、北関東、東京、信越、静岡、名古屋、北陸、四国、岡山、広島、福岡、南九州
- 地図
- URL
- http://www.anabuki.co.jp
- 確認日
- 2018.01.04
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