勝って、負けて、初めて見えた 野球のチカラ

丸亀高校 野球部監督 山本 雄一郎さん

Interview

2013.10.03

試合に勝って初めて見えるものがある。第95回全国高等学校野球選手権記念大会で甲子園を経験した、県立丸亀高等学校野球部監督の山本雄一郎(36)さんは、視野が変わったことに驚いている。

チームを強くすることしか頭になかったのに、香川県の高校野球をレベルアップしたいと思うようになったのだから。

負けて見えるものもある。2008年4月、母校の監督になった秋の県大会で3位。10年の春と、11年、12年の夏に、3年連続3回、決勝で敗れた。

悔しい思いをして反省した。ここ一番の勝負に弱い理由を考えた。勝つ可能性が見えてくるまで考えた。自分の指導にも原因があると気づいた。

人の器は不思議な入れ物だ。勝つ喜びと、負けた悔しさを盛って大きくなる。

甲子園を経験して視野が変わる

現役時代、丸亀高校では補欠だった。大学ではレギュラーを務めたが、当時の丸亀高校も大阪大学も強いチームではなかった。

山本さんにとって初めての全国大会出場で、今まで知らなかった高いレベルの野球を見て、経験不足を痛感した。しかし、「なるほど、甲子園で勝つのはこういうことだ」とイメージできるようになった。

香川県は甲子園で久しく低迷している。1勝でも2勝でもするために何をすればいいのか、まるで高校野球界のリーダーのような思いを持つようになった。

「そんな立場ではないのに、不思議なおかしな気持ちです」。山本さんは照れながら笑う。。

選手の自立を邪魔した?

「一番反省したのは、焦った僕が動きすぎて、選手の自立を邪魔しとったかもしれんということです」

3年連続3回、県大会の決勝戦で敗れた。練習では選手の自立を指導してきたが、試合の土壇場で、自ら指示していた。

監督の役割は、練習の成果を、選手が自分で決勝の舞台で出せるように、事前に準備することだと気づいた。

最後に勝てなかったチームの1年生が3年生になり、足りなかったものが何なのか、自分たちで考えて練習するようになった。

今年の夏、丸亀高は13年ぶりに優勝した。

「当たり前」を練習する

「勝負強さとは、9回の裏に相手より1点上回る能力です。初回に8点取られても、その場その場で、やれることを実行することです」

過去の失敗を引きずって、まだわからない未来に不安を感じるより、最適なプレーを選択するために、状況を明確にする。コミュニケーションをとってチームの意思を統一する。

守りなら捕手が、点差やイニング、アウトカウントによって、セーフティーバントやヒット・エンド・ランへの備えを指示する。

投手のストライクゾーンが外角に集まっていたら、打球の方向を予測して守備位置を変える。2死なら、アウトを1つ取ればいいと、ベンチからもナインに声を掛ける。

その当たり前を、コツコツと練習で積み重ねていけば、最後の夏に力を出し切れる。丸亀高前任監督・搆口秀敏さんのコーチを4年務めて学んだ、山本監督の野球だ。

(搆口秀敏)
現・坂出高校野球部監督

勝ってイメージできる力

「監督になってすぐ準優勝が続いた理由の一つは、先輩の長尾健司先生が監督をされている、香川大学付属坂出中学校の野球部にあります」

県大会で常に上位の付属坂出中学は、練習方法が独特だ。トランポリンの上のピッチング練習は、スポーツ紙で取り上げられた。

「下校時間が規則で決まっているので、実質45分ほどしか練習できませんが、土日は、強豪校の明徳義塾中学や高知中学などと練習試合をして力を蓄えています」

その部員たちが丸亀高校へ進学する。「身体能力が特に高いわけではありません。県大会で勝ってきた経験が、丸亀高の成績につながっているとしか思えないのです」

中学時代に勝った経験で、高校野球でも勝利をイメージできる。その力は大きい。

負けて見える野球の面白さ

今夏の甲子園では初戦で横浜高校に負けた。「よう頑張ったと言われる度に、悔しいです。一番悔しい」

高校時代、レギュラーになれず悩んだ。練習すればするほど能力の差は分かる。3年生の時、入部してきた1年生に勝てなかった。辛くて悔しくて、夜も眠れなかった。

だが野球は面白かった。甲子園を目指して仲間と練習することが楽しかった。試合に出る9人は花形だが、マネジャー、ベースコーチ、練習だけの1年生にも役割があるし、後援会やOBの人たちも支えてくれる。

「高校野球は地域の人たちも巻き込んで、甲子園という舞台に挑む、日本の大きな祭りです。本当に面白いです!」。山本さんの声が大きくなった。

勝負どころの「我慢」と「一本」

入場行進する丸亀の選手たち=8月8日、阪神甲子園球場(朝日新聞社提供)

入場行進する丸亀の選手たち=8月8日、阪神甲子園球場(朝日新聞社提供)

強豪校でも打者の成功率は3割だ。チャンスにヒットを打てないこともある。エラーも出る。弱小チームでも、投手が我慢して投げ続け、打者が勝負どころでヒットを一本打てばゲーム展開は変わる。

山本さんと丸亀高野球部18人の練習は、すでに始まっている。新チームが目指すのは、ピンチの我慢と、チャンスの一本だ。

山本 雄一郎 | やまもと ゆういちろう

1977年 多度津町生まれ
1996年 丸亀高校 卒業
2000年 大阪大学 卒業
    教員採用試験に地歴科担当として合格
2001年 高松商業高校 野球部副部長
2004年 丸亀高校 野球部副部長
2008年 丸亀高校 野球部監督
写真
山本 雄一郎 | やまもと ゆういちろう

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