
イチゴ高設栽培の風景
香川県の農業の特徴、それは人口密度が非常に高く、農地の面積が狭いことにあります。狭い農地から多くの収穫を得るため、古来より稲作を根幹に、農地を有効に使う方法が考えられてきました。夏に米を作り、冬に麦を作るという米麦の二毛作はその特徴的な事項。昭和9年(1934年)の統計資料を見ると、米37,430ha、麦34,502haと、一年間を通して水田を遊ばせることなく、米と麦を徹底的に作りこんでいることが分かります。
近年では米麦だけではなく、野菜を組み合わせた様々な作付け体系が確立されており、坂出市の沿岸部で行われている、サツマイモ(夏)と金時ニンジン(冬)の組み合わせや、高松近郊での軟弱野菜であるホウレンソウや小松菜などの周年栽培、田植えが始まるまでに収穫が終えられる玉ネギやニンニク等の栽培、コシヒカリなど早場米とブロッコリーの組み合わせなど、県内各地で様々な作物を組み合わせた栽培の工夫が見られます。これが、狭い土地を最大限に活用して収益を上げる、資本労力集約型農業と呼ばれるゆえんでもあります。
農地が狭い香川県が全国の大産地と対等に戦うためには、大産地ができない小回りの利く農業に取り組む必要がありました。そのため、香川県では新しい品目や栽培方法をいち早く取り入れ、他の地域が取り込んでいない品目で勝負をするいわゆる「ニッチな農業」に取り組んできました。
記録に残る産業としては和三盆です。温暖で乾燥した気候を利用してサトウキビを栽培し、それを和三盆になるまで研いだ讃岐砂糖は、江戸時代後期には質量ともに日本のトップブランドであったことが資料からも分かります。
戦後に伸びた品目としてはカボチャがあり、全国的に品薄になる5~6月に向けて様々な栽培方法が検討され、当時は一大産地となっていました。また、昭和45年のハウスミカンの実用化、平成になってからはイチゴの高設栽培、最近ではアスパラガス「さぬきのめざめ」の特性を生かしたロングサイズのアスパラガスなど他の産地が取り組む前にいち早く実用化することで、全国の大産地と戦ってきたのです。讃岐人に脈々と受け継がれるフロンティアスピリットには脱帽しますね。
香川県で非常にシステマティックな独特の農業が営まれてきました。これらは、狭く農地が不足していたこと、温暖ですべての作物が作りやすいという、古来より変わらない香川県の風土が作り上げたものなのです。
さぬきのFOOD(風土)~食に見る郷土の風景~

高松市歴史資料館所蔵『大日本物産大相撲』
【開催期間】9月3日(日)まで
【開催場所】高松市歴史資料館
野菜ソムリエ 上級プロ 末原 俊幸さん
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