
稲わら加工機製造の岡原農具=現 さぬき麺機(株)=は、縄ない機のローラーを転用して足ふみ代用機を初めて開発した。家族経営中心のさぬきうどんが「地場産業」へ第一歩を踏み出した瞬間だった。
「さぬきうどんブームの背景には、製めん機の普及があります」。足ふみ代用機から40年後の全自動製めんシステム開発まで、同社の代表取締役 岡原雄二さん(60)は、歴史を振り返る。
※(縄ない機)
わらで縄をなう機械
※(足ふみ代用機)
ローラーにうどん生地を通すことで、足ふみと同じようにグルテンを形成させる機械
※(全自働製めんシステム)
練り、足ふみ、寝かし、めん打ち、包丁切りまで一貫して製造するシステム
製めん機開発

岡原さんは製めん機開発のために、学生時代から評判の良い店を何百軒も回った。塩や水加減、生地の固さ、ゆで具合など手打ちうどんの基本を知るためだ。
足ふみ代用機は、今、1時間に5千食を作る全自動製めんシステムへと進化した。取得した特許は、商標権も含めて40件以上。販路を韓国、台湾など海外にも広げ、製造した製めん機は3万台以上だ。
足ふみはつらかった

当時は製めん所でうどんを食べさせていたところが多かった。主人がうどんを打って茹で、足ふみは妻や子が手伝った。作業はつらかった。25㎏の小麦粉袋を肩に担ぐこともあった。「体を重くすると、早くコシの強い生地になるからです」
病弱ながら、足ふみ代用機に執念を燃やす父の定雄さんを手伝っていた岡原さんは、「おやじの苦労を見て、早く足ふみを禁止してほしいと思っていました」という。
68年1月、食品衛生法の細則、めん類製造業の設置基準に「こね機、製めん機、切断機その他必要な器具等を備えること」が制定された。
足ふみ代用機が売れ始めた。「足ふみと同じように、コシの強いうどんが作れる」。製めん所やうどん店は重労働から解放された。
※(コシ)
さぬきうどん独特の「コシ」は、生地を縦横に伸ばしてグルテンの結合を促すことで生まれる。そのために「足ふみ」が必要だった。
※(食品衛生法の細則)
製めん機などの設置は「めん類製造業」に対する基準。「飲食業」に分類される「うどん屋さん」には適用されない。
※(こね機)
小麦粉に塩、水を加え練り上げる機械
※(製めん機)
足ふみ、伸ばし、切断まで自動化した機械
※(切断機)
ローラーで延ばしたうどん生地を、包丁で切る機械
さぬきうどんブーム
この小型製めん機の登場で、”素人でもできる“さぬきうどんの開業ラッシュが始まった。70年、大阪万博で安くてうまいと評判になり、75年には脱サラ転業ブームが起きたことで、さぬきうどんの開業は全国に広がった。
「何百食も、うまいさぬきうどんを手作業だけで打てません。チェーン展開するさぬきうどん店で、純手打ちの店はおそらくありません。機械があればこそ、均一でおいしいさぬきうどんを大量に提供できるんです」。岡原さんに「手作り」と「機械化」の不協和音は、ない・・・・・・。
※(全国製麺組合)
全国製麺協同組合連合会
さぬきうどんが地場産業に
製めん業者が設備投資するようになって、1時間に数千食を作る高性能製めん機の開発が必要になった。限りなく手打ちに近いうどんを、いかに大量に作るか。岡原さんは新たな課題に取り組んだ。
「通産省(現 経済産業省)の補助金で開発した全自動製めん機が、5年間は他社に売らないという条件で、(株)加ト吉=現 テーブルマーク(株)=に買い取られました」。冷凍うどんは加ト吉の独壇場になった。
手打ちの生うどんを全国の家庭で味わえるようにした、画期的な商品化だった。さぬきうどんは地場産業として確固たるものになった。
縦横に伸ばす工程は欠かせない
「手打ち式と手打ち風は、『足でふむ・めん棒で伸ばす・包丁で切る』の3工程を機械化してもいいのですが、生地を縦横に伸ばす工程を省略することはできません」。岡原さんの気がかりは、ブームに便乗した表示違反が増えていることだ。独特のコシやねばりの無い”手打ち“が、さぬきうどんのイメージダウンにつながるからだ。
※(生めん組合)
香川県生麺事業協同組合
これでいいのか
その危機感から岡原さんは、76年「さぬきうどん研修センター」を開設したという。さぬきうどんの技術指導や開業支援に力を入れて、これまでに、2万人以上を全国に送り出している。
香川で唯一の、公共職業訓練所の「さぬきうどん科」も受託している。
※(さぬきうどん科)
県立丸亀高等技術学校の職業訓練科目。3カ月でうどんづくりを学べる。年1回開講していたが、応募者が増え09年度には2度開いた。
もっとうまいさぬきうどんを!
