この日は小型の「フライパンディッシュ」を鍛造。調理器具と食器を兼ね備えたもので、アウトドアやオーブン調理で活躍する。もともとアウトドアの人気が高まっていたところに、昨年来のコロナ禍により家族や一人でキャンプを楽しむ人が増えた。アウトドア用品のニーズも高まり、槇塚さんの鉄器もさらに人気となっている。
高松市出身の槇塚さんは高松工芸高校を卒業後、映像制作会社を経て、家業である鉄工所に入った。当時は、溶接で鉄製の水門をつくるなど公共事業を多く手掛けていた。職人さんに褒められたり叱られたりしながら、溶接の技術を覚えたという。2000年ごろ、公共事業の減少により経営状況は悪化。従業員を雇えず、兄で社長の涼さんと二人だけになったこともあった。「会社を畳むかどうか、家族で話し合いました。その時は鉄で何でもつくれる自信があったので、自分としては続けたい気持ちが強かった」。もらえる仕事は、とにかく引き受けた。
一方で、余っている鉄材での作品づくりも始めた。表札や、流木に鉄の脚をつけたベンチなどを展示・販売。兄の涼さんは鉄製の門扉や階段などオリジナルの建築金物を考え、パンフレットを作り営業。「槇塚鉄工所は金物のオーダーメイドができる」というイメージが定着し、次第に受注が増えた。
もう一人、作品を見て槇塚さんに声を掛けたのが、フードコーディネーターのみなくちなほこさん。鉄でフライパンを作ることを勧められた。その頃には増えていた鉄工所の社員の中に、芸術大学で金属加工を学んだ人がいた。金属を熱して溶かす「炉」の作り方を教えてもらい、独学で鍛造を研究。炉や鉄を打つときの台は自作した。フライパンや中華鍋を鍛造で制作し、みなくちさんとのコラボ商品「TEPPAN(テッパン)」シリーズが完成。株式会社ほぼ日が主催するイベント「生活のたのしみ展」にも出店した。
熱した鉄の温度は約千度。冬でも工房内は暑い。1日にできる作業は3~4時間。小物だと30個ほど作れるが、中華鍋といった大きなものは2個が限界。どこを叩くと効率よく作れるか、鉄と対話しながら打つという。
「たくさん売ろうとは思いません。一枚ずつ丁寧に作ったものを、丁寧に売りたい。お客さんにも鉄器の良さを伝えて、分かってもらった上で買ってほしいし、丁寧に使ってほしい」
鎌田 佳子
槇塚 登|まきづか のぼる
- 略歴
- 1972年 高松市生まれ
1991年 高松工芸高校 卒業
讃岐鉄器
- 住所
- 香川県高松市西植田町4532(オキオリーブガーデン内)
- 代表電話番号
- 087・862・2770(槇塚鉄工所)
- <TAKIBISM販売サイト>
https://store.upioutdoor.com/collections/takibism
※フードコーディネーター・みなくちなほこさんとのコラボ商品「TEPPAN」シリーズは、展示会やイベントでの対面販売のみ - 地図
- 確認日
- 2021.09.16
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