それぞれの「物語」を彩るおかしな会社でありたい

工場内に入ると、甘い香りが漂ってくる。クッキー、ゴーフレット、チョコレートにカステラ･･････キティちゃんなどのキャラクター商品もある。

常に250種類ものお菓子を製造しているツジセイ製菓。商品の企画・提案、パッケージ加工なども行っている。OEM（取引先のブランド名で販売される商品を製造）で受注生産しているため、その名はほとんど表には出ない。しかし、「香川生まれ」のお菓子は、空港やサービスエリア、観光スポットなど全国のあらゆる「人が集まる場所」に並べられている。

辻さんは以前、大阪のテレビ制作会社に勤めていた。しかし、一念発起してツジセイ製菓を設立。1986年のことだった。

「超Ａ級の観光施設ができる、という話を聞いて思い立ちました」

2年後の88年、瀬戸大橋が開通した。辻さんは初めて20点ほどのオリジナル商品を作り、開通を記念して開かれた瀬戸大橋博で提供。会社は順調にスタートを切った。そしてその後、時代は「テーマパークブーム」に突入していく。

91年にレオマワールドが開園。やはり20点ほどのオリジナル商品を作った。地元で経験と実績を積み上げると、活躍の舞台は全国へ。福岡ドーム、志摩スペイン村、そして倉敷チボリ公園･･････「最初の10年は這いずり回って、人が集まるところに行っていました」と辻さんは語る。しかし時代の「風」をよんで先手を打って出る戦略で、会社は成長を続けた。

お菓子の製造は高松市の2カ所の工場で行っているが、営業マンは全国を飛び回っている。使命はアンテナを張り巡らせて「風」をキャッチすること。会社の生命線とも言える。しかし、風は決して「追い風」ばかりではない。今は正に「逆風」なのではないだろうか。

「有名なお菓子屋さんは、商品一つが1000～3000円。お土産には少し高いですよね。そこで300円のものを作ったんです。500円位に見えるようにして･･････」。商品は売れた―。

「例え逆風が吹いても、向きを変えれば追い風ですから。それにスキーのジャンプは少し逆風の方が距離が出るでしょう？」柔らかな口調で辻さんは話を続ける。

「不況の方が、バブルより追い風かもしれませんね」。事態を深刻に思わせない雰囲気が辻さんにはある。

「お土産って、旅先での楽しかった思い出も一緒にして贈りますよね。ですから、汗と涙を流しながら苦しんで作るものじゃないんです。それに楽しく作らないと美味しくないですよ」

「楽しさ」を形にするために、現在最も力を入れているのが「商品企画」だ。ここ数年、地域の特産と人気キャラクターをコラボさせた「ご当地もの」などのお土産をよく見かけるが、ツジセイ製菓ではさらにひねりを加える。それは「サプライズ」。

「パッケージも面白くて、開けてみたら、もう一つ面白い。今一番心がけているのは『予想以上の驚き』です」。放送作家などとも連携し、生み出す企画は年間100以上。ほぼ3日に一つ、新たなお菓子が作られている。「失敗して、すぐに消えていくものもありますけどね･･････」

取材中、偶然ある芸能プロダクションとの企画会議が開かれていた。その空間には大きな笑い声が響き渡っていた。

風をよみ、楽しい思い出に「驚き」を添えて届ける―。

「どんなことを思ってそれを買ったのか･･････贈る人と贈られる人の間には様々な物語があって、それがお菓子でやりとりされる。これってすごいことだと思うんですよね」

去年6月、辻さんは神戸に洋菓子を扱う新会社を立ち上げた。結婚式やバレンタインなど、やはり「楽しい場所」が物語の舞台となる。

そして来年春には東京スカイツリーが開業する。世界中の人たちが感動と思い出を持ち帰る場所に、「驚き」が添えられたたくさんのお土産が並んでいる･･････夢の広がる新たな物語が、辻さんを待っている。