新規事業を担う「犬常務」の挑戦

株式会社イナダ常務取締役・新規事業企画室長稲田伊知郎さん

Interview

2022.10.06

差別化

市場開拓

商品開発

ニッチ戦略

情報発信

農業機械の製造からスタートして104年、現在は産業用特殊運搬車両やクレーン部品の製造を手掛ける株式会社イナダが、今春ペット用漢方サプリメントを発売した。一見本業とは無関係にも思えるが、高い板金加工技術を生かせる新規ニーズの開拓まで視野に入れた戦略だ。

開発のきっかけは、伊知郎さんの父で同社会長の稲田覚さんが本業を通じて中国と交流する中で、中華圏における漢方人気の高さとペットニーズの増加傾向に着目したこと。以来、漢方を使ったペット用サプリのアイデアを20年以上温め続けてきた。

犬皇丸

課題は材料となる漢方・冬虫夏草の安定確保だったが、韓国で大規模な人工栽培に取り組む企業とのルートが確立したことで、5年ほど前から本格的な開発がスタート。2013年に東京から故郷に戻ってきた伊知郎さんが、その主軸となった。「もともと板金にあまり興味が持てなくて…。東京ではトリミング用ハサミメーカーの営業として奔走し、ペット業界に可能性を感じていたところでした」と伊知郎さん。コロナ禍の巣ごもり需要でペット人気が高まっていたことも、開発の背中を押した。

東京大学名誉教授・眞鍋昇さん監修の下、小豆島産オリーブの葉を配合するなど競合商品との差別化も図り、2022年4月に「犬(けん)皇(こう)丸(まる)」として発売。当面は国内ネット通販のみだが、「今後は中華圏を中心とする海外展開も視野に、商品バリエーションを増やしたい」と意気込んでいる。

ペットフードボウルスタンド

「犬皇丸」の原料となる冬虫夏草は中国や韓国では人気が高いが、日本ではあまり知られていない。PRのために伊知郎さんが仕掛けているのが「犬常務」によるSNSでの発信だ。若手社員のアイデアをヒントに、伊知郎さん自身が犬のマスクをかぶって登場している。「目指すはフォロワー1万人です。何の会社だろう、と興味を持ってもらうところから知名度を上げたい」と語る一方で、ペットフードボウルスタンドなど本業の板金技術を生かせる商品開発にも意欲を見せる。「時代に合わせて柔軟に新しいチャレンジを繰り返すのが当社のスピリット。首都圏で培った人脈と、本業を別の角度から見ることのできるフレッシュな視線を活かして、本業ともリンクするような展開を考えていきたいですね」。犬常務の挑戦は、まだまだ続く。