倉庫の持ち主は、カナダ人のスタッブス クリストファーさん(49)。消耗品を扱う通信販売会社ハッピーハンズラテックスグローブスの社長だ。1990年、英会話教室の講師として香川に来たが、「いつか日本でビジネスがしたいと考えていました」
外国人が日本で会社をやっていくには、銀行からの融資や言葉の壁など障害は少なくない。「大変なことはたくさんありました。でも、それ以上に日本が好きになったんです。人や町の雰囲気が私にはぴったり合いました」
数々の挫折があった。しかし、クリストファーさんは自分のやり方を貫き通し、異国の地で新たな道を切り拓いた。
始まりは「メープルシロップ」
英会話講師時代、日本で暮らす中でいつも感じていた疑問がビジネスに乗り出すきっかけだった。自分が海外の生産工場へ出向き、直接交渉して商品を買い付ける。商社を通さないこのやり方なら、価格を大幅に安くして販売できる。これが、クリストファーさんが描いたシナリオだった。
最初に目をつけたのは、ファーストフード店でよく目にするメープルシロップだった。本場の、もっと品質の良いものを安く売れば必ずヒットする。そう信じ、カナダの知り合いから350~500ミリリットル瓶で約1000本のメープルシロップを輸入した。だが、全く売れなかった。「日本人にはなじみがなかったんでしょう。売れ残ったものは何年かかけて自分で食べました」
英会話講師をしながら、家賃1万8000円のアパートに住み、生活費を切り詰めた。資金が貯まると、次はオートバイ、その次は羊毛スリッパを仕入れた。やはり売れなかった。「失敗は数えきれません。買い付けた商品が手元に届かず、頭金を騙し取られたこともあります。貯金も底をつき、もうカナダに帰ろうかと考えた時期もありました」
「使い捨てゴム手袋」に賭けた
当時アメリカでは1箱5ドル(当時の為替レートで約650円)で買える使い捨てゴム手袋が、日本では約4倍の2500円で売られていた。「すぐにマレーシアの生産工場へ買い付けに行きました」
日本に戻ると全国の歯科医院をリストアップし、ゴム手袋のサンプルに説明書と注文書をつけて送った。日本には約7万の歯科関連施設がある。クリストファーさんは1年間、このうちの約6万施設にサンプルを送り続けた。反応は少なかったが、「欧米ではHIV(エイズウイルス)感染が問題になっていて、医師は皆手袋をつけるようになりました。その流れが日本にも来るだろうと思っていました」。読みは的中した。やがて医師の間では使い捨てゴム手袋が当たり前になり、今では患者1人に対し最低1セットを使う。そして、使ったらすぐ捨てる。日々、大量の手袋が必要になっている。
歯科医にターゲットを絞ったのも奏功した。一般の病院でもゴム手袋は使われるが、「組織が大きい病院への営業は難しい。歯科医は個人開業も多いので入り込みやすく、安くて良いものなら使ってくれました」。現在、人気商品の使い捨てゴム手袋「ポリマーフリー」は1箱100枚入りで1枚当たり5〜6円ほどで販売している。
手袋の次はマスクを輸入した。SARS(重症急性呼吸器症候群)の世界的な流行や、花粉症が騒がれ出した頃だった。「日本人は国民性からか、マスクが大好きですね」。ゴム手袋に次ぐヒット商品になった。
「いつもと同じもの」を届ける
「値段も大事ですが、信頼できる工場と良好な関係を築き、品質の良い『いつもと同じ』商品を安定して届けることが大切です。毎日使うものなので、それがお客さんの安心に繋がります」。歯科医から始まった取引先も、美容院や接骨院、個人にまで広がった。顧客リストの登録者は全国で約2万5000。ほとんどがリピーターだ。
良いものをシェアしたい
高校生の時、三船敏郎が出演する映画「将軍 SHOGUN」を見て日本に興味を持ち、大学卒業後すぐに海を渡った。故郷のカナダ・ウィニペグ市が寒い地域だったので、「トロピカルアイランドをイメージして四国・香川を選びましたが・・・・・・ちょっと違っていましたね」
来日して25年が過ぎた。何度も挫折を味わったが、それに反比例してどんどん日本が好きになった。香川の女性と結婚し、1男2女にも恵まれた。「私よりも日本語が上手でうらやましいです」
今は新たなビジネスにも挑戦している。これまでの安価な消耗品から一転、次は高価で消耗されない品々。まだ日本では流通していない、イタリア・OMA社のスピーカーなど海外製のオーディオ機器、家具、アート作品を、やはり直接買い付けて販売する計画だ。「良いものを少しでも安く提供したい」。根底にある思いは消耗品と同じだとクリストファーさんは語る。
「海外にはまだまだ素晴らしいものがたくさんあります。日本のみなさんにも知ってもらって一緒にシェアしたいんです」。そして、こう続けた。「たくさんの人に支えられて何とか続けて来られました。今ではここがマイホームタウン。これからもずっと香川で頑張っていこうと思っています」
◆写真撮影 フォトグラファー 太田 亮
スタッブス クリストファー
- 1966年2月24日 カナダ・ウィニペグ市生まれ
マニトバ大学で心理学、哲学、音楽を専攻
1990年 ジオス丸亀校の講師として来日
1998年 有限会社ハッピーハンズラテックスグローブス 設立
代表取締役 就任
- 写真
有限会社ハッピーハンズラテックスグローブス
- 住所
- 綾歌郡綾川町畑田1328-1
TEL:087-870-7335
FAX:087-870-7336 - 設立
- 1998年
- 資本金
- 700万円
- 従業員数
- 15人
- 業務内容
- ゴム製手袋、紙コップ、マスク、衛生用品
美容院・エステティックサロン向けグッズ等の通信販売
オーディオ機器、家具、アート作品等の代理店業 - 確認日
- 2018.01.04
おすすめ記事
-
2018.10.18
熱気に包まれ開催/就職情報交換会 in 香川
ワークサポートかがわ
-
2015.04.02
小豆島再生
元・日本銀行高松支店長 大川 昌男
-
2018.07.19
移住で見つけた理想の場所
わいんびより 荻野 悦司さん・香さん
-
2018.03.15
物と人、人と人をつなぐ
CONNECT 代表 髙木 智仁さん
-
2013.07.04
東大卒、元外資系 小豆島で「豊かさ」を追う
株式会社459 代表取締役 真鍋 邦大さん
-
2018.03.01
求人・求職のポイントは“人”にあり
株式会社Woriks 代表取締役社長 秋吉 直樹さん
-
2014.08.21
自分の可能性は自分が決める
讃光工業 常務取締役 白井 名留さん
-
2016.01.21
盆栽に魅せられて 日本へ
zazu 店主 ザビエ ブルセさん
-
2016.04.21
人とのつながりを 広く厚く
四国若者会議 代表理事 瑞田 信仁さん
-
2016.07.07
職人の誇りを胸に
都島興業 代表取締役 眞部 達也さん
-
2025.01.03
新アリーナは
地域に何をもたらすのかPrime Person 新春スペシャル企画