辻清太さん(58)は1986年、義父からの出資を受け、お土産用の菓子メーカー、ツジセイ製菓を立ち上げた。超A級施設、瀬戸大橋ができる2年前のことだった。「架橋記念で開かれた瀬戸大橋博で、ツジセイ製菓というお菓子屋がスタートしました」
人が集まる場所をターゲットに、くすっと笑えるユニークなお土産を次々にヒットさせてきた。OEM(取引先のブランド名で商品を製造)で受注生産しているため社名は表には出ないが、東京スカイツリー、ハウステンボス、海遊館など国内有数の観光地にはツジセイ製菓で作られたお菓子がずらりと並ぶ。
「驚きと感動を生む"おかし"な会社でありたい」。その信念で会社を一から育ててきた。 来月で創業30年を迎える。節目の年に辻さんは、驚きと感動を生み出す新たな夢を思い描き、チャレンジの一歩目を踏み出そうとしている。
ゼロから企画して作る
大阪にユニークなお土産がある。ツジセイ製菓が企画した「とらカップぶらさがりトラクッキー」だ。クッキーのトラの前足をカップの縁に引っ掛けると、トラがぶら下がっているように見える。「可愛らしい姿に癒やされる」「コーヒータイムが楽しくなる」と女性を中心に人気が広がった。お客さんがイメージできるよう、カップにトラをぶら下げて店頭に置く商品サンプルの仕掛けも合わせて提案した。
「大事にしているのはインパクトやユニークさです。ひとひねりしたアイデアで『ツジセイのお菓子には何かある』と思われる商品づくりを目指しています」
OEM製造と言えば、発注元からの注文通りに商品を作るのが一般的だ。しかし同じOEMでも、企画を練って売り込むところから始まり、顧客と一緒に商品を作り上げていくのがツジセイ製菓のやり方だ。少しでも面白い商品を作ろうと、お笑いの芸能事務所やテレビの放送作家とチームを組むこともある。「発想力を磨く社員研修も取り入れています」
営業マンは車で年間5万キロ、タクシーと同じ位の距離を走り、全国各地の取引先を隈なくフォローする。お客さんがどのような商品を望んでいるか、どんなイベントを計画しているか、情報を素早くキャッチし、新たな商品開発に繋げていく。
「自分達がゼロから企画して、お菓子やパッケージや売り方を決める。そうやって生まれた商品が店頭に並んだ時や売れた時は何事にもかえがたい達成感があります」
テーマパークブームで全国へ
創業当時はバブル期のテーマパークブームだった。志摩スペイン村(三重)、呉ポートピアランド(広島)、倉敷チボリ公園(岡山)など全国へ進出したが、「毎日が戦場の様でした」
午前3時に工場の機械のスイッチを入れ、フル稼働でお菓子を作った。一日の作業が終わるのは翌朝2時。「次に機械を動かすまで1時間しかないので、工場に段ボールを敷いて寝ていました。もうフラフラですわ」。お菓子を焼き続け、商品を完成させ、店頭に並べ終わった直後にテーマパークのオープニングパレードが始まったこともあったそうだ。
当時お土産のお菓子と言えば、箱入りで一つ1000円位、袋入りで500円位が一般的だった。バブルが崩壊して景気が冷え込んだ時、辻さんは箱入りを300円で販売した。他社が真似できないやり方で売れるには売れたが、1000円も300円も一つの商品に掛かる手間は同じ。原価まで持っていくには3倍以上の個数を作らなければならなかった。「タイムカードが真っ黒になる位、従業員にも苦労を掛けました」。深夜まで残業していたパートの女性の夫が、「こんな時間まで本当に仕事をしているのか」と工場に怒鳴り込んできたこともあった。「厳しい時期を乗り越えられたことが自信になり、会社の力がついたのかなと思います」。辻さんはしみじみと振り返る。
4代目の使命と責任
東京スカイツリーでは数ある土産物の中で常に売れ筋トップ5に入り、大阪万博跡地に昨年開業した大型複合施設エキスポシティ内の土産物売り場では、早くもヒット商品を生んでいる。
家業は映画館の興行主だった。曽祖父が創業し、最盛期には香川、愛媛、大阪で20館以上を経営していた。「子どもの頃は映画館の中が遊び場でした。ガラガラだった記憶しかありませんが・・・・・・」。中学3年の時、高松市藤塚町にあった最後の劇場が閉館した。
「父親までは映画館の仕事をしていましたが、私はできていません。今の時代、小さな映画館をやっていくのは非常に難しいと分かっていますが、何らかの形で映画に関わる仕事をすることが4代目としての使命であり、責任だと思っています」。祖父が高松市古馬場町に建てた映画館のオープンが、自身の誕生日と同じ1957年8月だったことにも運命を感じている。
ツジセイ製菓の後継者を育て、新たな分野にもチャレンジする。まだまだやることはたくさんあると辻さんは意気込む。
「人が集まる場所に驚きと感動を届けるというのは、お菓子も映画も共通すると思うんです。地域に貢献できる"おかし"なことをこれからもやっていきたいですね」
編集長 篠原 正樹
辻 清太 | つじ せいた
- 1957年 高松市出身
1980年 名古屋商科大学商学部 卒業
大阪東通(現関西東通)入社
1986年 ツジセイ製菓 設立
代表取締役
- 写真
ツジセイ製菓 株式会社
- 住所
- 香川県高松市香川町川内原1591-1
- 代表電話番号
- 087-885-2000
- 設立
- 1986年
- 社員数
- 100人
- 事業内容
- 香川産のお菓子の企画・提案、パッケージ加工、製造・販売
- 沿革
- 1986年 高松市寺井町にツジセイ製菓有限会社を設立
1994年 株式会社に組織変更
2007年 香川町に事務所、工場を新設
本社機能を移転 - 資本金
- 4500万円
- 地図
- URL
- http://www.tsujisei.co.jp
- 確認日
- 2018.01.04
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