ヒントは「日本酒造り」にあり ~コメの力に魅せられた親子の挑戦~

勇心酒造 代表取締役農学博士 徳山 孝さん

Interview

2013.06.20

造り酒屋を研究開発型のバイオ企業に変身させた、「勇心酒造」代表取締役農学博士の徳山孝さん(71)が約30年ぶりに日本酒造りを本格的に再開し、今年3月、純日本酒として7つ目となる新製品「勇心 大吟醸(生酒)」を発売した。

同社の売り上げは約30億円。このうち日本酒は1%未満にすぎなかった。大半はコメからつくった機能性成分「ライスパワーエキス」を配合した化粧品のOEMだ。

日本酒造り再開の原動力は、バイオ技術を伝統産業に持ち込んで、さらにバイオ事業を発展させようという、造り酒屋の遺伝子だ。

※OEM
他社ブランドの製品を製造すること

バイオ技術とOEM

日本酒は、こうじ菌や酵母菌、乳酸菌などの菌を使う酒だ。自然淘汰(とうた)を巧みに利用する微生物の働きには、従来の科学技術では生み出せない素材開発のヒントが潜んでいる。

徳山さんは、40年間の醸造発酵研究で「日本型バイオ」の開発に成功した。日本人をはじめ、コメ中心の食文化で育った人たちに害のない、最も適したバイオ技術を目指す徳山さんのこだわりと信念の成果だった。

自社で製品化せず、研究を進めるため選んだ方法はOEMだった。生産量のスケールメリットがあり、宣伝販促費が不要だから、経営資源を研究開発に集中できた。それでバイオ事業を軌道に乗せることができた。

造り酒屋のスピリット

「ライスパワーエキス」を開発したバイオ技術の成果を、再び酒造りに応用した。

2009年には、アルコール分7%の低アルコール飲料「リセノワール」を、11年には発泡タイプの「リセノワールスパークリング」を開発した。

原料の古代米に含まれる成分の抗酸化作用と胃壁を守る抗潰瘍(こうかいよう)効果のあるライスパワーエキスNo.101を配合した新しいタイプのお酒だ。

酒造りは、地元農家と連携した地域活性化の取り組みでもある。古代米は宇多津町と古代米生産組合が、町おこしの一環で栽培している醸造用のコメだ。

清酒は、三豊市の契約農家が減農薬で栽培した山田錦を使って、4種類の「勇心」を製造。去年から販売している。

「信念」の研究開発

徳山さんは気骨の人だ。強い信念をもちながら控えめな人柄が、多くの支援者を惹きつける。

1972年に31歳で造り酒屋の家業を継ぎ、日本酒の発酵醸造技術を生かしたコメの総合利用研究に着手。アトピー性皮膚炎の発症予防効果がある「ライスパワーエキス」などを開発し、化粧品を中心に次々と商品化するまでに36億円を投資した。

借金で自宅以外の土地を手放したが、全国的な蔵元仲間「日本酒ライスパワーネットワーク」の支援で乗り切った。2005年借入金を完済、09年酒造りを再開して「リセノワール」を製品化した。

※日本酒ライスパワーネットワーク
日本の醸造発酵技術で地域の産業・社会・文化の振興に寄与し、広く世界に問うことを目的に設立された日本酒の蔵元集団

初の低アルコール日本酒

日本酒のアルコール度数は15%ほどだ。1984年に度数が約半分程の低アルコール技術を日本で初めて開発した。コメの総合利用研究を続けるため製品化しなかったが、この技術を使って、蔵元仲間で支援者の「一ノ蔵」(宮城県大崎市)が96年、低アルコール酒「ひめぜん」を発売。また発泡日本酒「すず音(ね)」は100万本以上売れたという。

ライスパワーエキスの効能

40年間のコメの総合利用研究で、36種類のライスパワーエキスを開発した。それぞれがいろんな効能を持っているが、入浴剤や化粧品の原料として実用化したのは11種類にすぎない。新素材の開発は、まだこれからだ。

皮膚の弾力性や強さを保つコラーゲンは、塗っても表皮やその下にある真皮に浸透しないし、飲んでもアミノ酸に分解されて効果はないとする人も多いが、No.11は肌に塗って水分保持能の高い皮膚に改善する効果がある。No.103は飲むとNo.11と同じ効果があり、きめ細かなみずみずしい肌に改善していく。

最近開発したNo.23は抗酸化作用があって、肌のくすみを抑えて透明感を出す素材。No.105はまだ企業秘密だ。「もうすぐ実用化できる面白い素材です。専用の工場を建てる予定ですが、いまはこれ以上お話しできません」。にんまりと顔をほころばせた。

「効率がいい」コメ原料の素材開発

研究に興味を持って、新素材を試してくれるボランティアの協力者が社内外に大勢いる。ライスパワーエキスの原料は、縄文時代から食べられてきたコメだ。

「2000年以上も前に安全確認されているわけだから、皮膚につけても飲んでも何の心配もないのです」  

化学物質の効能試験は、安全性を動物実験などで確認するまで、人で試す臨床試験はできないから時間がかかる。だから日本型バイオは効率よく新素材開発ができる。

酒造りは研究開発の温故知新

ライスパワーのロゴが入った一ノ蔵のヒット商品「発砲清酒すす音」

ライスパワーのロゴが入った一ノ蔵のヒット商品「発砲清酒すす音」

OEMは、販促費や宣伝費はかからないが、利益が薄い。自社商品の販売体制の強化に努めているが、当面の課題は製造を再開した日本酒の黒字化だ。

「明らかな過剰投資です。人手も取られますし、研究部門に影響も出ます」。長男の直販部部長で農学博士の徳山孝仁(たかひと)さん(38)と、三男で酒販売部の敬明(たかあき)さん(30)は、口を揃える。

同時に、「コメ一粒の中にもさまざまな問題解決のカギがある。ヒントは、1854年の創業から受け継がれてきた酒造りのなかにあります」。その思いは父譲りだ。

日本酒製造の再開は、研究開発の温故知新だ。農業の活性化や資源、環境問題の解決を目指す壮大な構想を具体化するための、父と息子たちの挑戦でもある。

徳山 孝 | とくやま たかし

1941年 綾歌郡宇多津町生まれ
1969年 東京大学大学院農学系研究科修了
    農学博士、同年国税庁醸造試験所勤務
1972年 勇心酒造株式会社 社長
写真
徳山 孝 | とくやま たかし

勇心酒造株式会社

所在地
本社:綾歌郡綾川町小野2088−1
TEL:087-876-4111
FAX:087-876-4188
創業
1854年(安政元年)
設立
1979年
資本金
1000万円
売上高
26億円(2012年6月)
従業員数
80人
事業内容
清酒製造販売、米醸造発酵製品製造販売、
化粧品製造販売、医薬部外品製造販売
確認日
2018.01.04

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