
今年秋のオープンを目指す高級宿泊施設
「ヴィラ・アサクラ」のエントランス=高松市新北町
“発明”で若者を支える

朝倉さんの発明品。左上から時計回りに、
熱風ではなく遠赤外線で髪を乾かす「エアレスドライヤー」
「ウィーバー」「スマートロッド」
ものづくりが好きで、クリエイティブな仕事がしたいと、大学は工学部の電子工学科へ進んだ。だが、飲食店でのアルバイトで「接客業の面白さに気づかされました」。大手の情報・通信会社から内定を得ていたが、一転、「接客に加え、創造性もあると思い」、志したのが美容師だった。
大学卒業後、美容学校に入って技術を一から学んだ。業界最先端を行く銀座や青山の店舗では店長も務め、ヴィダル・サスーンが主宰するロンドンの専門学校に留学もした。そして1975年、29歳で帰郷。高松市亀井町で「ASAKURA美容室」を開業した。「髪で人は元気になれるし、変わることもできる。計り知れない力を持つ美容の仕事は、全てが自分に合っていた。選んだ道に間違いはありませんでした」
美容師としてキャリアを重ねる中、朝倉さんはやがて「発明家」の顔を見せるようになる。きっかけは若手美容師の「仕事離れ」。1年以内に50%、3年以内に80%が離職しているという厳しい状況を危惧していた。「『技術は見て覚える』のが業界の慣習。下積みが長く、辛抱しきれないのかもしれません」
若者の希望の芽を摘みたくない。朝倉さんは、効率よく最短距離で技術を得られる美容器具の開発に乗り出した。「ものづくりの“血”が騒いだんですかね」
正確なハサミの角度を身につけられるトレーニング器具「カットゲージ」、長い髪でも均一にパーマをかけられる「ロングロッド」、簡単に髪にメッシュ(筋)を入れられる「ウィーバー」などを次々と“発明”。「電子工学を学んだ美容業界の異端児」と評判にもなった。
3年前に開発したパーマ用器具「スマートロッド」。髪に巻くロッド、輪ゴム、スティックなど、これまではバラバラだったパーツを一体化し、手際良く作業できるようにした。美容技術の中でも特にパーマは難しく、「一人前になるには3~4年かかる」と言われるが、「この器具だと短期間の練習で一定レベルの技術を習得できます」
朝倉さんの“発明品”は現在、3商品で国際特許を取得。今後、欧米やアジアで販売する予定だ。
反対押し切り、北京へ

出店に向けての現地視察。雑然とした北京の飲み屋街を見た瞬間、「ここだ!」と直感した。「周りに何もない廃墟のような場所だった。でも、『ここは絶対、東京の青山になる』と強烈な可能性を感じました」。契約で揉めたり、工事が進まなかったり、水漏れが見つかったり……出店までの道のりはトラブル続きだった。「正直、だまされたことも多かったです」。だが、「この街と共存する」と腹をくくり、歩み寄ることを心がけた。
2004年、「ASAKURA北京店」がオープン。富裕層をターゲットにした戦略がピタリとはまった。中国の有名女優やモデルにも支持され、40席ある店内が常に満杯になるほどの人気店に育った。「今では店の周辺は一変し、賑やかで煌びやかな街になりました」。現在、北京に大型店を構え、運営は長男の禅さんに任せている。
世界で活躍できる美容師を

ASAKURA美容室は香川県の事業
「縁結び・子育て美容-eki」にも参加。
新北店では子ども連れでも利用しやすいよう
キッズスペースを設置
高松市の海岸沿いに立つ、美容室(ASAKURA新北店)と自宅を兼ねた5階建ての自社ビル。このうちの2フロアを使った「ヴィラ・アサクラ」を計画中だ。瀬戸内海を一望できる絶好のロケーションで、一度に最大12人が宿泊できる。「これまで培った海外の人脈などを生かし、ちょっとぜいたくなオーシャンリゾートを提供したいと思っています」。ハサミを手に世界各地を飛び回る中で改めて気づいた。「やはり香川は素晴らしいところ。瀬戸内海や栗林公園、盆栽に漆器……世界に向けて、もっともっとアピールしたい」と胸躍らせる。
美容師としての夢もある。「コロナ禍の今はマスクが欠かせず、目と頭しか見えない。髪への注目度はさらに増すと思う」。美容師の教育システムを構築し、若者の希望を後押ししたいと力を込める。「日本人の美容技術は十分通用すると北京で確信した。世界の第一線で活躍する美容師を、ここ香川から誕生させたいですね」
篠原 正樹
朝倉 博美|あさくら ひろみ
- 略歴
- 1946年 さぬき市出身
1965年 高松高校 卒業
1970年 同志社大学工学部電子工学科 卒業
1975年 ASAKURA美容室亀井店 オープン
アサクラインターナショナル 設立 代表取締役
1995年 ASAKURA美容室新北店 オープン
2004年 ASAKURA北京店 オープン
アサクラ インターナショナル有限会社
- 住所
- 香川県高松市新北町29-15
- 代表電話番号
- 087-835-4838
- 事業内容
- 美容器具開発・不動産賃貨業
- 資本金
- 1000万円
- グループ
- ASAKURA美容室(新北店、亀井店、中国・北京店)
- 地図
- URL
- https://www.asakurahair.com/
- 確認日
- 2021.04.01
おすすめ記事
-
2021.04.15
「未病先防」で目指す 日本一の漢方薬局
鷺岡漢方堂薬局 社長 鷺岡 志保さん
-
2020.12.17
ブランド磨き お米の力を世界発信
アイム 社長 沼田 憲孝さん
-
2019.04.04
「香川の希少糖」の可能性を広げ、世界に発信したい
レアスウィート 社長 山田 晃士さん
-
2013.06.20
ヒントは「日本酒造り」にあり ~コメの力に魅せられた親子の挑戦~
勇心酒造 代表取締役農学博士 徳山 孝さん
-
2012.06.21
おひたし・煮物・サラダ うどんに野菜を添えよう
香川県栄養士会 会長 三野 安意子さん
-
2024.10.17
なぜ働いていると本が読めなくなるのか
著:三宅 香帆/集英社
-
2021.06.03
コロナ禍を、健康生活を見直す機会に
香川大学四国危機管理教育・研究・地域連携推進機構 長谷川修一
-
2019.09.06
「大豆ファースト」プロジェクト始動
フジッコ
-
2019.09.05
「自然免疫」の力を健康や美容に生かす
糖脂質「LPS」の研究、応用 自然免疫制御技術研究組合
-
2019.05.16
創業70年。おいしいお茶を作り続けたい
柿茶本舗 代表取締役社長 井上 信忠さん
-
2017.11.02
染め物だけでなく美容や芸術にも
藍染めの原料・タデアイを生かした商品開発 藍色工房
最新紙面情報
Vol.412 2025年08月21日号
「ここに来て良かった」 生徒一人一人に寄り添って
学校法人村上学園 理事長 村上学園高等学校 校長 村上 太さん
モニタリングの知見を生かし 地域と「顔の見える対話」を
日本銀行 高松支店長 稲村 保成さん
諸機関と柔軟に連携し 四国の中小企業に寄り添う
独立行政法人 中小企業基盤整備機構 四国本部長 田中 学さん
まち全体を一つの「宿」に見立て 古民家を核に日常風景の魅力を発信
NIO YOSUGA 代表取締役 竹内 哲也さん/菅組 社長 菅 徹夫さん
生徒の「やってみたい」が地域とつながる 進化するボランティア団体「TSUNAGU」
大手前丸亀中学・高等学校