患者に寄り添い 地域医療を支える

百石病院 院長 香西 由美子さん

Interview

2019.01.17

入居者に語りかける香西さん=高松市屋島西町のサービス付き高齢者向け住宅「グランクール屋島」

入居者に語りかける香西さん=高松市屋島西町のサービス付き高齢者向け住宅「グランクール屋島」

急がず、ゆっくり治療

高齢患者にとって 一番幸せな道筋は何なのか

高齢患者にとって
一番幸せな道筋は何なのか

外科、内科、整形外科、脳神経外科など12の診療科目を持つ高松市の百石病院。救急指定病院として年間に150件ほどの救急車も受け入れる一方で、高齢者に対する治療にも重きを置く。外来通院は後期高齢者が半数近くを占め、入院患者の平均年齢は80歳超。地域にとってかけがえのない存在になっている。「緊急性の高い重症患者を診る急性期医療が中心の大病院だけでも、ベッドのないクリニックだけでも医療は成り立たない。通いやすく入院もできる、中間地点にある病院として、意義はあるのかな」と院長の香西由美子さん(50)は穏やかな表情で話す。

国の医療制度は短期間での退院を推奨している。医療費削減のため、速やかに病気を治して患者を退院させようというもので、逆に入院期間が長引けば、国から医療機関に支払われる診療報酬が減額される仕組みになっている。だが、百石病院の入院患者の平均在院日数は50日前後。「複数の疾患を抱えた方は回復にも時間がかかる。ここは高齢者が落ち着いて治療することも可能な病院です」。他の病院から転院してくる患者も多い。「この病院はずっと置いてもらえるんだと誤解されている患者さんも多くて・・・・・・もちろん、なるべく早く退院してもらうようにはしています」。香西さんは苦笑する。

病院連携の介護施設

誕生日会の様子=グランクール屋島

誕生日会の様子=グランクール屋島

祖母も父も医師だった。百石病院は1982年、香西さんが中学2年の時、外科医だった父が医師仲間5人で立ち上げた病院だ。香西さんも自然と医療の道に進んだ。

大学卒業後は循環器内科を専門に、千葉の大学病院などで急性期医療に携わった。「高松に戻る気はありませんでした」。だが2004年、35歳の時に父が大病を患い、帰郷を決めた。

都市部の大病院から地方の病院へ。葛藤はなかったのか。「最先端医療でしのぎを削って、研究したり論文を書いたりというのは、性に合っていなかったので・・・・・・」。香西さんは笑顔で振り返りながら、こう加える。「百石病院でもやっていけると考えたのは、研修医時代に1年間勤めた埼玉の病院での経験でしょうか。地元のお年寄りを多く診る、地域密着の病院だったんです」

肺に水が溜まり、呼吸に苦しむ高齢の患者がいた。指導医だった内科部長の診察の様子を隣で見ていた香西さんは、ずっと不思議に思っていた。「どうして投薬治療をしないんだろう」。内科部長は効き目の強い薬を、その患者に使おうとはしなかった。「おそらく看取る体制に入っていたんだと思います。病気の最終段階では無理に薬を投与するのではなく、自然に任せる。かえって長引かせない方が本人にとって苦痛がないだろうと」

病気を治すだけが医療じゃない。当時は分からなかったが、今なら自分も同じやり方をするだろうと香西さんは話す。そんな医療も必要だとUターンして15年を迎える。「病院で最期を迎えるのが最良とは限らない。自宅に帰れる人は帰り、施設に入りたい人は施設へ行く。どうすればその人にとって一番幸せな道筋をつけてあげられるのか、今も試行錯誤の毎日です」

6年前、介護施設「グランクール屋島」を病院の隣に作った。一人で生活するのが困難になった高齢者が共同生活できる住まい。24時間体制でスタッフがケアし、百石病院とも連携している。「病院で高齢の患者さんを診ていると、やはり介護施設が必要だと思いました。医療と介護は切っても切れない関係。介護を知ることで、高齢者への理解も深まり、サポートにも繋がっていると思う」

この日、施設を利用する女性の誕生日会が開かれていた。お祝いの言葉を贈ったり一緒に歌を歌ったり。いつまでも賑やかな声が響いていた。「病院では寝たきりだった人も、施設に移ればちょっと元気な表情を見せてくれる。そういうところがすごくいいんですよね」

「人生会議」のすすめ

高松市屋島西町の百石病院

高松市屋島西町の百石病院

国がすすめている「地域包括ケア」にも力を注ぐ。住み慣れた土地で、最期まで自分らしく暮らせるよう、医療や介護、自助や共助の仕組みを地域でつくろうというもの。香西さんが同時に訴えているのが“人生会議”だ。「この先、どんな生活をしたいのか。具合が悪くなった時にどういう治療を望むのか・・・・・・元気なうちに家族や親しい人と話し合ってもらいたい。11月30日を『人生会議の日』として、国も呼びかけています」

交通事故などでその日が突然訪れる場合もあれば、認知症が進み、本人が判断できない場合もある。「今の時代、どこまで治療するかという選択が非常に難しくなっています。高齢になったら少しずつ、話を始めていってほしいと思います」

グランクール屋島では入居者の最期を看取ることもある。「ずっとここにいたい」と言われ、その通りに見送ることができ、家族から労われた時は「施設での生活に満足してもらえたかな」と、ほっとすることもあるという。

百石病院は、かつて地元の人に親しまれていた「百石」という古い地名から名付けられた。「生活習慣病治療などの予防医療に、軽症から中等症の救急対応、そして高齢者医療。これからも身近で長く診てあげられる、地域医療を支える病院を目指していきたいですね」

篠原 正樹

香西 由美子 | こうざい ゆみこ

1968年 徳島県生まれ
1987年 高松高校 卒業
1994年 千葉大学医学部 卒業
    千葉大学医学部循環器内科 入局
    千葉、埼玉の病院で勤務後、
2004年 百石病院 勤務
2016年 百石病院 院長

医療法人社団 百石病院

住所
香川県高松市屋島西町1937-1
代表電話番号
087-843-6121
設立
1982年
事業内容
医療介護連携(運営:株式会社セントラピス)
サービス付き高齢者向け住宅「グランクール屋島」
デイサービス・訪問介護・ケアプラン「木かげ」
病床
87床
診療科目
外科、内科、整形外科、脳神経外科 他
地図
URL
https://hyakkokuhp.wixsite.com/hyakkokuhp
確認日
2019.01.17

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