食品加工メーカーは「命の運び人」

山清 代表取締役社長 山下 清次郎さん

Interview

2009.08.20

グローバル化が「食」の工業化をもたらした。ファストフードが世界を席巻する。「食」の外部化が進む。調理や後片付けの手間を少なくしたいと「調理済み食品」に頼る人が増える。飽食の日本に、偽装表示が後を絶たない。
「自然界に存在しない添加物は加えない。自分が食べたくないものは作らない」。からしと豆の加工メーカー(株)山清は、有機認証制度が始まる10年以上前から、有機食品の製造、販売を始めた。加工の難しい豆類を粉末化して、小麦粉に代わる食材を開発、農家と連携して国内産からしの試験栽培にも取り組んでいる。
3代目社長の山下清次郎さん(65)は、農家と消費者を結ぶロハスなフードチェーンづくりに挑戦する。

※(有機認証制度)
2000年6月に施行されたJAS法で、有機食品の検査、認証制度が始まった。

※(ロハス)
Lifestyle Of Health And Sustainabilityの略。健康や環境問題に関心の高い人々のライフスタイル。

有機食品市場を広げたい

1967年、山下さんは大学を出てすぐ父の会社に入った。「当時はスーパー向けを中心にやっていましたが、父から経営を引き継いだ兄の清文も私も、安心、安全を目指そうと、国産原料への切り替えや、農薬や化学肥料の少ないものへ、有機原料へと移行させました」
業界では取り組みがいちばん早かった。からし、だんご粉、きな粉など、有機JAS承認を取った。小豆あんに使う砂糖は、日本に有機がないから輸入した。

有機食品の市場は小さい。「フランスやドイツで7~8%、アメリカで3~4%といわれていますが、日本は0.2%です。誰かがやらないと日本の有機市場は広がりません。自惚れではありません。食品加工メーカーとしての使命だと思っています」

有機食品で売り上げが減った

値下げ競争で生き残りを図るスーパーは、いま、売れるものを大量に扱う。「原料にこだわった商品も、売り上げに結びつかないと置いてくれません。お客さんが、明日、欲しくなる商品はスーパーにありません」
販路を、インターネットや専門店に求めた。「きっかけは有機小豆のあんこです。普通のつぶあん(6号缶)は150円ですが、450円でも東京では売れました」

お客様は神様ではない。「加工でんぷんや添加物などを使った食品が市場にあふれています。子どもが甘いお菓子を欲しがるのと同じように、うまみ成分を加えた食品が好まれて、露地もの野菜の味やにおいが嫌われます」。悪貨が良貨を駆逐する…食品業界の市場原理も同じだという。
ピーク時の2000年に11億円あった売り上げが、有機食品に軸足を移して、6億5000万円に減った(2008年度売り上げ)。
「2代目社長のおかげで無借金経営ですが、有機だけをやるわけにはいきません。やれる範囲で継続します」

※(加工でんぷん)
天然でんぷんに物理的、化学的処理を施した機能性でんぷん。2008年10月から食品添加物に指定された。厚生労働省では「食品添加物として適切に使用される場合、安全性に懸念がないと考えられ、一日摂取許容量を特定する必要はない」という見解を出している。

有機を味わえる古民家

このままでは有機の市場は増えない。健康な食品本来の味を知ってもらおうと、「山清」の食材を使った料理とスイーツを出す食事どころ「古民家」を始めた。
「古民家」は、古い農家の廃材を集めて、1人の大工さんが2年がかりで建てた田舎家だ。「メニューは、地元の郷土料理をアレンジしたランチで、肉や魚はほとんど使いません。それに豆の粉を使ったチョコレートやケーキと、玄米コーヒーや小豆茶が付いて千円です」

古民家を訪れたお客から、地元の食文化の情報が集まった。「この辺りは、近年になって川魚や煮干しも使いますが、昔からだしはみそ味で昆布は使いません。うどんも今とちがって団子汁で、唐辛子ではなく、からしで食べていたそうです」

