「未病先防」で目指す 日本一の漢方薬局

鷺岡漢方堂薬局 社長 鷺岡 志保さん

Interview

2021.04.15

様々な漢方薬がずらりと並ぶ店内。 鷺岡さんが手にしているのはオリジナルの酵素ドリンク 「サギオカコーソ」=丸亀市中府町の鷺岡漢方堂薬局

様々な漢方薬がずらりと並ぶ店内。
鷺岡さんが手にしているのはオリジナルの酵素ドリンク
「サギオカコーソ」=丸亀市中府町の鷺岡漢方堂薬局

SOSを見逃さないで

漆喰のなまこ壁が特徴的な5階建ての建物。見上げると、大きな「漢」の文字がひときわ目を引く。文字通り、漢方薬を専門に扱う丸亀市の鷺岡漢方堂薬局。「しほ先生」の愛称で慕われる2代目店主、鷺岡志保さん(49)は「草木は大地を突き破って生えてくる。驚かされるほどの生命力がある自然のものには、絶対の自信を持っている」と力強く語る。

漢方薬とは、植物の根や茎、動物の骨や角など、自然由来の生薬を組み合わせてつくられる。西洋医学の薬(西洋薬)と違い、化学合成された物質を含まないのが最大の特徴だ。現代医学と呼ばれる西洋医学は「投薬や手術などで、体の悪い部分に直接アプローチして治療する“対症療法”」。一方、漢方医学は「自然治癒力を引き出す漢方薬を使い、人それぞれの体質や心身の状態に合わせて病気の原因を取り除いていく“根本療法”」と鷺岡さんは説明する。

信条とするのは「未病先防」。病気になる前に予防することだ。肩がこる、疲れやすい、頭痛がする、目がしょぼしょぼする……。「西洋医学の検査や治療はとても大事だと思う。でも、病院の検査では引っかからないけれど『何だかおかしい』という不調はある。体が出すSOSのサインを見逃さないで」と呼びかける。「そんな時こそ、漢方の出番。最も得意とするところです」

店には日中、「しほ先生、しほ先生」と、次から次へと客が相談に訪れる。ほとんどが女性客。鷺岡さんはゆっくり時間をかけて、病状や病歴、生活習慣などを聞いていく。家庭環境の話や恋愛相談にまで広がることもある。「例えば、最近家庭でとてもショックなことがあってイライラが募り、体に何らかの変化をきたしているのかもしれない。病気になるには必ず原因があって、心と体は本当に密接なんです」。症状が同じでも、処方する薬は人それぞれ。問診が長時間に及ぶことも珍しくない。「漢方薬局というより、“相談薬局”ですね。背景に何があるのか、どんな生活を送っているのかなど、リラックスして深い話ができるような雰囲気作りも心がけています」。店に出る時はいつも着物姿。「白衣だとお客さんとの間に距離ができるようで……。それに、見た目も華やかでしょう?」と笑顔で話す。

「薬が良く効きますように」

1Fが店舗。2Fから上にはヨガ教室などを行う イベントルームやリラクゼーションサロンなどが入る

1Fが店舗。2Fから上にはヨガ教室などを行う
イベントルームやリラクゼーションサロンなどが入る

1974年に創業した鷺岡漢方堂薬局。きっかけは、先代の父・邦彦さんが22歳の時に患い、長年苦しんだ腸の病気だった。「病院をいくつ回っても、何度手術しても治らなかった病気が、漢方で良くなったんです。父は感激し、設計士の仕事を辞めて漢方を一から学び、母と二人で店を始めました」

“日本一の漢方薬局にする”。邦彦さんは大きな夢を掲げ、鷺岡さんも薬科大に進んだ。だが、「大学には当時、漢方や生薬の授業がなく、クラスメートもほとんどが西洋薬の薬剤師志望。薬の化学構造式の勉強はあまり関係ないと思い、私一人だけ研究室に入りませんでした」と苦笑する。「東京や大阪で開かれる漢方の勉強会などに通い詰め、漢方医学や、漢方のルーツとされる中医学(中国の伝統医学)を徹底的に学びました」

邦彦さんが亡くなった後、35歳で社長になった。遺志を継ごうと、母・昭子さんと二人三脚で店を切り盛りしていたが、一度だけ店を畳もうとしたことがある。9年前、昭子さんが病に倒れた時だ。「母は、父と二人で仕事ばかりしていた人だった。海が大好きだったので、南の島に引っ越して、ゆっくり過ごしてもらおうかなと……」。そんなある時、昭子さんが綴った古い書物をたまたま見つけた。

――主人の願いは「お薬が良く効きますように。そして、一人でも多くの人の病気が治りますように」。私もやらなければいけない――

「それを見た瞬間、『この店はお客様のためにある。父が命がけでつくった店を守らなければならない』と気持ちが固まりました。今は亡き両親の分まで、店を盛り立てていこうと思っています」

言葉に責任 信頼に応える

お客さんからの相談は長時間に及ぶことも

お客さんからの相談は長時間に及ぶことも

鷺岡さんは情報発信に積極的だ。「若い人に漢方の魅力を伝えたいんです」。FacebookやYouTube、最近話題の音声SNS「Clubhouse」などを駆使し、若者や病気に悩む人らと意見交換している。「世の中には、知らない病気や難しい病気がたくさんある。もっともっと勉強しなければと、いつも気づかされています」。邦彦さんと同様、なかなか病気が治らず、巡り巡って店を訪ねてくるお客さんも多い。「藁にもすがる思いで頼ってくる人は、私の言うことを信じて薬を買っていきます。私の言葉にはとても大きな責任がある。その信頼に何としてでも応えなければなりません」

両親の思いを継いで目指す「日本一の漢方薬局」。“日本一”とは何なのかを尋ねると、すぐに答えが返ってきた。「『お客様を思う気持ち日本一』です。“漢方と言えば鷺岡”と思ってもらえるよう、これからも頑張っていきます」

篠原 正樹

鷺岡 志保|さぎおか しほ

略歴
1971年 丸亀市出身
1990年 香川県大手前高校 卒業
1994年 京都薬科大学薬学部 卒業
     鷺岡漢方堂薬局 入社
2006年 代表取締役

株式会社 鷺岡漢方堂薬局

住所
香川県丸亀市中府町1-6-58
代表電話番号
0877-24-3455
事業内容
漢方薬販売、リラクゼーションサロン「月蓮光SPA 鷺岡鍼灸院」運営
資本金
1,000万円
地図
URL
http://kanpo-kusuriya.com/kanpo/sagiokakanpodouyakkyoku/
確認日
2021.04.15

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