野球から何を学び、生徒に何を残せるか

香川県高等学校野球連盟/理事長 福井博三さん

Interview

2021.08.05

レクザム ボールパーク丸亀(丸亀市民球場)

レクザム ボールパーク丸亀(丸亀市民球場)

生徒の工夫が光るコロナ禍の野球大会

小学生の時、文集に書いた将来の夢は「学校の先生か、プロ野球選手になる」だった。高松東高校で体育科教員として働く福井博三さん(48)は、香川県高等学校野球連盟(香川県高野連)の理事長を務める。全国高等学校野球選手権香川大会の運営をするのが、香川県高野連。大会優勝校が、全国大会のいわゆる「甲子園」に出場する。

昨年4月、コロナ禍の中、福井さんは理事長に就任。「全国大会がない状況で、高校球児のためにどんな大会ができるかを考えました」。「香川県高等学校野球大会」として開催し、観客は選手の家族に限定した。今年もコロナ禍は終息の兆しが見えず、全国大会の開催は決まったものの、香川大会の運営には頭を悩ませた。野球部以外は、応援部や吹奏楽部などに所属する生徒が応援に参加。楽器演奏は飛沫防止のため、打楽器に限定。一般客も入場可能だったが、球場の観客収容数の3分の1までに制限した。「各校、工夫して応援してくれました。高松工芸高校は楽器を手作りして、事前に動画を送ってくれて。ここまで頑張ってくれるとは……」

7月に香川県大会は閉幕。8月9日(月)に、兵庫県西宮市の阪神甲子園球場で全国大会が始まる。「香川の代表である高松商業高校には胸を張って出場し、はつらつとプレーしてほしい」

不完全燃焼と補欠の経験が原動力

高松工芸高校は、生徒会と応援団、 吹奏楽部が協力して打楽器を手づくりし、選手にエールを送った

高松工芸高校は、生徒会と応援団、
吹奏楽部が協力して打楽器を手づくりし、選手にエールを送った

小豆島出身の福井さんは、小学3年で野球を始めた。小豆島高校に進み、野球部でのポジションはピッチャー。3年生の時の春の大会が好成績で、メディアからも注目された。「取材もたくさん受けて、いい気になっていたかもしれません。一方でプレッシャーもあり、夏の県大会ではベスト16。不完全燃焼でした」。野球部の監督になりたいという思いが芽生えたのは、この頃だという。

大学進学後も野球を続けたが、大学生になって初めて補欠を経験した。「それまではただ楽しいだけで野球をしていましたが、補欠になったことで、試合を客観的にみられるようになりました」。一点をかけた、緊張が走る試合……。野球の本当の面白さを知った。

卒業後、母校の内海中学校で講師として働き始めた。講師3年目は坂出高校に勤務し、野球部の指導にも加わった。当時の監督からは、試合をどう進めていくのか、高校野球のセオリーを学んだ。その後、プールの指導員を経て、2001年に香川県の高校教諭として採用された。

善通寺第一高校で9年、津田高校で10年、野球部の部長や監督を務めた。「それぞれの学校で、いろんな指導者に出会えた。善通寺第一高校では、野球選手の前に1人の生徒であり、人間性が大事だと教えてもらいました」。津田高校では生徒から得た気づきも大きかった。ある日、部員が集中していなかったため、その日の練習を中止して帰宅を促した。すると上級生はそのまま帰ったが、1年生は練習させてほしいと言って残った。その1年生たちが3年生になった時、大会でシード校を破る大金星をあげた。

「それまでは、自分が生徒に教えるんだ、『ついて来い』という気持ちだった。でも、自分の考えを持って行動する生徒を尊重して、待つことも大事だと気付かされました。私も生徒のおかげで成長できました」

福井さんが、心に留めている言葉が二つある。一つは、大阪・PL学園の野球部監督だった中村順司さんの「球道即人道」。もう一つは、1995年の選抜高等学校野球大会で優勝した、観音寺中央高校の監督だった橋野純さんのものだ。橋野さんがその後に勤めた学校で、野球部が試合に負けて生徒が泣いていた。橋野さんは「たかが高校野球やないか。泣くな」と声を掛けたという。

「やり抜いた人だからこそ言える言葉だと思いました。自分もそう言えるくらいやり抜きたい。高校生にとって、生活に占める部活のウェイトは大きい。野球を通じていろんなことを学んでほしい。人と出会い、そこから何を学ぶか、生徒に何を残せるか、いつも考えています」

一人ではできないからこそ

香川県高野連としては、全国で勝てるチームを育てることと、野球の普及活動に力を入れていく。高松市内では、今年、野球部に入った1年生が10人未満の高校が複数あった。部員数が、ベンチ入りできる20人に満たないチームもあるという。「少子化やスポーツの多様化によるものだと思います。でも、子どもたちには協調性や社会性を身に付けながら楽しめる野球に興味を持ってほしい。一人ではできないものですから」

監督として生徒を甲子園に連れていくという目標は実現できていないが「若手指導者の育成もやっていかないと。いろいろと気が付く若手が多いので、生徒の変化にも敏感に気付けるいい指導者になってくれると感じています。選手の能力を引き出し、伸ばすのが指導者の役割ですからね」

鎌田 佳子

福井 博三|ふくい ひろみつ

略歴
1973年 小豆郡内海町生まれ
1992年 小豆島高校 卒業
1996年 福岡教育大学 卒業
2001年 香川県の高校教諭として採用
2020年 香川県高等学校野球連盟 理事長 就任

香川県高等学校野球連盟

住所
香川県高松市高松東高会館内
代表電話番号
087・814・5827
地図
URL
http://kagawa-hbf.la.coocan.jp/
確認日
2021.08.05

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