※(唐辛子)
ナス科の果実。果実そのものに辛みがある。

※(からし:芥子)
アブラナ科の種子。種子の粉末に水を加えると辛みが生まれる。

からし栽培の復活

創業以来のブランド品「鬼からし」の原料はカナダ産だ。「聖書にもあるように、からしは2000年も前から世界中で栽培されていました。ほとんどなくなってしまった国産を復活させようと、会社の試験農地と委託農家で栽培ノウハウを研究しています」
からしは、種をまいて収穫するだけで手間があまりかからない。社員が兼務で栽培出来る。「昔この辺りでもからしを緑肥にしていました。社員は近くの農家の人が多いから、親に聞けば栽培方法は分かります。中山間地の作物としても、有望だと思います」。

※(緑肥)
栽培している植物を堆肥化せず、そのまま田畑にすきこみ、後から栽培する作物の肥料にすること。

※(中山間地)
山間地及びその周辺地域の農業の生産条件が不利な地域。

豆の粉が食糧危機を救う

豆類はそのまま食べるより、粉末にすると利用範囲が広がる。穀類も小麦は小麦粉にしてパンやめんになる。トウモロコシはコーンスターチをつくる。米も上新粉や白玉粉に、台湾や中国南部はビーフンにする。

しかし豆類は、粉末製品が食材としてあまり利用されていない。「豆の加工は厄介で、大豆やピーナツは油分が多いし、シアンを含む豆もあります。豆の粉末化、無毒化の技術は、きな粉や晒しあんぐらいで、世界であまり例がありません。『金時あん』にはその技術が凝縮されています」
小麦と違ってアレルギー物資を含まない豆を、小麦粉の代用にと、豆の加工調理技術を応用して開発したのが「豆っ粉」だ。小麦より過酷な条件で育つ豆類は、病虫害にも強く山間部や高地で栽培できる。飼料がいらないし水もお天気任せで、根は窒素と同化して土地が肥える。

「耕地面積には限りがあるので、人類の急増に食糧生産が追いつかなくなります。すでに世界の穀物需要は窮迫していますから、小麦や米、トウモロコシを補う作物として、世界で注目されるでしょう」

※(シアンを含む豆)
製あん原料に限って輸入が許可される。あん製品は勿論シアンは不検出。製あん工場は法律の定める「特定施設」に該当し、基準に合った設備でないとあんの製造はできない。「晒す」とは、渋味・苦味を取り除くことで、それ以上にシアン化合物の除去が必須条件となっている。

命の運び人

「人は一本の草も作り出せません。命を支える農産物は農地から生まれます。農地は農家と消費者の聖地です。食品加工メーカーは、農家から消費者への『命の運び人』です」。山下さんのエネルギーの源泉はこの信念だ。
健康な農産物を出来るだけ安く、農家から消費者へつなぐフードチェーンを作る。山下さんにとって、それは、食に携わる者の使命だ。

「鬼からし」の由来

山下さんの両親は、香辛料の会社(ハウス食品)に勤めていたとき社内恋愛で結婚、会社を辞めて商売を始めた。
「社長さんの好意で、会社から仕入れた原材料の支払いを半年先に延ばしてくれました。半年間の売上金が自由になって、資金繰りに苦労もせず、順調にスタートできたそうです」

増量のために香辛料に混ぜ物をする…戦前の日本では半ば常識だった。「クリスチャンだった2人は、聖書に『天国はからし畑のようだ』と説かれているのに、商品のからしに混ぜものは出来ません。それが100%混ぜものなしの、鬼もびっくりするほど辛い『鬼からし』の由来です」

「食べ物を金もうけの対象にしてはいけない」という両親の信念が、3人兄弟に引き継がれた。「長男は清文、弟は和清と言います。兄が父から2代目を継いで、私は3代目で弟が専務です」

取材が終わって古民家で専務の和清さんに紹介された。「食品は、コストを下げて利益を出来るだけ出すという事業ではありません。自然の営みと同じで、継続こそが最大の目的です」。和清さんと清次郎さんの使命感には、寸分の違いもなかった。

山下 清次郎 | やました せいじろう

略歴
1944年 綾歌郡綾川町生まれ
1967年 日本大学農獣医学部食品工学科卒業
    山清入社
1998年 代表取締役社長就任

株式会社山清

住所
香川県綾歌郡綾川町山田下3465-3
代表電話番号
087-878-2231
設立
1960年12月3日
社員数
36人(2018年10月現在)
事業内容
スパイス、あん、穀粉の製造販売
資本金
5000万円
地図
URL
http://www.yamasei.jp
確認日
2018.11.15

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