うどんロボ
祖父が作った縄ない機のノウハウ、凹凸波状ローラーは、100年前のうどん職人の技術を再現した。今、うどんロボの製造能力は1時間700食。寸法はスタンドピアノほど。値段は約450万円で、手打ち職人1人の人件費に相当するという。「うどん・ロボ讃岐職人」は、店先でうどん作りの工程を見せる「小さな製めん所」だ。
※(うどん店の開業費)
標準的な店で設備費が500万から600万円。店舗改装費と合わせて1000万円程度必要だと言われている。1日3万5千円ぐらい売れると、年間4、5百万円の収入になる計算だ。
「投資は決して高くありませんが、うどんに対するこだわりと努力……その熱意と意欲が無ければ、生き残れません」。岡原さんの願いでもある。
岡原 雄二 | おかはら ゆうじ
- 略歴
- 1949年 三豊市生まれ
1971年 中央大学中退 さぬき麺機(株)入社
1972年 さぬき麺機(株)専務取締役就任
1985年 高瀬町商工会青年部長就任
1987年 さぬき麺機(株)代表取締役就任
1990年 全国製麺機材工業会理事就任
2004年 三豊ライオンズクラブ会長就任
2005年 瀬戸内短期大学非常勤講師就任
「さぬきうどんインストラクター科」
2010年 学校法人・麺とパスタ専門学校講師就任
さぬき麺機 株式会社
- 住所
- 香川県三豊市高瀬町下勝間148-3
- 代表電話番号
- 0875-72-3145
- 設立
- 1971年
- 社員数
- 34人
- 事業内容
- (ハード)店舗用コンパクト手打ち麺機・手打ちそば・うどん量産機・全自動製麺システム
(ソフト)製麺技術開発・製麺ノウハウ・調理指導・「さぬきうどん技術研修センター」を核として、全国11会場で製麺技術・経営ノウハウ講習会開催 - 沿革
- 1910年 創業、稲藁加工機を西日本に販売
1965年 香川県保健所の要請でうどんの「足ふみ代用機」
を開発
1968年 香川県条例で「足ふみ禁止令」布告
手打専門店向けの「さぬきシリーズ」完成
1971年 「さぬき麺機株式会社」設立
1974年 量産機「こんぴらシリーズ」完成
1975年 大阪営業所設立
「発明奨励賞」受賞
昭和50年代初頭 「ローリングプレス」開発
1976年 「さぬきうどん技術研修センター」開設
さぬきうどんの技術研修、始まる
1978年 「発明奨励賞」受賞
1983年 本社ビル・展示場完成
グッドデザイン「ディスプレイ大賞」受賞
1984年 「発明奨励賞」受賞
昭和50年代後期 店舗用のロングセラー「さぬき
シリーズ」
1985年 「食品産業技術功労賞」受賞
1988年 コンピュータ内蔵の「全自動包丁切り手打ち
麺機」完成
日本初5000食/毎時包丁切り手打ち麺機
「全自動Wエージングシステム」完成
「さぬきうどん情報プラザ」技術研修所完成
1989年 通産省技術改善事業認定(四国で1社のみ)
1990年 「発明奨励賞」受賞
1991年 91年度「科学技術庁官賞」受賞
1996年 96年度日本製麺機材工業界「特別賞」受賞
2000年 「粘力システム」完成
2003年 「粘力システム」発明奨励賞受賞
2005年 「さぬき黄金うどん」完成、研究会発足、
登録商標認定
2008年 新たに特許7件を取得、WEBサイト完全
リニューアル
2009年 「うどん・ロボ 讃岐職人」開発・特許と
商標権取得
2010年 創業100周年を迎える - 地図
- URL
- http://www.menki.co.jp
- 確認日
- 2010.03.18
おすすめ記事
-
2020.05.08
受け継いだ“本物の味”を研ぎ澄まし、進化させる
山田家物流代表取締役 山田康介さん
-
2019.05.02
香り広がる 上質な小麦粉を挽く
木下製粉 社長 木下 敬三さん
-
2009.09.17
ハイブリッドと石臼で
もっとうまい「次世代さぬきうどん」を!吉原食糧 代表取締役社長 吉原 良一さん
-
2010.01.07
三代続く職人気質が「足ふみ・手打ち」を守る
さぬき麺業 代表取締役社長 香川 政明さん
-
2017.03.16
うどん一杯一杯に 情熱と元気を注ぐ
ウエストフードプランニング 社長 小西 啓介さん
-
2015.11.05
飽きないうどんで 地域の食を支える
麺処 綿谷 社長 綿谷 泰宏さん
-
2013.09.05
「塩抜き」うどんを 駅弁屋が作った!
高松駅弁 社長 関 優一さん
-
2012.10.18
情熱と覚悟あればだれでも解ける うどん・そば・ラーメン成功方程式
大和製作所 社長 藤井 薫さん
-
2012.02.02
「踊るうどん学校」でみやげ物屋の新市場
中野屋 中野うどん学校 代表取締役社長 中野 吉貫さん
-
2024.04.18
日本の麺文化を世界へ広げる
コンテンツビジネスの可能性株式会社大和製作所 代表取締役 藤井 薫さん
-
2023.06.15
自分もまわりの人も“ワクワク”することを
株式会社たまり 代表取締役 山内 麻由さん