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チシャもみにみる食文化の趨勢(すうせい)

野菜ソムリエ 上級プロ 末原 俊幸

column

2017.03.16

チシャもみ

チシャもみ

讃岐に「チシャもみ」という郷土料理があります。名前は有名ですが、実はこの郷土料理は消滅しています。今回は「チシャもみ」から食文化を考えてみたいと思います。

讃岐の食文化の中で、「チシャもみ」は実に特殊な料理です。現在でも「チシャもみ」という食文化の名前は残っていますが、昔食べられていた「チシャもみ」は存在しないと考えられています。それは「チシャ」という料理の核となるべき素材が既に存在しないからです。

チシャとは、サンチュなど「かきチシャ」と呼ばれるレタスの一種で、万葉集にも登場するほど日本で古くから利用されている野菜であり、香川県に存在していたチシャもその系統の野菜の一種と考えられます。現在「チシャもみ」は春の料理のように思われていますが、本来チシャは5月から9月にかけて出荷されていた野菜で、夏場の野菜として活躍してきました。高松市中央卸売市場の統計には、「チシャ(とうちさ)」として記録に残っており、約30年前の1986年には年間57トンの取り扱いがありました。57トンという数字は、現在のマンバ(ヒャッカ)の年間取り扱い量の半分くらいであり、かなりの量であることがうかがい知れます。しかし、91年には4トンを割り込み、95年には統計上から消滅しました。

実は、郷土料理「チシャもみ」には文化の断絶があり、現在50歳以上の方で当時の味を知る人は、サニーレタスやサンチュなどで作る「チシャもみ」を「本物ではない」と表現されます。それは、チシャという野菜が存在しないからであり、チシャでなければ本来の「チシャもみ」の味は再現できないことに他なりません。実際、一番食感が近いサンチュで作った「チシャもみ」を食べてみると、私たち世代にとってみれば何の違和感もないのですが、古い味を知っている世代の方は「確かに味はそっくりだが、チシャもみはもっと口の中でとろけるような食感だった」と表現されます。

食文化に必要な3要素は「素材」「調理方法」「味覚」であり、チシャもみではその根幹をなすチシャという「素材」は無く、種すらも失われたとされています。もし香川県のどこかにまだチシャが残っていたら、「チシャもみ」は再び姿を現すのでしょうね。

食文化は時代とともに少しずつ進化し続けているのも事実ですが、調理方法だけでなく、素材と味覚が一体的に継承されてこそ生き続けると感じています。讃岐には、まだまだ多くの食文化が力強く息づいており、それを守ることの大切さを感じます。

チシャもみ

写真提供・レシピ参照:香川県農業経営課

写真提供・レシピ参照:香川県農業経営課

【材料】
・サニーレタス:200g
・油揚げ:1枚
・酢みそ
  白みそ:大さじ1/2
  砂糖:大さじ1/2
  酢:大さじ1/2
  塩:少々

【作り方】
(1)酢みその材料をよく混ぜ合わせる。
(2)油揚げを少し焼き色が付く程度に焼き、短冊切りにする。
(3)サニーレタスを食べやすい大きさに切り(1)と(2)を合わせる。

(写真提供・レシピ参照:香川県農業経営課)

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