1999年、仲間を募って「NPO法人わははネット」を立ち上げた理事長の中橋恵美子さん(41)は、子育ての不安を、情報誌と携帯メール、井戸端会議の場でつなぐ「子育て支援ビジネス」を成功させ、タクシー会社と協力して母子に優しい「子育てタクシー」を全国に普及させた。
「子育ての不便」を「便利」に変える発想力と行動力・・・・・・社会起業家 中橋さんの後ろを企業や行政が追いかける。
※(社会起業家)
社会変革と収益事業を両立させて起業する人。
子育ては、みんな不安
「なぜ子どもが泣いているのか、食べてくれないのか分からない。外出先は近所のスーパーと公園。化粧もしない、ストッキングもはかない日が多くなりました」
小さな生き物に振り回される自分と、おかしいぞと感じるもうひとりの自分がいた。3年後香川に戻っても同じだった。
外に出て自分の世界を広げようと、仲間と子育て情報誌を創刊した。「編集室にしていた自宅のFAXがくるくるまわり、郵便受けから手紙がこぼれ落ちました」。子育てに悩む若い主婦からの反響に驚いた。
子育ては、つらく、切ない
「ある朝、子どもの体が熱かった。休むと職場に迷惑がかかる。体温計を使うと熱があると分かるから、思い過ごしだと自分に言い聞かせて、保育園に預けて勤めに出た。昼過ぎに電話があって『朝から熱があったんでしょう、ちゃんと見てやらないとダメでしょう』としかられた。病院で先生に、家で夫にしかられて謝った。働きながら子育てしている私は、なぜこんなに頭を下げてばかりなんでしょうか」
「衝撃でした。ボランティア活動でいい気になっていた私は専業主婦です。仕事をしながら子育てする厳しさ、つらさを思い知らされたんです」。中橋さんは、その衝撃を行動に移した。「真鍋知事に、『おやこDEわはは』のインタビューを通してお伝えし、7カ月後、2001年4月、香川県で初めての『病児保育室うぐいす』が綾川町国民健康保険陶病院に開設されました」
子育ての切実な声を届けたら行政が動いた。達成感が弾みになって中橋さんの関心は、個人から地域社会へ、社会起業家へ向かった。
※(病児保育室)
保育園に通っている子どもが風邪などの軽い病気にかかり、集団保育が不可能になった場合に、その子どもを預かって世話をする施設。現在香川県内では▽高松市・トビウメ小児科医院付属病児保育室子どもの家▽高松市・西岡医院病児保育室レインボーキッズ▽高松市・小林内科小児科医院付属病児保育室すこやかルーム▽高松市・はらこどもセンター病後児保育室▽坂出市・総合病院回生病院▽善通寺市・カナン子育てプラザ21▽善通寺市・にしかわクリニック病児保育室げんきになあれ▽観音寺市・三豊総合病院病後児保育室わたっこ保育園▽東かがわ市・小児科内科三好医院病(後)児保育室チャイルド・ケアーシステム・エム▽土庄町・土庄町病児・病後児保育室げんきっこ▽綾川町・綾川町病児保育室うぐいす
携帯メールがビジネスモデルに
補助金をもらって携帯メール事業を始めたものの、赤字で困っているNPOが多い。組織が仲良しクラブ的運営で、ボランティアの営業活動は「悪」の意識があるからだと中橋さんは分析する。
なぜ「わははネット」が、補助金を一銭ももらわずに事業が継続できるか。横浜、京都、沖縄、福岡の4団体にノウハウを伝えた。
「他の組織との決定的な違いは、仲間と2人で200万円出資したことだと思います。出資者が意志決定権を持って、事業を継続するための経費は、営業収益でまかないます」
広告収入になる企業情報は、子育て主婦に共感してもらえる情報だけを選ぶ。イベント情報は、香川県を10ブロックに分け、子どもの年齢を月齢まで分けたきめ細かな情報だ。
「最初に居住エリア、年齢、月齢とニックネームを登録すると、例えば、坂出市の1歳6カ月や、丸亀市の2歳6カ月の子どもの母親だけに役に立つ情報が届くようにしています」。マスメディアや企業からではない、メル友の「ミカちゃん」からのメールが届くのだ。
※(IT活用事業)
経済産業省 地域新事業創出発展基盤促進事業「子育て・まち育てIT活用ハッピープロジェクト」
※(わははメール)
問い合わせ先Mail:info@e088.jp
※(ミカちゃん)
わははメール発信者の愛称
「不確かな口コミ・交流の場」をつくる
良いことも悪いことも不確かなことも、口コミ情報の真偽を見極める能力をもつためにも、人と触れ合う「井戸端」が必要だと中橋さんは言う。
「子どもたちの成長を喜び合い、本音で語り合え、悩みを相談し合う場です。支援されることもあれば支援者側になることもできる、ありのままの自分を受け入れてくれる、循環型の子育て支援の場を作りたいと思いました」
去年から国の地域子育て支援拠点事業が始まって「わはは広場」は、高松市の委託事業になった。
※(わはは広場)
▽わははひろば高松/高松市大工町1-4 TEL:087-822-5582
