情熱と覚悟あればだれでも解ける うどん・そば・ラーメン成功方程式

大和製作所 社長 藤井 薫さん

Interview

2012.10.18

製麺機が、職人の勘と経験を重視してきた麺業界を変えた。麺打ち職人でなくても、うどんやそば、ラーメン店を短期間に開業できる。

小型製麺機のトップメーカー大和製作所 社長の藤井薫さん(64)は全国8カ所と韓国ソウルで製麺体験教室を、宇多津本社と東京で開業者向けの麺学校を運営する。学校ではうどんとそばを6日間、ラーメンは7日間でアマチュアをプロにする。

大和の製麺機を使う、大阪府交野市の「楽々」と京都府城陽市の「俺のラーメンあっぱれ屋」がグルメサイト「食べログ」のうどんとラーメン部門で第1位を獲得した。

麺学校の教程は7日間で終了する。しかし、製麺機が手打ちに負けない麺を打つ。出汁(だし)も製法を数値管理するデジタル・クッキングで思い通りの味を得られるから、まったくの素人でも行列のできる店を目指せる。

ただし、情熱と覚悟がないと成功方程式は解けない。

開店後1年以内の閉店多く

最近「体験セミナー」を開催するためダイレクトメールを発送したら宛先不明で千通が返却されてきた。

「うどん・そばの店は全国で約4万軒あります。毎年3千軒が開店して、3千軒が閉店する。それも1年以内の閉店が一番多い。ほぼ同数あるラーメン店も同じ状況です」

麺一筋37年、数千軒の取引先にめぐり合った。飛ぶ鳥を落とす勢いの繁盛店もたくさんあったが、そのほとんどが今はない。

「うどん・そば店の平均寿命は14年、ラーメン店は11年です。これからは変化がもっと早く、もっと激しくなる」

麺ビジネスで成功するかどうかは、情熱と覚悟で決まる。成功とは継続だ。覚悟とは、変わることのリスクに情熱と時間をかけて挑戦し続けること。情熱が困難を克服する。

変わらなければ生き残れないことを、取引先の栄枯盛衰から学んだ。

金属工学の知識を小麦粉に応用

製麺機では後発だった。業界トップになろうと決めて、製麺機の本質を考えた。おいしい麺を作れば勝負がつくと思った。研究所を作って、麺の材料の小麦粉や塩を分析した。昔の製法は、今の時代に合わないことが分かった。

練った生地を足で踏んだあと寝かせないで、直ぐにうどんを打つ「朝練り即打ち」という伝承がある。水車で製粉していた昔の小麦粉は、表皮や胚芽なども入った全粒粉で熟成時間が短かった。玄米みたいな粉と、白米みたいな今の粉との違いに気づいた。

高松高専で金属工学を学んだ。刀鍛冶が高温に熱した刀身を叩くと、内部に力が発生して堅くなる。焼きなまししては、また鍛えることを繰り返す。

同じように小麦粉もこねた生地の内部に力が発生する。休ませて熟成させると、水分が生地の全体に均一に馴染(なじ)んで空気が抜ける。水に溶けないタンパク質であるグルテンが発酵し、デンプンの炭酸ガスで膨らむ。その生地を、足踏みするように鍛えてまた熟成させる。

人も一晩ゆっくり休むから、次の日元気に働ける。焼きなましと熟成は、同じ原理で組織を回復させる。業界初の「二段熟成技法」を製麺機の工程に取り入れた。

意外なことも分かった。小麦粉の組織を破壊しない二段熟成技法と腐りにくさは関連していた。傷のある果物や野菜は腐りやすいが、傷がないと腐りにくいのと同じ理屈だ。

アサリの長生き実験で塩つくる

「土三寒六常五杯(どさんかんろくじょうごはい)」。土用の暑中には塩一杯を水三杯、寒中は六杯の水、春と秋は水五杯で溶いた塩水で小麦粉を練る。さぬきうどんにまつわる言い伝えだ。この割合でうどんを作ると、しょっぱくて食べられなかった。

