「鮮度」が風味を生む
2代目社長の木下敬三さん(62)は小麦粉の「鮮度」を何よりも重視する。「鮮度が高いほど風味がいい。うどんをかんだ時、ひと呼吸遅れて口の中に広がる小麦粉の旨味や甘味。私は『うどんはコシよりも味』だと思っています」
メーカーの生産工程で、大がかりな機械設備が必要な産業のことを「装置産業」という。「製粉業は典型的な装置産業。絶対的に大手が有利です」。そんな“不利”な状況の中で木下さんが掲げるのが「品質の追求」と「大手との差別化」だ。
小麦は、少し砕いてはふるいにかける工程を何度も繰り返し、胚乳から表皮までの部位ごとに、一粒で実に50種類もの小麦粉に分けられる。「長い工程の中で小麦粉は、空気の流れにのって工場内を移動するため、“大量の空気によって強制的に酸化”される。これが鮮度を落とす要因の一つになるが、うちのような小規模な設備だと、空気に触れる機会が減るので鮮度を維持でき、さらに雑味のもとになる不純物の付着も抑えることができます」。小規模だと効率は落ちる。だが、小さいからこその強みもあると木下さんは胸を張る。
「ふすま」は果物で例えると皮の部分。小麦の皮は、非常に硬く製粉しづらいうえ雑味が強いため、これまでは製造過程で取り除かれ、家畜の餌などに使われてきた。だが、食物繊維が豊富なことに木下さんは注目した。特殊な粉砕機と選別機を導入し、独特の雑味の「ふすま臭」をカットする製法特許も取得。大手が見向きもしない“常識破り”な独自開発を進め、ついには製パン用の小麦ふすま「夢ブラン」を商品化させた。「小麦粉に混ぜれば、その分糖質がカットされ、カット分がそのまま食物繊維になる。まさに夢のような商品で、食生活が自然に改善できると思う。今後はうどん用のブランをつくりたいし、『飲むブラン』はぜひヨーグルトに混ぜて召し上がってほしい……」。木下さんは目を輝かせながら、「ふすま」の可能性を熱く語る。
「品質は最上の営業」
ロッキー山脈が南北に走るコロラド州は全米一標高が高い高原都市。「空が抜けるように青く澄んでいて、とてもきれいだった。ただ、統計を勉強すればするほど『直感も大事』と思うようになりましたね」と笑顔で当時を懐かしむ。
元々、家業の製粉業に対する思い入れは強かった。「そろそろ恩返しの時期かなと思って」、32歳の時に帰国。入社1年後に先代の父・虎七さんが亡くなったのに伴い、1991年、社長に就いた。「父は根っからの“明治男”。口答えすることも許さない厳格な人だった。TVドラマで見かける家族団らんのシーンは、現実にはあり得ないと思っていました。会話することはほとんどなく、直接仕事を教わったこともないんです」
製粉業界は大手4社が生産量全体の8割を占める。製粉会社は全国的に時代とともに淘汰され、四国でも20年前には10社あった工場が今は半分に減った。
木下製粉の事務所には、「品質は最上の営業」としたためた書が掲げられている。虎七さんが遺した社是だ。「量を追った高度成長の時代は終わり、いいものをつくっていれば営業をしなくても売れる時代でもない。品質と営業、両輪でやっていかなければ生き残れません」。70年前の創業時に掲げた父の思いが、今も確かに息づいている。木下さんは、こう続ける。「厳しかった父ですが、私が家業に入り、少しは喜んでくれているんじゃないでしょうかね」
誇りを持ち、次の世代へ
工場近くに、個人消費者への販売に特化した会社、ファリーナコーポレーションを立ち上げた他、ネット通販担当のスタッフも置いた。「うどん店や個人との取引は、お客さんの声を直接聞けるのがうれしい。『やっぱりこの小麦粉でつくったうどんはおいしい』と言ってもらえると、従業員の励みにもなります」
木下さんが考える究極の小麦粉とは。「雑味がなく、食材そのものの味がストレートに感じ取れるのが、本当においしい食品だと思う。小麦の香りを感じられる小麦粉を、誇りを持って挽き続ける。そして、この小麦粉を次の世代にバトンタッチしていきたいと思っています」
篠原正樹
木下 敬三|きのした けいぞう
- 略歴
- 1956年 坂出市生まれ
1975年 丸亀高校 卒業
1980年 東京工業大学理学部 卒業
1987年 コロラド州立大学自然科学系統計学科 M.S.(修士課程)修了
1988年 Ph.D.(博士課程)修了
1990年 木下製粉 入社
1991年 代表取締役社長
木下製粉株式会社
- 住所
- 香川県坂出市高屋町1086-1
- 代表電話番号
- 0877-47-0811
- 設立
- 創業1946年
- 社員数
- 35人
- 事業内容
- 小麦粉・ふすま・乾麺の製造販売
- グループ会社
- 株式会社ファリーナコーポレーション
- 地図
- URL
- https://www.flour.co.jp/
- 確認日
- 2019.04.30
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