懐かしい記憶の中の伝統的工芸品
「張子虎」は、勇猛で親子の愛情が深い虎にあやかって作られた縁起物で、男の子の生まれた家庭で、端午の節句や八朔に合わせて飾られていた。全国各地にこの風習があるが、香川では県西部、西讃地域の三豊市でこの張子虎が作られていて、現在では県の伝統工芸品にも指定されている。しかし、製作しているのは3人しかいない。
「寅年でもあるので、貴重な三豊の伝統を全国に発信したいんです」と三豊市観光協会の事務局長藤谷文雄さんは話す。
「張子虎」は約300年以上前に書かれた書物に登場する。三豊市に伝わる「張子虎」も同じく江戸時代、港町として栄えていた旧仁尾町へやってきた人形師が作り始め、明治に入って広まったと言われている。しかし、もともと玩具として作られていたためか、その正確な記録は残っていない。だが、古い家には歴史を語る古い虎がある。これを一堂に集めて、改めて「張子虎」を知ってもらいたい。三豊市観光協会が今年取り組む「張子虎推進プロジェクト」の狙いの一つだ。
観光協会が統合され初のプロジェクト
「多くの人に説明するために、いわれや作り方を覚えるのに苦労しました」と語る藤谷さん。
張子虎は、木型に和紙を貼り付け型をとる。和紙といっても、昔の商家や宿屋の台帳などに使われていた手すきの和紙でないと粘りがなく丈夫な型ができないそうだ。この為、製作者は古物商から買っている。大きなものではこうした和紙を600枚以上も使うそうだ。そしてできた型に牡蠣の殻を磨り潰した「胡粉(ごふん)」と呼ばれる粉に膠(にかわ)を混ぜた上薬を塗り、乾燥させた後絵付けをしていく。工程は全部で30以上もあり全てが手作業で行われる。このため完成するまでに約1カ月もかかるものもある。これらの作業工程も作り手が先代から学び取って受け継いだものがほとんどだ。その作り手が3人となってしまった今、観光協会の職員たちは、3人の工房を頻繁に訪ね、説明を受けながら作業工程を丹念に記録し続けている。
伝統工芸品のPRと課題
三豊市役所の玄関ロビーにも、子どもの健やかな成長だけでなく、商売繁盛、家内安全を祈願した張子虎たちがずらりと並んでいる。製作者は三豊市仁尾町の真鍋佳則さんと三宅修さん、それに三野町の田井艶子さんだ。虎の表情や体の模様も作者によって異なり個性がある。
一方で、3人が共通に抱えているのが後継者の問題だ。その製作方法が代々その家の中で受け継がれてきたものだけに、後継者を作る事が難しく深刻なのかもしれない。この問題について藤谷さんは、「張子虎を知ってもらうことで、この問題についても知ってもらうしかない」と話す。その一つの方法として、中学校などで伝統工芸士を招いて張子虎づくり体験教室を始めている。
江戸時代から庶民の生活の中に溶け込んだ「張子虎」。ただそれが身近でありすぎたために、正確な記録もなく、人々の生活様式の変化によって失われようとしている。これを守る取り組みが始まっている。
三豊市観光協会では、あさって9日から三豊市詫間町で、市民の家に眠っていた古い張子の虎など、およそ100体を集めて展示するほか、真鍋さん、三宅さん、田井さん3人の伝統工芸士による製作実演や絵付け体験教室を行う。
藤谷 文雄
三豊市観光協会
- 住所
- 香川県三豊市仁尾町仁尾辛34-2
- 代表電話番号
- 0875-56-9121
- 設立
- 2009年
- 事業内容
- 県内の観光地・施設やイベントを中心とした観光パンフレットの作成、インターネットの活用による県内の観光情報発信、国内外に向けての観光情報の発信。
- 沿革
- 2009年4月 三豊市観光協会 発足
- 地図
- 確認日
- 2010.01.07
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