「瀬戸内国際芸術祭」は、どんな目的で始まった?

ビジネス香川編集室

Special

2022.05.19

【写真提供】瀬戸内こえびネットワーク

【写真提供】瀬戸内こえびネットワーク

離島ににぎわいを取り戻すために――

少子高齢化、人口減少、産業衰退は多くの地方都市が抱える課題だが、瀬戸内の島々では状況はより深刻だ。香川県は、企業誘致や離島航路の運営補助金、移住促進といった施策を進めてきたが、なかなか課題解決には至らなかった。そんな中、「観光振興」の観点から香川県が注目したのが「芸術祭」だった。

当時すでに、直島では1992年の「ベネッセハウス」オープン以来、ベネッセ・福武財団が「島とアートの共生」に取り組んでおり、直島全体を舞台にした芸術祭の開催や瀬戸内の島々をアートで結ぶプランを策定する一方、県の若手職員からも瀬戸内海の島々を舞台した芸術祭の提案があった。

こうした中、ベネッセ・福武財団の福武總一郎氏と、新潟・越後妻有の「大地の芸術祭」アートディレクター・北川フラム氏が出会い、そこに香川県ほか地元自治体が一緒に加わることで、2010年の第1回瀬戸内国際芸術祭の開催につながった。

経緯の詳細=瀬戸内国際芸術祭HP : https://setouchi-artfest.jp/
「知る」→「これまでの歩み」→「2010年度」→「総括報告書」参照

地域の資源をどう生かす?

地域活性化を進める上でよくいわれるのは、「地域独自の資源を熟知して、それを活かすこと」。もともと日本初の国立公園に指定された瀬戸内海の島々には美しい自然、古代より培われてきた文化、温かい人々との交流など素晴らしい資源があった。ただ、それだけでは人を呼ぶきっかけにはなりづらい。そこに「アート」という要素が加わったことが大きかった。

作品の質が圧倒的に高いことはもちろん大事だ。加えて、島の風景や人々の営みの中にアートを置き「そこでしか見られない作品」にしたことで、アート目当てに島々を訪れた人たちが、自然や人々との交流といった魅力を知ることになった。

弱みが“おもしろい”に変わった

2010年当時、離島へのアクセス、島内を巡る交通、飲食店、宿泊施設といった体制は十分ではなかった。しかし、その状況を「船もバスがなかなか来ない、食べるところもない……でも楽しかった」とおもしろがるツイートが拡散された。

ツイート発信は主に首都圏から訪れた若年層の女性たち。便利が当たり前、効率優先の日々を過ごす彼女たちにとって、島での経験は非日常で新鮮だった。その口コミが広がり、新たな客層も訪れるようになった。

本当の地域活性化ってなんだろう

2010年以降、3年ごとに開催される瀬戸内国際芸術祭。来場者も年々増え、経済波及効果は180億円(HP内2019年度版総括報告書より)という試算もある。国内外のメディア、SNSでも発信され世界での香川の認知度は高まった。芸術祭をきっかけに、離島で少しずつ飲食店や宿泊施設ができた。移住者が増えた島もある。離島以外の県内観光地への流入も増えた。

ただ、数字だけでは測れないこともある。来場者が印象に残ったこととして「地元の人とのふれあい」を挙げる人が多かった。実際、ある島のおばあちゃんが120円で買ったジュースを箱に入れて冷やし100円で売っていたというエピソードがある。理由は「家の前を通る観光客とおしゃべりするのが楽しいから」。

自分が住む場所への愛着を取り戻し、自発的に行動を起こすようになった。数字では見えないことも、地域活性化の効果を考える上で忘れてはいけない。


WSワークショップ

●住んでいる地域を活性化するとしたら?
●どういう結果になったら、活性化できたと考えますか


【取材協力:香川県漆芸研究所所長・古川京司さん、観光振興課課長補佐・今瀧哲之さん】2010年、瀬戸内国際芸術祭の第1回開催時に県観光交流局瀬戸内国際芸術祭推進室に所属、香川県側の中心メンバーとして関わる。
【写真提供】瀬戸内こえびネットワーク

記事一覧

おすすめ記事

メールマガジン登録
メールマガジン登録
ビジネス香川Facebookページ