受け継いだ“本物の味”を研ぎ澄まし、進化させる

山田家物流代表取締役 山田康介さん

Interview

2020.05.08

工場で従業員とともに(高松市牟礼町)

工場で従業員とともに(高松市牟礼町)

山田家物流は、うどんの名店として知られる「山田家」のギフト用うどんを製造・販売する会社だ。社長の山田康介さん(41)の父、潔さんが創業した山田家から2002年に分社化、現在は会長である父のもと、山田家の社長を務める兄・勲さんとともにその味を守り、進化させている。

山田家物流に入社したのは24歳の時。それまでは、高級輸入車ディーラーで勤務していた。「いずれは帰るつもりでしたから、在籍している3年間で目標台数を必ず達成しようと思っていました」。2年あまりで目標を達成、休暇で帰省し実家の店を手伝っていた時、うどんを食べて笑顔になるお客さんの姿を見た。「うどんを囲んでみんないい顔してるんです。父や母が一生懸命つくってきたうどんはおいしいんだ、いい仕事だなあと思いました」

経理や事務、仕入れの見直し、パンフレット制作、店舗の手伝いなどの業務をしながら1年ほどたった時、突然父から製造工場の工場長を命じられた。「中学の時から手伝っていたので工程は何となく分かっていましたが、工場長という立場に戸惑いました」。教えてもらいながら仕事をする中で、職人の勘と経験に頼る部分が多い作り方に疑問をもった。「このやり方で、次の世代にどう伝えていけばいいのか、工場の生産量が増えた時に安定して品質が保てるのか」

そこで、気温や湿度で変わる塩、水、粉の量など分かることはすべて数値化した。よりよい品質を追求し、水の硬度を調整したほか、精麦度合までこだわったオリジナルの粉をメーカーと一緒に開発した。

反発もあったが長い時間かけて話をし、信頼できる従業員と新たに加わった若い職人たちで再スタートを切った。チームの中心になってほしい人に毎日手紙を書き「今日やる業務、なぜその仕事をするのか」を伝えた。「とにかく風通しがよくてずっと働きたいと思える会社にしたかった。父がやっていたように従業員といろんな話をしました。うちには社長室がありません」

心身の疲れ、ストレスからか3カ月あまり入院したこともあったが、「いざという時は山田家の社長である兄が助けてくれると思えたから、思い切った取り組みができました」

デザインは大事

2019年に本店を改装。寄贈された絵をはじめ、数々の邦坊作品を見ながらうどんを味わえる空間に

2019年に本店を改装。寄贈された絵をはじめ、数々の邦坊作品を見ながらうどんを味わえる空間に

ネット通販に取り組んだのも、うどん業界では早かった。自社サイトの売り上げが伸びず、やめようという話になったが「これからは通販の需要が伸びる」と父に提案し、楽天市場に出店した。「最初は、もとのサイトより売り上げが落ちて失敗したなと」。それが少しずつ売れ始め1年で月商が10倍以上に。成功事例として楽天のパンフレットに取り上げられるほど注目を集めた。

現在もネットでコンスタントに受注があり、顧客リピート率は楽天市場でもトップクラス。「『お土産、特産品を売る』ではなく、買われたお客様が食べて本当においしいと感じ、大切な人に贈りたいと思ってもらえる商品、というコンセプトで企画しています。あと徹底的に大事にしているのはデザインです」

デザインへの考え方は、会長である父から受け継ぎ、創業する際に店舗をプロデュースした香川出身の画家・商業デザイナーの和田邦坊の教えを基本としている。和田邦坊は父・潔さんの叔父にあたり、店のロゴやパッケージ、内装などを手掛けた。「とにかく“本物”を使うこと。偽物は風化するが、本物は時がたつほど味わいが出てくる。いま本店にある家具は創業時のものばかりです」

インパクトがあり、かつ洗練されたパッケージはギフトとして多くの支持を集めている。

本店の味に近づけるため

うどん職人が仕事に誇りを持てるようにしたい

うどん職人が仕事に誇りを持てるようにしたい

「もちろんパッケージだけではなく、味でも断トツで一番を目指しています」。どうすれば特色が出せるか。力を入れたのは「だし」だ。家庭でゆでる麺にはどうしても仕上がりにばらつきが出るが、おいしい「だし」なら差別化につながる。

材料にふさわしい昆布を探し、たどり着いた北海道のある浜。そこの浜の昆布を加工できる技術の高いメーカーと、1年半かけて通販用のだしを開発した。今でも改良を続けている。目指すのは、父母が作り出したお店の味だ。 “本物”のおいしさで、ファンが増えた。
開発時にスパイスメーカーも驚いた新商品のカレーうどん

開発時にスパイスメーカーも驚いた新商品のカレーうどん

凍ったまま鍋に入れて温めるだけで、一人用の本格的なうどんすきや、すき焼きうどんが味わえる「個食鍋」は大ヒット商品となった。この個食鍋のバリエーションの一つとして、どうしても開発したかったのがカレーうどんだという。

「東京ではカレーうどんは当たり前で、専門店もたくさんある。でも実は香川では、カレーうどんは王道じゃないという扱いなんです。私もそう思っていました」。これが、開発魂に火をつけた。圧倒的にうまいカレーうどんを――。

メーカーがカレー専門店を出すのかと驚くほどスパイスの調合に時間をかけ、14種類の香辛料を使用。ガツンとした辛さの大人向けカレーうどんが完成した。パッケージには、邦坊のもとで仕事をしていた人から寄贈された絵を入れてデザイン。展示会では、バイヤーからの商談申し込みが相次ぎ、いまやギフトの看板商品となった。

仕事を通して実現したい夢がある。「名物といわれるけれど、香川のうどん職人は減っています。だから、ドイツのマイスターのように、職人がもっとみんなから尊敬されるようにしたいんです」。自分の仕事に誇りをもち、山田家で働いていることを自慢できるような会社に、業界にしていきたいと将来を見据える。

石川恭子

山田康介 | やまだこうすけ

略歴
1978年 高松市(旧木田郡)生まれ
1997年 香川県立高松商業高校卒業
2001年 同志社大学商学部卒業
ディーラー勤務を経て
2002年 山田家物流入社
2013年 代表取締役

株式会社 山田家物流

住所
香川県高松市牟礼町牟礼3186
代表電話番号
087-845-0012
設立
2002年
社員数
53
事業内容
生うどん・冷凍うどん製造、販売、卸売
確認日
2020.05.08

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