市販の約40種類の塩でうどんを作って比べた。食品などの粘度・粘弾性を測定する計器で検査したが、麺の品質に違いはなかった。

海水でもうどんを作ってみた。はっきり違いが出た。柔らかい粘り強い麺になった。海水は塩分濃度3.5パーセントで、にがりは20パーセントだ。

昔の塩は、にがりがたくさん含まれていた。にがりは海水を煮詰めて製塩したときに残った塩化マグネシウムを主成分とする液体。にがり20パーセントの麺専用の塩「46億年」を商品化した。どの塩でアサリが長生きするか実験した。市販の塩は2日から長くて4日、「46億年」と海水は1週間だった。「うどんの品質と塩成分に関する研究開発」は1997年、「中小企業新事業促進法」に基づく新商品の開発・生産に該当するとして香川県が認定した。

成功方程式を売る事業

▲うどん、そば、ラーメン店の経営ノウハウが詰まった著作

▲うどん、そば、ラーメン店の経営ノウハウが詰まった著作

川崎重工業のエンジニアを辞めて、1979年に大和製作所を設立、製麺機を作ったが売れなかった。経営書や歴史の本から、成功の哲学を学んだ。繁盛する店も廃業する人も、同じ製麺機を買ってくれたお客さんだ。やるべきことは繁盛店をつくることだと気づいた。

「退職金をつぎ込んで勝負に挑む生徒さんが、絶対に失敗しないようお手伝いするのが使命です」。会社の事業方針を「製麺機を売る」から「成功方程式を売る」に変えた。伸び悩んでいた業績が上ってきた。7年前に小型製麺機業界でトップになった。

海外の販売台数は、3年前に比べ約2倍になった。ラーメン学校にノルウェー、ブラジル、チリから来た受講生がいる。販売やメンテナンスを行う現地拠点を、今年中に米ロサンゼルスに開く準備を進める。

「日本の麺の味を世界へ広めます」。成功方程式は海外でも同じ。解法の極意は情熱と覚悟にある。

自慢の無料オーガニック社食

自慢は社員食堂(写真)だ。2年前に旅したイスラエルのホテルの朝食がヒントになった。

「スモークやマリネや乾燥させた魚が何種類もあった。野菜はキューリ、トマト、パプリカなど種類が豊富、量もたっぷり。料理の加工度は低い。軍事も科学も経済も農業も優れたイスラエルの原点は食事にある、と感心した」

会社を強くするには健康が一番。そのためには食事。食材は全国から取り寄せる有機・無農薬の野菜。化学調味料は一切使わない。パート、アルバイトを含む全従業員に無料で提供している。食材が安心安全なおいしい食堂は社員を幸せにする。

藤井 薫 | ふじい かおる

1948年 坂出市生まれ
1968年 高松工業高等専門学校機械工学科(現香川高等専門学校) 卒業
    川崎重工業(株)に入社、航空機事業 部機体設計課に配属される
1975年 (株)大和製作所を創業
1999年 うどん店「亀城庵(きじょうあん)」開店
2004年 うどん学校を開校し校長に就任
2005年 ラーメン学校・そば学校を開校、校長に
写真
藤井 薫 | ふじい かおる

株式会社 大和製作所

住所
香川県綾歌郡宇多津町浜三番丁37-4
代表電話番号
0877-85-6168
設立
1979年
社員数
75人
事業内容
うどん・そば・ラーメン用製麺機 製造販売
麺専用塩「46億年」製造販売
麺類店経営・店舗運営相談、新規開業トータルプロデュース事業
うどん・そば・ラーメン学校の運営
沿革
1979年 有限会社大和製作所 創設
1985年 株式会社に組織変更
1986年 関東営業所 開設
2001年 うどん学校 開校
2002年 ソウル営業所 開設
2005年 店舗用製麺機シェアがNo.1に
2011年 新工場 稼働
資本金
9000万円
資本金
9000万円
地図
URL
http://www.yamatomfg.com/
確認日
2011.04.21

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