良いものをより安く カナダ人社長の挑戦

ハッピーハンズラテックスグローブス 社長 スタッブスクリストファーさん

Interview

2015.03.19

綾川町ののどかな田園地帯の一角に大きな倉庫がある。中には、使い捨てのゴム製手袋やマスクが箱詰めされ、所狭しと高く積み上げられている。

倉庫の持ち主は、カナダ人のスタッブス クリストファーさん(49)。消耗品を扱う通信販売会社ハッピーハンズラテックスグローブスの社長だ。1990年、英会話教室の講師として香川に来たが、「いつか日本でビジネスがしたいと考えていました」

外国人が日本で会社をやっていくには、銀行からの融資や言葉の壁など障害は少なくない。「大変なことはたくさんありました。でも、それ以上に日本が好きになったんです。人や町の雰囲気が私にはぴったり合いました」

数々の挫折があった。しかし、クリストファーさんは自分のやり方を貫き通し、異国の地で新たな道を切り拓いた。

始まりは「メープルシロップ」

「日本はあらゆるものの値段が高過ぎる。カナダやアメリカなら、同じものがもっと安く買えるのに・・・・・・」

英会話講師時代、日本で暮らす中でいつも感じていた疑問がビジネスに乗り出すきっかけだった。自分が海外の生産工場へ出向き、直接交渉して商品を買い付ける。商社を通さないこのやり方なら、価格を大幅に安くして販売できる。これが、クリストファーさんが描いたシナリオだった。

最初に目をつけたのは、ファーストフード店でよく目にするメープルシロップだった。本場の、もっと品質の良いものを安く売れば必ずヒットする。そう信じ、カナダの知り合いから350~500ミリリットル瓶で約1000本のメープルシロップを輸入した。だが、全く売れなかった。「日本人にはなじみがなかったんでしょう。売れ残ったものは何年かかけて自分で食べました」

英会話講師をしながら、家賃1万8000円のアパートに住み、生活費を切り詰めた。資金が貯まると、次はオートバイ、その次は羊毛スリッパを仕入れた。やはり売れなかった。「失敗は数えきれません。買い付けた商品が手元に届かず、頭金を騙し取られたこともあります。貯金も底をつき、もうカナダに帰ろうかと考えた時期もありました」

「使い捨てゴム手袋」に賭けた

医療用ゴム製手袋は、素材、強度、伸縮性など バリエーションが違う15種類にまで増えた

医療用ゴム製手袋は、素材、強度、伸縮性など
バリエーションが違う15種類にまで増えた

ビジネスを模索し続けて8年が過ぎた。1998年、英会話教室の生徒だった歯科医師夫婦との何気ない会話の中で、「治療で使っているゴム手袋の値段が高くて困っている」という話が出た。「これが全ての始まりでした」

当時アメリカでは1箱5ドル(当時の為替レートで約650円)で買える使い捨てゴム手袋が、日本では約4倍の2500円で売られていた。「すぐにマレーシアの生産工場へ買い付けに行きました」

日本に戻ると全国の歯科医院をリストアップし、ゴム手袋のサンプルに説明書と注文書をつけて送った。日本には約7万の歯科関連施設がある。クリストファーさんは1年間、このうちの約6万施設にサンプルを送り続けた。反応は少なかったが、「欧米ではHIV(エイズウイルス)感染が問題になっていて、医師は皆手袋をつけるようになりました。その流れが日本にも来るだろうと思っていました」。読みは的中した。やがて医師の間では使い捨てゴム手袋が当たり前になり、今では患者1人に対し最低1セットを使う。そして、使ったらすぐ捨てる。日々、大量の手袋が必要になっている。

歯科医にターゲットを絞ったのも奏功した。一般の病院でもゴム手袋は使われるが、「組織が大きい病院への営業は難しい。歯科医は個人開業も多いので入り込みやすく、安くて良いものなら使ってくれました」。現在、人気商品の使い捨てゴム手袋「ポリマーフリー」は1箱100枚入りで1枚当たり5〜6円ほどで販売している。

手袋の次はマスクを輸入した。SARS(重症急性呼吸器症候群)の世界的な流行や、花粉症が騒がれ出した頃だった。「日本人は国民性からか、マスクが大好きですね」。ゴム手袋に次ぐヒット商品になった。

「いつもと同じもの」を届ける

現在扱う商品は、ほぼ全てが使い捨ての消耗品のため、気に入ってもらえれば、「次」が期待できる。最初は「安ければ安いほどお客さんは喜んでくれる」と思い、海外の工場で「一番安いもの」を探し回っていた。やがて、それは間違っていることに気がついた。

「値段も大事ですが、信頼できる工場と良好な関係を築き、品質の良い『いつもと同じ』商品を安定して届けることが大切です。毎日使うものなので、それがお客さんの安心に繋がります」。歯科医から始まった取引先も、美容院や接骨院、個人にまで広がった。顧客リストの登録者は全国で約2万5000。ほとんどがリピーターだ。

良いものをシェアしたい

資金調達や在留資格の取得など、外国人が日本で事業をやっていくのはまだハードルが高いと言われる。だが、それ以上にクリストファーさんを悩ませたのがコミュニケーションだ。日常生活に支障はないが、「ビジネスの込み入った話になるとお互いの考えが十分に伝わらない。面白くて深みのある話もできないし、日本語特有のニュアンスも難しく、今でもつらいことは多いです」

高校生の時、三船敏郎が出演する映画「将軍 SHOGUN」を見て日本に興味を持ち、大学卒業後すぐに海を渡った。故郷のカナダ・ウィニペグ市が寒い地域だったので、「トロピカルアイランドをイメージして四国・香川を選びましたが・・・・・・ちょっと違っていましたね」

来日して25年が過ぎた。何度も挫折を味わったが、それに反比例してどんどん日本が好きになった。香川の女性と結婚し、1男2女にも恵まれた。「私よりも日本語が上手でうらやましいです」

今は新たなビジネスにも挑戦している。これまでの安価な消耗品から一転、次は高価で消耗されない品々。まだ日本では流通していない、イタリア・OMA社のスピーカーなど海外製のオーディオ機器、家具、アート作品を、やはり直接買い付けて販売する計画だ。「良いものを少しでも安く提供したい」。根底にある思いは消耗品と同じだとクリストファーさんは語る。

「海外にはまだまだ素晴らしいものがたくさんあります。日本のみなさんにも知ってもらって一緒にシェアしたいんです」。そして、こう続けた。「たくさんの人に支えられて何とか続けて来られました。今ではここがマイホームタウン。これからもずっと香川で頑張っていこうと思っています」

◆写真撮影 フォトグラファー 太田 亮

スタッブス クリストファー

1966年2月24日 カナダ・ウィニペグ市生まれ
    マニトバ大学で心理学、哲学、音楽を専攻
1990年 ジオス丸亀校の講師として来日
1998年 有限会社ハッピーハンズラテックスグローブス 設立
    代表取締役 就任
写真
スタッブス クリストファー

有限会社ハッピーハンズラテックスグローブス

住所
綾歌郡綾川町畑田1328-1
TEL:087-870-7335
FAX:087-870-7336
設立
1998年
資本金
700万円
従業員数
15人
業務内容
ゴム製手袋、紙コップ、マスク、衛生用品
美容院・エステティックサロン向けグッズ等の通信販売
オーディオ機器、家具、アート作品等の代理店業
確認日
2018.01.04

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