「倒産寸前だったさぬき麺業は、万博を最後に廃業するはずでした。でも僕は、この万博で、さぬきうどんに自信をもったんです。それで高松の塩上町で小さな店を開業したんです」。セルフの先駆けだった。これが当たった。
家業から事業へ、事業から産業へ、うどん業界は飛躍した。観光資源にもなった。しかし、3代目、香川さんの職人気質は変わらない。祖父から父へ、父から子へ、「足ふみ・手打ち」の技を守り続ける。
「足ふみ禁止令」で破産寸前
製麺組合のメンバーでもある株主は小売店への販売に反対した。「さぬき麺業」は卸売がほとんど出来なくなり、大きな負債だけが残されることになった。
※(製麺組合)
香川県製麺事業協同組合高松支部
大阪万博でうどん職人に
「会社には、職人を6カ月も万博へやる余裕はありませんでした。子どもの頃から手打ちの技を仕込まれたおやじに『行ってくれないか』と言われたんです」。決まっていた商社への就職をあきらめた。
お金が無いから「セルフ」で
「だしはお客さんに自分でかけてもらいました。今で言うセルフの店です。なにしろ会社にお金の余裕がありませんでしたから」。セルフうどんの先駆けだった。
お盆や正月は、中央通りまでフェリー待ちの車が並ぶ時代だった。ジャンボフェリーの待合室のレストランに出店、市内にも店を増やしていった。「父が開発した土産用の半生うどんが飛ぶように売れて、少しずつ軌道に乗りました。大阪万博がなかったら、今の会社はありません」
「足ふみ・手打ち」の伝統を守る
「手のぬくもりや無理の無い力加減が、機械では出来ないうどんを作ります」。職人の感性がうどんの生地に伝わり、生地がそれに応えてくれるのだ。
同じように「伝統の製法を守り続けたい」という思いから、県産小麦を使って「半夏(はんげ)うどん」を復活させた。「伝統食文化」の発信だ。その一方で次世代の小麦を使って新しいうどんを開発したり、これまでにない食べ方、メニューを提案するなど、「新規技術」と「新しい食文化」を取り入れることにも熱心だ。
その理由を聞くと、「おやじを超える本物のさぬきうどんを打ちたいんです」。素っ気ないほどシンプルな答えが返ってきた。
※(半夏うどん)
麦刈り、田植えを終える、夏至から数えて11日目を「半夏」または「半夏生」という。農家では、新麦を使った「うどん」や「すし」、「団子」(米粉で作った半夏の禿だんご)などを味わい、豊作を祈っていた。現在は、半夏にあたる7月2日を「うどんの日」としている。
三代続く職人気質
「おやじも祖父に反抗して家出もしたようです」。その政義さんから、香川さんも反発しながら学んだ。
毎朝の仕込み…塩と水の配合や足ふみの時間などは、その日の温度、湿度などでまったく違う。しかし品質は、年中同じでなければならない…凄腕の職人は、幼いときからたたき込まれた技と感性が磨かれて育つ。お客さんに喜んでもらうことが、無上の喜びになる。
「家出こそしなかったけど、私もずいぶん反抗しました。灰皿は飛ぶ、ガラスは割れるで、半端な親子けんかではなかったから家族は大変でした。でも、事業も業界活動も、先代の敷いたレールを走っているだけかも…」。目が潤んでいるように見えた。
手打ちの味を広める
郡部の小学校から子どもたちがバス3台で200人ずつ2日間訪れた。「転勤者が多い市内の小学校から、たくさん保護者が来られたこともあります。名古屋の高校は、修学旅行で10年前からの常連さまです」
県外から、グループや年配夫婦、若いカップルもやって来る。大阪から土曜日の昼に来て、日帰りする人までいる。「さぬきうどんブーム」を支える地道な努力だ。
「うどんは、うどん屋だけのものではありません。香川県人みんなのものだと肌で感じます」
口調こそ謙虚で穏やかだが、香川さんが確信しているのは、讃岐の地に祖先から受け継がれてきた「さぬきうどん」を、後世に守り伝えていくことの大切さなのだ。
寝ても覚めても「うどん一筋」
「頼まれると嫌とは言わないおやじは、業界や県や市の関係者に信頼されました。世間はそんなおやじのイメージを僕にダブらせますが、僕は違います。こつこつ仕事をするのは好きですが、みんなの先頭を走る器ではありません。おやじは金策に苦しんだ分だけ人生に何かを見つけましたが、そんな経験のない僕は、しょせん、おやじにかないません」
今、香川さんを支えているのは共働きの妻、英子さん(57)だ。「女房は総務担当です。僕は囲碁のほかに趣味はないし…。結局、親子三代続いて、うどん職人。だから、寝ても覚めてもうどん一筋なんです」。実直な顔一面に笑顔が浮かんだ。
手打ちうどん体験道場
香川 政明 | かがわ まさあき
- 略歴
- 1947年 高松市生まれ
1970年 神奈川大学経済学部 卒業
さぬき麺業(株)入社
1989年 さぬき麺業(株)専務取締役就任
1993年 〃 代表取締役社長就任
現在に至る
(公職)
日本手打麺同好会 会長
高松観光協会 理事
高松職業安定協会 理事
高松食品衛生協会 常務理事
全国麺類業厚生年金基金 代議員
さぬきうどん研究会 副会長
香川県食品産業協議会 副会長
香川県物産協会 副会長
高松商工会議所 1号議員
さぬきうどん協同組合 顧問
さぬきうどん振興協議会 会長代行
さぬき麺業株式会社
- 住所
- 香川県高松市松並町933-1
- 代表電話番号
- 087-867-7893
- 設立
- 1964年
- 社員数
- 116人
- 事業内容
- 麺類製造卸、さぬきうどんお土産卸、小売、手打うどん店直営
- 資本金
- 3060万円
- 地図
- URL
- http://www.sanukiudon.co.jp
- 確認日
- 2010.01.07
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