嫌われた監督
落合博満は中日をどう変えたのか

著:鈴木 忠平/文藝春秋

column

2022.02.03

2007年11月1日、今も語り継がれるプロ野球日本シリーズ、中日ドラゴンズ対日本ハムファイターズの第5戦。中日・山井と日本ハム・ダルビッシュの投げ合いで始まった試合は1対0で中日がリードし、山井は8回までランナーを一人も出さず、あと一回で完全試合というところまで来ていました。そして迎えた9回、落合監督はリリーフに岩瀬を送りました。日本シリーズで、日本プロ野球史上初めてという記録を山井は逃しました。結果的に岩瀬が3人で抑え、継投による完全試合で中日は日本一をつかみましたが、落合監督の采配に日本中から非難の嵐が巻き起こりました。

著者は自問します。「自分ならどうする?そう考えずにはいられなかった。プロ野球とは何なのか。あらゆる人にそう問いかけるゲームだった」。そして無名時代の落合博満の逸話を紹介します。「飛び抜けた野球の才能を持ちながら、体育会の理不尽を許せず、秋田工業高校の野球部を辞めた。野球を見込まれて進んだ東洋大学でも寮を飛び出し、中退した」。東芝府中の臨時工として野球を再開したころも特に夢はなかったといいます。落合を表す代名詞に「オレ流」があります。落合は「自分では一度もオレ流という言葉は使ったことが無い」といいますし、「オレ流って堂々たる模倣なんだよ」といいます。しかし落合の言動はいつも世間や野球の常識から、意識的にかどうか分かりませんが、ズレが生じています。それがどこからくるのか分かりません。周囲と調和せず隔絶しており、あらゆるものへのアンチテーゼのようなその存在が、世の中の欺瞞や不合理を照らし出してしまうと著者は感じます。なぜ語らないのか。なぜ俯いて歩くのか。なぜいつも一人なのか。そしてなぜ嫌われるのか―。最後に著者はこう書きます。私はまだ落合が何者であるかを表す端的な一文を見つけることは出来なかった。

中日が53年ぶりに日本一になった前年は、笑顔とパフォーマンスの新庄剛志に引っ張られた日本ハムが中日を破って日本一になりましたが、2022年の今年、その新庄剛志が日本ハムの監督になって戻ってきます。欲を言えば落合野球と新庄野球の対戦を見てみたいと思います。

山下 郁夫

宮脇書店 総本店店長 山下 郁夫さん

坂出市出身。約40年書籍の販売に携わってきた、
宮脇書店グループの中で誰よりも本を知るカリスマ店長が
珠玉の一冊をご紹介します。
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宮脇書店 総本店店長 山下 郁夫さん

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