“私らしさ”で 新たな伝統をつくる

かめびし 十八代目 岡田 佳織さん

Interview

2018.08.16

新調したのれんは、かめびしの蔵の壁と同じ赤(東かがわ市・かめびしのしょうゆ蔵)

新調したのれんは、かめびしの蔵の壁と同じ赤(東かがわ市・かめびしのしょうゆ蔵)

伝統ある家に生まれて

世の中で「老舗」といわれる企業は、代々の当主が先代から受け継いだものを大切にしながら、自分の個性を加えて新たな伝統を作っていく。岡田佳織さん(50)が十八代目として受け継いだのは、東かがわ市で260年以上続くしょうゆ蔵。先祖をたどれば生駒家の家臣につながり、蔵の建物は国の登録有形文化財に指定されている。父は世界的芸術家・流政之さんや川島猛さんとも交流があり、2人が商品デザインを、またゲストルームを流さんが、土蔵の改修を川島さんが手がけている。全国的にしょうゆ造りの機械化が進んだときも守り続けた「むしろ麹法」は現在、日本でかめびしだけが行っている。
私にしかできないこと― それが「食」を軸にした イベントでした

私にしかできないこと―
それが「食」を軸にした
イベントでした

伝統とそうそうたる人脈―。周りから見れば恵まれた環境だが、「子どもの頃はそれがぜいたくだと気づかなかった。今思えば愛情だと分かる父の教育も、厳しくていやでした」。食にまつわる家業だから味覚が大事と、インスタント食品やスナック菓子は食べさせてもらえない。部活が終わったらまっすぐ帰ること。勉強するようにいつも言われ、スキー、テニス、スキューバといったスポーツも父の熱血指導のもとひと通り覚えさせられた。「家が窮屈で仕方なかった。姉もいたので、家業を継ぐ気は全くありませんでした」

環境が変わるきっかけは、父が決めたアメリカ留学。「これからはグローバルな視点が必要だから、世界を見た方がいいという考えからでした。滞在中は一度も帰国させてもらえないんですよ」。日本の友達と引き離され、ルームメイトともなじめずつらいこともあったが、自身の変化も感じた。「今まで私は、細かいことを気にする性格だった。それが一人アメリカで何とかやっていくうちに、人がどう思っているか気にせず、ありのままの自分でいいと思えるようになりました。ここで培われた性格が、今の私のベースになっています」

家業を継ぐことを決める

帰国後は家を離れて就職し、親の許しを得ず結婚した。そんな自分が家業を継ぐときは突然やって来た。父のもとで当主としての修行をしていた姉が、結婚を機に家を離れた。「私は離婚をして実家に帰ってきていた頃。2人の娘を育てながら姉の右腕になれれば、としか思っていませんでした」。やる人間がいないなら廃業するという父の言葉に思わず「やめるんなら私にやらせて」と答えていた。

そこから再び、父の厳しい指導が始まった。当主が味の可否を判断する“かめびしの味”とはどういうものか、決算書のこと、ボイラーの資格取得、経営者としてのあり方…数年間必死で勉強した。「私が社長になった途端、辞めたスタッフもいました。自分の実力のなさが本当につらかった」。しかし、一歩一歩進んでいく中で、ずっと父と母が見守ってくれていたという。

新しい取り組みを積極的に

しょうゆの需要が低迷し、しょうゆを造って卸すだけでは成り立っていかない時代に、何もせずに終わるわけにはいかない。当主として私にしかできないことは何だろうか。そう考えたとき、飲食店で働いていた経験や人脈を生かして「食」を軸にした、新しい取り組みをやろうと決めた。
しょうゆ蔵での食イベント

しょうゆ蔵での食イベント

ナポリからピザ釜を取り寄せ、蔵の中でかめびしのしょうゆを使ったピザの販売や作る体験ができるようにした。地元や東京から料理人を招いて、しょうゆをテーマにした食イベントを定期的に開催している。蔵近くの空き家をリノベーションして今春、ゲストハウスを始めた。「今までご縁がなかった人にもここに足を運んでもらう機会を作って、かめびしの歴史や商品を知ってもらいたい」。近々、父がコレクションした約250枚のレコードを使ったDJイベントを計画中だ。ライブ感あふれる料理といえば―という思いつきから、イベント中に料理人がかめびしのしょうゆを使って寿司を握る。
今春オープンした1棟貸しのゲストハウス

今春オープンした1棟貸しのゲストハウス

「父母にしたら私は岡田家の異端児。時には突拍子もないことをすると思うかもしれません」。だからこそ、なぜこれをやりたいかという思いを伝え、友人たちの集まりには父母も連れて行き自分のコミュニティを知ってもらう。そんな姿を見ていた父が最近「自分らしさを出せばいい」と言うようになった。


「私が今、アイデアをもらったり、イベントを助けてくれたりするのは、実家を離れていた頃に知り合った人達も多いんです。そんな人達が次々とつながって今、新しいお客さんも来てくれるようになりました」。父母が自分たちのコミュニティを広げ、彼らとともにかめびしを作ってきたように、これからは信頼できる仲間やお客さんとともに自分らしく、新たなかめびしの歴史を作っていく。

石川 恭子

岡田 佳織 | おかだ かおり

1968年 高松市生まれ
1987年 高松北高校 卒業
    Cushing Academy(クッシング アカデミー) 留学
2013年 代表取締役 十八代目 就任

株式会社かめびし

住所
香川県東かがわ市引田2174
住所
東かがわ市引田2174
TEL.0879-33-2555
FAX.0879-33-6836
創業
1753年
事業内容
しょうゆ醸造、しょうゆ販売、飲食業、旅館業
地図
URL
http://www.kamebishi.com
確認日
2018.08.16

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