“代替品”から“健康食品”へ 新工場で挑む販路開拓

高畑精麦 社長 高畑 光宏さん

Interview

2020.09.17

玄米の3倍、白米の20倍

高松自動車道を西へ走ると目に入ってくる巨大看板。善通寺市の高畑精麦は、米を精米するのと同様、大麦を焼酎やビール、みそなどの原料用に“精麦”する大麦加工メーカーだ。大手ビールメーカーなど、取引先は西日本を中心に全国に広がる。水分やデンプン、タンパク質の含量など顧客によって細かく異なる注文に、正確に丁寧に「個別オーダーメイド」で応えるのが高畑精麦のやり方だ。「目指すべき目標はまだまだ先ですが、品質ではどこにも負けていないと思っています」と4代目社長の高畑光宏さん(55)は胸を張る。

今、新たな挑戦の真っただ中にいる。これまでは焼酎・みそなどの醸造メーカー向け商品が売上の8割を占めていたが、「ここ数年は市場が飽和しつつある状況です」。そこで目をつけたのが近年の健康志向ブーム。大麦に含まれる食物繊維は、玄米の3倍、白米の20倍とされ、「お米にはないビタミンも摂れます」。高畑さんはお菓子や総菜の原料として売り込もうと、加工食品メーカーを新たなターゲットに設定。2億円をかけて新工場をつくり、今年7月に本格稼働させた。大麦には大敵の、害虫の発生を防ぐなど最新式の設備を備え、「将来的には、今1割ほどの加工食品メーカーとの取引を3割まで伸ばしたい」と目を輝かせる。「かつて大麦は、貴重だった白米の代わりとして扱われていた時代もあった。でも“代替品”ではなく“健康食品” として認知されてきたという、はっきりとした手ごたえを感じています。成長しつつある新たなマーケットに積極的にアタックしていきます」

老舗企業を継ぐ覚悟

7月に本格稼働した新紙袋製品包装工場  =善通寺市吉原町の高畑精麦本社

7月に本格稼働した新紙袋製品包装工場

=善通寺市吉原町の高畑精麦本社

高畑精麦の創業は明治21(1888)年。旧陸軍第11師団(現陸上自衛隊善通寺駐屯地)に、麦や雑穀を納めたのが事業の始まり。実に132年の歴史を刻む県内有数の老舗企業だ。

高畑さんは大学を卒業後、東京の大手食品メーカーで29歳まで勤め、1994年、代々続く家業に入った。「長男なので『やっぱり私が継ぐのかな』程度の感覚で、明確な強い意思はなかった。少し甘く考えていたのかもしれません」

帰郷して間もない頃、融資元だった銀行の支店長に「高畑くん、ちょっといいかな?」と声をかけられた。一緒に向かったのは近所の寺院。ずらりと並んだ石碑には寄進した地元企業の社名が彫られていた。「どう思う?」と尋ねられ、はっとした。聞いたことのある社名ばかり……だが、そのほとんどがすでに会社を畳んでいた。「生き残るというのは大変なことなんだ。継ぐと決めたのなら、覚悟しないといけない。そう気づかされました」
会社が持つ歴史と伝統について「あまり重く考えないようにしています」。でも、「先人の方々の積み重ねてこられた努力のおかげで今があります。その感謝を胸に、社員や取引先様をハッピーにしていく。それが私の使命だと思っています」。高畑さんの長男は今、大学生。「もし、その時が来たとしたら、あの石碑がある場所に連れていくのかもしれませんね」と笑顔で話す。

この地に大麦で恩返し

精麦した丸麦と「ISO22000(食品安全)」の登録証

精麦した丸麦と「ISO22000(食品安全)」の登録証

新工場をつくり、「さぁこれからだ」と意気込んでいたところ、コロナ禍に見舞われた。全国から新規・既存の食品メーカーを招き、工場の性能や新商品をアピール。販路を開拓していくという青写真を描いていた。「まさか、という感覚でした。でも仕方ない。まずは既存のお客様にメールや電話、オンラインでしっかり説明する。できることからコツコツやっていきます」

高畑さんが心に掲げる信念は「不屈の精神」。過去にも、工場内で起きた社員の不慮の事故、顧客との大きなトラブルなど、何度か「思いがけない事態」に直面してきた。でも決してあきらめず、できることに真摯に取り組み、「しのいでいくしかありませんから」と前を向く。

香川は、大麦の一種「はだか麦」の全国2位のシェアを誇る産地だが、「休耕田が増え、緑豊かだった景色が変わってしまった。これでいいのかなと思うことがあります」。100年以上も会社を続けられたのは、ふるさとのおかげ。なんとかして貢献したい、と高畑さんは繰り返す。「そのためにも、もっとしっかりした会社にならなければならない。大麦を通して、この地に恩返しをしていく。それが私の大きな目標です」

取材を終えて

今回の取材には、就活中の南條太志さん(香川大農学部3年)も同行。「経営する中で一番うれしかったことは何ですか?」など高畑社長に次々と質問しました。南條さんが「とても明るい方ですね」と問いかけると、高畑社長は「明るくないと人は一緒にいてくれません。社員を採用する際も『明るさ』や『笑顔』は大きなポイントですね」と笑っていました。
高畑社長(左)に質問する南條太志さん

高畑社長(左)に質問する南條太志さん

篠原 正樹

高畑 光宏|たかばたけ みつひろ

略歴
1965年 善通寺市出身
1984年 丸亀高校 卒業
1988年 明治大学商学部 卒業
     株式会社J-オイルミルズ 入社
1994年 株式会社高畑精麦 入社
2006年 代表取締役社長

株式会社高畑精麦

住所
香川県善通寺市吉原町2392-1
代表電話番号
0877-62-2323
設立
創業1888年2月15日
事業内容
精麦・飼料製造業、小麦粉・製麺販売業、倉庫業 他
資本金
4,000万円
従業員数
30人
地図
URL
http://www.takabatake.co.jp
確認日
2020.09.10

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