浮き彫りになった現実
「国民皆保険制度のもと、だれもが病院で治療を受けられることに慣れていた日本人が、改めて医療に目を向けるきっかけになったかもしれません」と県医師会会長・久米川啓さんはいう。
「コロナ禍前の県内の病床の稼働率は8~9割ぐらい。ベッド数を減らしていた中で感染症が広がり、逆にベッド数を確保しなければならなくなった。医療現場は本当に厳しい状況で、今も緊張が続いています」
リスクに備えるためには、人材も資材も“余裕”が必要だが「何十年かに一度流行するかもしれない感染症に対して余裕を持ち続けることは、財政上難しいかもしれません」
地方で起こっていること
「確かに現状を見直すことは必要ですが、データだけで判断するのではなく、その病院が地域でどういう役割を果たしているかを細かくみてほしい」。治療だけではなく、勉強会や講演会を開くなど地域活動で貢献している場合もある。
「香川県としてどうするか県や関係機関と話をしていた矢先に、コロナ禍の影響を受けた。地域医療の方向性も、今後変わるかもしれません。コロナ禍の反省を踏まえもう一度考えるべきだと思います」
自分はどう生きたいか
何度も救急車を呼んで延命するより、本人が望むなら家族と静かに自宅や介護施設で最期の時間を過ごし看取ってもらう。「そういう選択肢があってもいいし、それが実現できるように、介護休暇ではなく“看取り休暇”を考えてもいいと思っています」
もう一つ、高齢者の見守りに必要なのは地域のネットワーク。それが、希薄になっている現代は、医療・介護分野以外の広い視点が必要だという。「病床数、病院数を減らすという直接的なことだけではなく、地域のつながりを築くために、若い世代や企業を巻き込んだ街おこしを進める取り組みも重要です」
医師のあり方
自分が何を求められているか。それを考えると、やはり患者さんを安心させるひと言をかけてあげたいという。「治療だけが医師の仕事ではない。患者さんの不安を取り除くことも、その人らしく生き、最期を迎えてもらうよう最善を尽くすことも重要な役割だと思います」
石川恭子
久米川 啓 | くめがわ はじめ
- 1954年 高松市生まれ
1972年 高松高校 卒業
1978年 東京医科大学 卒業
東京女子医科大学消化器病センター消化器外科
1984年 社会保険山梨病院外科部長
1987年 香川医科大学医学部附属病院第一外科助手
1993年 久米川病院副院長
1995年 医療法人社団啓友会久米川病院理事長兼院長
2014年 香川県医師会会長
医療法人社団啓友会久米川病院名誉院長
おすすめ記事
-
2021.05.07
一人でも多くの人の健康を支えたい
しん治歯科医院 院長 髙橋伸治さん
-
2019.07.18
“古い殻”を破り 生きる力を応援
高松市立みんなの病院 院長 和田 大助さん
-
2009.04.16
「選ばれる病院」へ
他業種から学ぶ病院経営キナシ大林病院 院長 鬼無 信さん
-
2019.01.17
患者に寄り添い 地域医療を支える
百石病院 院長 香西 由美子さん
-
2015.08.20
アートで 病院に安らぎを
四国こどもとおとなの医療センター 院長 中川 義信さん
-
2014.12.04
ITで一つでも多くの命を救いたい
ミトラ 社長 尾形 優子さん
-
2014.10.02
最新ハイテク機器で目指す機能分化
香川県立中央病院 院長 太田 吉夫さん
-
2014.01.03
目指すは「地域医療」戦略は「先進医療」 三豊総合病院の経営力
三豊総合病院 企業長 広畑 衛さん
-
2013.03.07
生きざま問いつつ在宅専門の診療所
敬二郎クリニック 院長 三宅 敬二郎さん
-
2023.02.02
保険薬局としての役割を発信していきたい
香川県薬剤師会
-
2020.09.17
陽子(ようし)線治療を 多くの人に知ってほしい
オフィスうえた 代表 植田康広さん