最新ハイテク機器で目指す機能分化

香川県立中央病院 院長 太田 吉夫さん

Interview

2014.10.02

ロボットアームがまるで人間の手のように自在に滑らかに、そして正確に動く。香川県立中央病院が新たに導入した手術支援ロボット「ダヴィンチ」だ。

2014年3月、中央病院は手狭だった高松市中心部の番町から海沿いの広大な埋め立て地、朝日町へ移転。老朽化が深刻だった建物は250億円をかけて建て替えられ、最新鋭の医療機器やヘリポートが備わった。

時をほぼ同じくして院長に就任したのが、副院長だった太田吉夫さん(62)だ。「中央病院の医師は、大学病院にも肩を並べられるくらいのトップクラスの力があります」

これからは病院ごとの役割分担が必要で、総合病院や大学病院は高度医療に特化すべきだと太田さんは語る。

将来の日本の医療を見据えた機能分化を目指し、新院長は新病院とともに、新たなスタートを切った。

手術ロボットを遠隔操作

香川県立中央病院のウリは、新築移転を機に導入された最新鋭機器の数々だ。

「ノバリスTx」は、四国初、全国でも数台しかない高精度放射線治療システム。これまでのがんの放射線治療では、正常な組織まで傷めてしまう危険性があった。しかし、ノバリスはコンピュータ制御により腫瘍の形に合わせたピンポイントでの放射線照射が可能。がん細胞のみを死滅させられる優れものだ。

「ハイブリッド手術室」は、その名称からも最新だというのが伝わってくる。手術台と血管造影撮影装置を組み合わせたもので、体内のどこかで出血していないかを検査しながら手術するというまさにハイブリッド。安全に治療を進めることが出来る。

そして目玉は4億円をかけて導入した手術支援ロボット「ダヴィンチ」だ。医師は手術台から離れた場所にいて、3D映像を見ながら遠隔操作する。その手の動きがコンピュータを通して忠実にロボットに伝わり、鉗子や電気メスなどの器具が連動し手術を行う。「とても使いやすいと、ベテランの医師も感動していました」。カメラを通して患部を拡大して見ることも出来て手振れもないため精度は上がり、お腹を切って開かなくても手術できるため患者の負担は軽くなる。

「以前の古い建物だと部屋の広さや強度が足らず、これらを入れられませんでした。今の技術で患者さんが助かるのであればと、最新の機器を導入できるように設計して病院をつくりました」

屋上にはヘリポートも設置。すでに県の防災ヘリで小豆島から患者を運び、緊急手術を行ったこともある。
手術支援ロボット「ダヴィンチ」。医師とロボットが一体となって手術を行う

手術支援ロボット「ダヴィンチ」。医師とロボットが一体となって手術を行う

海に近くてもメリットはある

最新設備で再スタートを切った中央病院だが、そもそも新築移転を巡っては紆余曲折があった。

移転先の候補地には、サンポート高松、香川インテリジェントパーク(高松市林町)などが挙がり、絞り込むのに時間がかかった。

広い敷地が確保できることなどから高松市朝日町の日本たばこ産業高松工場跡地に決まったが、海に近い埋め立て地に、高潮や津波による浸水、地盤の液状化など防災面を不安視する声も上がっていた。

移転計画に災害対策を盛り込み、2011年3月5日、工事に着手。しかし、その6日後に東日本大震災が起きた。

工事は一時中止となり、地盤のかさ上げを3.3メートルから4.3メートルに変更、液状化防止の範囲を拡大するなど防災対策を強化し再着工した経緯がある。

岡山大学病院副院長だった太田さんが、中央病院に副院長として来たのは13年4月。移転の経過にほとんど関わってはいないが、海沿いに移ったことは様々なメリットがあると評価もする。

「病院の建物は免震構造になっているので、東日本大震災クラスの地震が来ても問題はありません。万が一、津波で市内の道路が遮断されたとしても、ここなら船が使えますし、ヘリポートもあります。高潮は長い時間は続かないし、そもそも十分にかさ上げしているので浸かる心配はないと思います」。さらに、こう加える。「高松市中心部には高松赤十字病院、高速道路のIC近くには香川大学病院、高松市民病院は南の仏生山町へ移る計画があります。結果的に、高松市内では主要な病院がバランスよく配置されていると思います」

ここでしか出来ない医療

中央病院は、急速に容体が変わる急性期の患者や重症患者の治療に対応できる三次救急医療機関だ。だが、外来で風邪をひいた人も来るし、最近は新しくなった病院をぜひ見たいと来院する人も多いそうだ。「極端な話ですが、中央病院は一般外来をなくしてもいいのでは、とも思っています」

現在受け入れている外来患者は一日約1000人。このうち3分の2は他の病院でも対応できると太田さんは話す。

全ての病院が最新の機器や多くの医者をそろえることは出来ない。これからは医療の機能分化が必要だと力説する。

「うちは急性期だけを診て、例えば手術して1週間経ったら他の病院で診てもらう。病院間で連携し、そういう環境をだんだんと作っていかなければならないと思っています」

岡山大学医学部を卒業し、麻酔科医としてキャリアを重ねた後は、岡山大学病院の医療情報部教授を約15年間務めた。「日本の医療システムがよく見えました。現状や課題、病院の役割、日本の医療は世界と比べてどういう位置にあるのか・・・・・・。今のポジションを務めるには良い経験を積んできたかなと思いますね」

医療の将来のため、機能分化を行政や医師会にも働きかけていきたいと話すが、実はジレンマもある。「患者さんにとっては、一つの病院でずっといる方がストレスも少なく楽かもしれません」。しかし、病院ごとに特色を持って役割を分担した方がより効率的で、大小ある病院の共存にも繋がっていく。長い目で見れば、それが最適な医療の提供や患者のメリットになると信じている。

中央病院での手術室で実施する手術件数は月に約500件、病床の稼働率は8割を超える。医師は130人いるが、まだ20人ほど足りていないという。

救急で運ばれてきた患者はもちろん受け入れる。しかし、ここでしか出来ない治療を求めている重症患者は全て断らずに受け入れたい。太田さんの強い思いだ。

「出身の岡山大学病院との繋がりを生かし優秀な人材を育てていくことも私の重要な役目です。地域の大学や病院とも互いに手を携えて、香川の医療をもっと良くしていきたいですね」

◆写真撮影 フォトグラファー 太田 亮

太田 吉夫 | おおた よしお

1952年1月16日 岡山市生まれ
1976年 岡山大学医学部 卒業
    岡山大学病院 医療情報部教授、副院長などを経て
2013年 香川県立中央病院副院長
2014年 香川県立中央病院院長
写真
太田 吉夫 | おおた よしお

香川県立中央病院

住所
高松市朝日町一丁目2番1号
TEL:087-811-3333
延床面積
約4万5000m2(旧病院:約3万4000m2)
病床数
531床
構造
地上11階1棟(免震構造)
診療科目数
32科
確認日
2018.01.04

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