国際交流のすすめ

日本銀行高松支店 支店長 大塚 竜

column

2023.08.17

外国人に話しかけられるとドキッとするのは私だけでしょうか。20年近く前、私はニューヨークに留学していました。ある晩、街中の劇場へミュージカルを観に行ったところ、隣に座った白人女性がバッグから携帯電話を取り出し、私に見せてこう言いました。「友人がいたずらをして、表示を中国語にしてしまったの。操作しようにも文字が読めず困っている。直してくれないかしら。」

外見から中国人と思ったのかもしれませんが、私は中国語の知識がなく、期待に応えられる自信もなかったので、「私は日本人だ。中国語はわからない。」と伝えました。これで終わると思ったら、その女性は「お願い、やってみて。」と引きません。仕方なく、開演時刻が迫る中、必死で漢字の知識をもとに色々試しているうちに「言語設定」らしき文字が現れました。OKボタンを押すと、「1.English、2.Español、3.…」と表示言語を選択する画面に至り、「これで英語に戻るはず」と携帯電話を渡しました。女性からは、大変感謝されるかと思えば、thank youと素っ気ない一言だけでした。

私たち日本人は真面目な気質もあって、外国人を前にすると、相手の期待を100%満たさなければと思ったり、感謝されるよう必要以上の努力をしたり、自らハードルを上げます。おもてなしの精神も大切ですが、先方はそこまで期待していないことが多いように思います。国際会議に参加する経験を重ねて、その思いを強くしました。要求に常に応えようとか、見返りまで期待していたら、お互い気が重くなってしまうでしょう。肩の力を抜き、できることを誠実に淡々と行うのが国際交流の第一歩だと感じています。

先日、高松に赴任する際、市内のホテルに宿泊しました。朝食会場には多くのインバウンド客がいて、給仕の初老の女性が、おろおろするかと思えば、片言の英語ながら軽妙に応対している姿を目にしました。そう、これでよいのだと、かつての経験を思い出しました。

日本銀行高松支店 支店長 大塚 竜

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