▽わはは子育て広場 ジャスコ高松店/高松市香西本町1-1 イオン高松ショッピングセンター TEL:087-822-5589
▽わははひろば坂出/坂出市元町4-1-1 TEL:0877-45-6586
子育てに優しいタクシー
「ロゴを付けたタクシーが走っていると、よそから来た人は、香川県は子育てに優しいと思うだろうと、マークもデザインしました。画期的だと思いましたが、どこも、ノーでした」
介護タクシーは介護保険がつく。子育てタクシーは手間が掛かるが、割増料金はつかない。02年の規制緩和で競争が激化しているのに、男目線では、ニーズが見えなかったのだろうと、中橋さんは言う。
そこで04年、子育て主婦で花園タクシーの社長だった鎌野実知子さんと組んで「子育てタクシー事業」をスタート。06年、全国子育てタクシー協会を設立、現在は北海道から沖縄まで22道府県68社が加盟して、約850人のドライバーを育成して運行するまでになった。
社会貢献の企業化
「子ども虐待のSOSがあっても、元日の午前1時に迎えには行けない。タクシーはそれができます。それを『子育ての不便』につなぐと、『子育てタクシー』になったんです」
「わははメール」も「子育て広場」も国が後からついてきた。「子育ての不便」を「便利」に変える中橋さんは、企業にも子育て主婦にもプラスになる仕組みづくり、「社会貢献の企業化」に確かな手ごたえを感じている。
家庭円満
結婚して16年、趣味は政彦さんの「追っかけ」だと、中橋さんは笑う。
「夫は現役を引退した柔道家で、2009年フランス、10年マルタ共和国であった世界柔道形選手権大会で、2年続けて優勝したチャンピオンです」。胸を張る。
政彦さんは塗装会社中橋産業(株)の経営者で、夫婦共に忙しい。「子育ても、夫婦の愛が基本です。毎月ゼロのつく10日、20日、30日を『ラブの日』にして、夫と過ごそうと言い続けていますが、これだけは、まだ実現していない」とほほえむ。
家庭円満が中橋さんのエネルギーの源だ。子どもの虐待が多いし、セックスレスが話題になる昨今だから、「ラブ」に触発されたサービスも、中橋さんは、実現するに違いない。
子育てタクシー三つのサービス
チャイルドシートを設置してお迎えにいきます。
●お子さんが1人で乗る「ひよこコース」
保護者の方がご予約のうえ、お迎え場所、送り先を指示いただき、お子さんをお迎えに行きます。
●急なトラブル・夜中の移動などの「ふくろうコース」
夜中のお子さまや保護者の急な病気やけがの場合の、病院への送迎、近親者のご不幸など、事前予約が出来ない場合。
全国子育てタクシー協会事務局(NPO法人わははネット内)
TEL:087-816-5581 FAX:087-816-5582
Mail:info@kosodate-taxi.com
中橋 恵美子 | なかはし えみこ
- 略歴
- 1968年 香川県生まれ
1989年 四国学院短期大学英語科卒業
大成建設会社(株)四国支店入社
1992年 同社退社、結婚、つくば市に移転、出産
1995年 つくば市から坂出市に移転
公職
独立行政法人 国立女性教育会館運営委員
香川県社会教育委員
丸亀市:男女共同参画審議会委員
かがわ子育て支援県民会議委員
香川県福祉のまちづくり賞審査委員会委員
褒章
2009年 にっけい子育て支援大賞(主催 日本経済新聞社)
ウーマン・オブ・ザ・イヤー2009 総合部門7位、リーダー部門5位 受賞(主催 日経ホーム出版社)
NPO法人 わははネット
- 住所
- 香川県高松市大工町1-4
- 代表電話番号
- 087-822-5589
- 設立
- 2002年
- 事業内容
- 子育て情報配信
子育て情報紙「おやこDEわはは」季刊2.5万部発行
子育て情報携帯配信サービス「わははメール」会員数4000人(2009年度)
つどいの広場「わはは広場」 坂出・高松3カ所開設 - 沿革
- 1999年 4月 育児サークルわははネット設立
子育て情報紙「おやこDEわはは」創刊
2003年 3月 坂出市に「わははひろば坂出」開設
2003年 6月 「おやこDEわはは」無料配布スタート
年4回発行に
2003年12月 「わははメール」配信スタート
2004年 3月 四国の子育て団体が協力して、「子どもと
でかける四国あそび場ガイド」発行
2004年 9月 高松市に「わはは広場」開設
2005年 3月 「子どもとでかける香川あそび場ガイド」
発行
2006年 2月 「'06~'07子どもとでかける四国あそび場
ガイド」発行 - 地図
- URL
- http://npo-wahaha.net
- 確認日
- 2010.06.03
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