幅広い趣味が、数多くの転勤を支え、様々な人との交流を持ち得た。

高松地方裁判所長 佐藤 武彦さん

Interview

2010.01.07

それは姉からの電話だった。「観たんな? 高松が出とるよ」。高松地方裁判所長の佐藤武彦さんは、前任地の鹿児島で映画「世界の中心で、愛をさけぶ」を観た。「スクリーンいっぱいに、庵治沖から見る屋島や五剣山が映し出されていました。ふるさと香川はこんなに美しかったのか……。感動しました。景色だけを追っているうちに映画はあっという間に終わってしまい、ストーリーを知りたくて2回続けて映画を観ましたよ」

ふるさと香川の美しさ、再発見

さぬき市津田町に生まれた佐藤さんは、高校卒業後香川を後にした。大学卒業後は判事として各地の地家裁に赴任。一度高松地裁に転勤になるが、それ以降再びふるさとを離れ、25年が経っていた。

佐藤さんは幼いころから海釣りが趣味の父親に連れられ、兄と一緒に津田湾で魚を釣った経験から、釣りは今も趣味の一つ。「鹿児島では、桜島を見ながらの錦江湾での釣りが楽しくてね。景色の美しさでは一番だと思っていた」。が、思いは変わった。「香川も負けていない、と。瀬戸の海と屋島、八栗の山。女木島、男木島……。むしろもっときれいですよ。残念ながら、香川に住んでいる人はその価値を十分に分かっていないかもしれない。ぜひ気づいてほしい、知ってほしいと思いましたね」

緊張と緩和のバランスが大切。趣味に熱中することは、仕事にも好影響を与える

仕事柄、張り詰めた時間を過ごすことが多い佐藤さんには、その緊張をほぐすための趣味が多い。普段はもちろん、週末やまとまった休暇が、調べものをしたり、日頃の課題を検討したりという時間に充てられることもあるため、「疲れてしまうからこそ、気分の切り替えが必要なんです。遊ばないと仕事をしようという気にならないんですよね(笑)」

学生時代から続けるテニスは、裁判所の全国大会に出たほどの腕前、任官してから覚えた囲碁は4段、50歳から始めたゴルフは80台でまわったことも。釣りはもちろん、野球や麻雀も得意ときている。興味を持つと熱中し、持続もする。「集中する時間と、それを解く時間のバランスが大切です。ストレスの解消にもなりますしね」。豊富な趣味は、転勤先でも、多くの新しい出会いをもたらした。「法廷だけなら人づきあいは無くてもいいでしょうが、趣味があると様々な人と深くつきあえる。幅広い趣味に助けられてきたと思っています」

5年前に高松に着任してからは、香川をもっと知りたいと考えるようになった。最近興味を持っているのが、古城に象徴される中世以降の歴史だ。「東から西まで、香川に存在した20以上の古城を、歴史を振り返りながら訪ね始めたところです」

「あなたの声を司法に」

長く裁判所に勤務してきた佐藤さんが、日頃から感じることに、「裁判所と市民の距離」がある。「より多くの市民の方に裁判の実際を知ってもらいたいと思いますね。そして様々な意見を交わすことが大切で、これからの裁判官、裁判所は、市民との距離を縮めていかなくてはならないと思います」

昨年5月に始まった裁判員制度を機に、佐藤さんが考えて高松地裁に掲げられた標語「あなたの声を司法に」。様々な趣味を介して、多くの人と交流する場を持ち得た佐藤さんだからこその言葉のように思えるのだった。

佐藤 武彦 | さとう たけひこ

略歴
1945年 香川県生まれ
1968年 3月 東京大学法学部卒業
1969年 9月 司法試験合格
      大阪地裁判事補を振り出しに各地を転任し、
      東京高裁判事、鹿児島地家裁所長を経て
2005年 2月 高松家裁所長
2007年 2月 高松地裁所長
写真
佐藤 武彦 | さとう たけひこ

記事一覧

おすすめ記事

メールマガジン登録
メールマガジン登録
ビジネス香川Facebookページ