香川のキウイフルーツ、オリジナル品種の数は日本一 そもそも「ブランド化」を進める理由は ?

ビジネス香川編集室

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2022.09.15

背景に「担い手不足」がある

食の安全と品質のよさから「国産」農作物への信頼度は高い。しかし、その国産を生産する基幹的農業従事者数は減り続け、香川でも2010年からの10年間で29%も減少、平均年齢は71.3歳となっている(農林水産省「農林業センサス」より)。新規就農するには、農地の確保や初期費用投資などハードルが高いわりに、収益を上げるのが難しいというイメージも、担い手不足の原因の一つとなっている。

県では担い手不足解消のため、就農準備資金の交付や相談窓口設置、農地の借り手と貸し手のマッチング事業などの施策を行っている。「ブランド化」はその一つである。ブランド化することで、農作物(商品)の価値が上がれば収益につながる。香川だけのオリジナル品種を開発してブランド化することで、“儲かる農業”を推進し、就農者の増加につなげるという狙いがある。

柑橘類に代わる特産品で、差別化を目指せ !

香緑(こうりょく) エメラルドグリーンの美しい果肉色と、高い糖度が特徴

香緑(こうりょく)
エメラルドグリーンの美しい果肉色と、高い糖度が特徴

商品の収益力アップがブランド化を進める主な理由だが、そこに至る最初の段階、「品種改良・新品種開発」のきっかけは、品目によって様々だ。日本一のオリジナル品種数を持つ香川の「キウイフルーツ(以下、キウイ)」の場合は、1988年の牛肉・オレンジ輸入自由化だった。

温暖な気候の香川では従来、柑橘類の生産が盛んだったが、温州みかんの価格が低迷した時期に、代替品種の一つとしてキウイが導入された。その後、牛肉・オレンジの自由化により、さらなる経営悪化が予想される中、柑橘類に代わる主力品目の育成が急務となった。

そこで当時、海外の品種がメインだったキウイに着目し、香川にしかないオリジナル品種の開発が始まった。10年ほどの年月をかけてまず誕生したのが糖度の高い「香緑(こうりょく)」。京阪神や東京の百貨店、高級果実専門店で1個1,000円ほどの高級フルーツとして注目された。
さぬきゴールド 世界最大級の大きさと黄金色の果肉が特徴。糖度も高い

さぬきゴールド
世界最大級の大きさと黄金色の果肉が特徴。糖度も高い

続いて、世界最大級の大きさと黄金色の果肉が特徴の「さぬきゴールド」や、実が小さくブドウのように果肉を押し出して食べられる「さぬきキウイっこ®」などを開発。品種ごとに際立つ特徴をもたせ、消費者の多彩な要望に応えながら全体で「キウイといえば香川」といわれるよう産地化を進めた。

現在、キウイの県オリジナル品種は10品種。健康志向、温暖化など嗜好や時代の変化に合わせて、それぞれの品種を少しずつ改良し続けている。

品種開発だけでブランド化は完成しない

さぬきキウイっこ® 糖度17~20度と非常に高く小粒。 手で割って食べられるのも魅力。学校給食でも人気

さぬきキウイっこ®
糖度17~20度と非常に高く小粒。
手で割って食べられるのも魅力。学校給食でも人気

オリジナル品種が開発され、名前がついたらブランド化ではない。消費者に広く価値を知ってもらい、毎年のように購入してもらえるようになって初めてブランド化といえる。それには販売戦略、PRが欠かせない。

「香緑」や「さぬきゴールド」は東京や京阪神の百貨店、高級果実専門店で販売し高付加価値を訴求。「さぬきキウイっこ®」は県内の学校給食で提供するなど、県内外で認知度アップを進めてきた。また、香川県ではキウイをはじめ県オリジナル品種を中心とした果実で、認定生産者が栽培し、糖度など一定の品質基準を満たしたものを「さぬき讃フルーツ」として推奨している。対象品目にはロゴマークを付けて販売。香川の高品質な果物をPRするとともに、ブランドとしての品質安定化、信頼獲得にも努めている。
さぬきエンジェルスイート 成熟すると果肉中心がリング状に赤く色付く。 キウイ特有の刺激が少ない

さぬきエンジェルスイート
成熟すると果肉中心がリング状に赤く色付く。
キウイ特有の刺激が少ない

これらの取り組みで、2010年から20年の10年間で果実の産出額は19億円の増加(38%増)(農林水産省「生産農業所得統計)となり、県はブランド化の進展も理由の一つと分析。また、香川でしか栽培できないオリジナル品種のキウイ農家を希望し、移住する若者もいるという。

大阪から就農した深井稔さんは、同級生の山田唯可さんとともに香川のキウイ農家に弟子入り。3年の研修を経て現在は、JAに出荷するほか自分たちの屋号「深山キウイ」として、ネットなどでなどで販売している。

栽培している品種は、香緑、さぬきゴールドなど。「オリジナル品種は分からないことも多いですが、高い品質のキウイをつくるために試行錯誤しています」。異常気象や木の病気など思い通りにならないことも多いというが、「それを含めて農業には魅力がある。いいキウイが育った時の嬉しさは格別です」と話す。
香粋(こうすい) 一口サイズでブドウ並みの甘さが魅力

香粋(こうすい)
一口サイズでブドウ並みの甘さが魅力

研究機関の環境で開発された品種を、実際の農地で育成するには工夫が必要だ。ブランド化は、そんな生産者の努力にも支えられている。

今後の課題は、少しずつ認知度が上がってオリジナル品種の需要が増えてきたのに対し、生産が追い付いていない点。担い手不足解消に向けて、ブランド化を含めたさらなる取り組みが必要だ。

ほかにも、力を入れたい取り組みとして生産効率を上げる農業のIT化や、農畜水産物の輸出を挙げている。担い手不足の解消、さらなる品質改良、認知度アップ……様々な施策をバランスよく実施しながら、香川ブランドは世界を目指す。

WSワークショップ

●果実のほかに花きを対象にした「さぬき讃フラワー」、野菜を対象にした「さぬき讃ベジタブル」制度について調べてみよう。

●「ブランド化」は地域にどんな効果をもたらすと思いますか。

【取材協力 : 県農業生産流通課、農政課】

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