おひたし・煮物・サラダ うどんに野菜を添えよう

香川県栄養士会 会長 三野 安意子さん

Interview

2012.06.21

うどん県の宣言で香川県の知名度が上がった。その一方で野菜の摂取は、女性がワースト1位、男性が2位。糖尿病受療率もワースト1位だ。野菜不足が原因の一つと指摘されている。

「うどんに野菜を添えよう。おひたしや煮物やサラダをもう一品増やして、1日350グラムの野菜を食べよう」。香川県栄養士会会長の三野安意子(みのあいこ)さん(66)は、県やうどん業界に、野菜メニューを増やすよう要請して立ち上がった。

女性の社会進出を支えているのがコンビニや外食産業だ。食の外部化が進むに従って、「食の便利」と「健康」の因果関係が見えてくる。高齢化の加速と、生活習慣病の増加で、栄養士が果たすべき領域はますます広がる。

※野菜摂取量
厚生労働省 2010年国民健康・栄養調査

※糖尿病外来受療率
厚生労働省 2008年地域保健医療基礎統計

栄養士が立ち上がる

落語の三題噺(さんだいばなし)のように、「うどんと野菜不足と糖尿病」の因果関係が、うどん県の泣き所だ。成人が健康のために必要な野菜は、「健康日本21」で、1日350グラム以上としている。

香川県のサラリーマンの昼食は、2日に一度はうどんを食べる。トッピングは竹輪かアジのフライで、野菜はせいぜい大根おろしかネギだ。

野菜の量が、糖尿病や高血圧、メタボの分かれ目になる。肥満者の割合は全国平均31%で、香川県は25.4%と少ない。しかし糖尿病の受療率は、徳島を抜いて香川県がワースト1位になった。

「全国平均でも約300グラムしか取っていませんが、香川県は女性が229グラム、男性が266グラムです。朝食を取る人が少ないし、うどんを食べる比率が多い。これが野菜不足の大きな原因です」

三野さんは「もっと野菜を」といろんな機会に訴えた。2011年10月開催の「香川食育・地産地消フェスタ」や、香川県栄養士会が大型小売店と連携した事業、「食育の日キャンペーン野菜をとろう!」では、野菜の摂取を初めて前面に掲げた。

これを受けて、本場讃岐うどん協同組合(大峰茂樹理事長)は、組合加入店のメニューに地元産の野菜を取り入れる計画を練っている。(四国新聞 2012年3月28日)

※健康日本21
厚生労働省の「21世紀における国民健康づくり運動」

栄養士会員、全国では減る

「全国で約6万人の会員がいますが、毎年2000人ほど減っています。一番大きな原因は団塊世代の退職です」。日本栄養士会の常任理事でもある三野さんは心配している。

社団法人栄養士会は、会費が主な収入源だ。会員は、都道府県知事の免許を受けた栄養士と、国家試験に合格した管理栄養士、それに賛助会員の食品関係事業者の法人だ。

栄養士は、県保健福祉事務所や市町、学校、保育所、病院や老人施設などで働くが、「委託給食会社」の就業者が増えている。

「栄養士としての仕事より、調理が主で従事時間も長く雑用も多い。会員になっても研修会に参加できないという人が多いんです」。競争の厳しい業界の栄養士を加入させる方策は難しいという。

香川の栄養士減らさない

ところが全国で2カ所、香川県と大分県だけは会員が減っていない。三野さんは、06年香川県栄養士会の会長になって、二つの対策を実行した。

「まず、会員に学ぶ場を提供しました。生涯学習の研修会に東京からいい先生を呼びました」。東京や大阪の研修会に行けば、旅費など相当な自己負担になる。香川に来てもらえば、そこそこで済む。栄養士会の経費持ち出しは、理事会で承認を得た。

「二つ目は、会費を口座引き落としにしました」。それまでは自分で銀行や郵便局から振り込むか、地域の役員が集金していた。「手数料は栄養士会が負担しますから、会員は手間も経費も省けます」

研修会は年間の予定を組んで、受講料を会費と一緒に徴収する。「会員の手帳に、何月何日研修会と記入されますし、会費を払っていますから、出席率は良くなります」

スキルアップの情報提供と、参加しやすい条件づくりが、退会の歯止めになったのだ。

※生涯学習
会員が資質向上のため、最新の栄養管理・栄養指導等を学ぶ研修会や講演会。

県庁勤めの経験生かして

三野さんは県庁勤めの38年間で、15回部署を変わった。最後の8年間こそ変わらなかったが、それまで2年ごとに異動した。「本庁、保健所、県立病院、保育所、福祉施設の監査も。同じ部署の勤務も2度ありました。私は異動要員なのかと悩みました」

何年も部署を変わらない人もいる。「病院勤務が長いと、深い専門知識が身に付きます。私は広く浅くで、中途半端だと悲観しました」

その経験は無駄ではなかった。三野さんのキャリアが活きるポストが、2002年に新設された。保健予防課長を務めていた中部保健所と、中部福祉事務所が一つになった東讃保健福祉事務所健康福祉課だった。保健師も、栄養士も、事務屋もいた。

「職員は、交流のなかった二つの部署からきた人たちです」。生活保護以外の、健康づくりから介護保険まで、母子、児童、障害者福祉の分野を扱う部署だった。

やりがいの次の一歩

02年4月1日、新しい職場で、違うセクションの職員たちが一緒に仕事を始めた。まずは交流が大事だ。職員の中に、高畑憲生さんがいた。

異動時期の歓送迎会は県の職員には付き物で、旧新のメンバーが交互にやる。それを毎月やろうと高畠さんが三野さんに提案した。栗林公園で桜の花見から始まって、毎月の飲み会を段取りした。

 「福祉と健康をコラボしたイベントでは、スタッフを大勢動員しましたが、彼のお蔭でみんなの連携がうまくいきました」。新しい部署の新しい仕事に職員の気持ちが一つになった。

「新任の課長として、予算折衝はやりがいがありました。企画したイベントを、牟礼町や塩江町の町長さんに持ち込んだりしました」。広く浅くのキャリアがものを言った。

「イベントは、普段の仕事と違うからしんどいです。でもお役所の日常業務では味わえない達成感があったんです」。新しい部署は、笑いが絶えない課だと外部から言われた。

「人はできない理由をまず考えがちです。やるための工夫をする者は、10人のうち1人もいませんでした」。これまでの経験と、新しい部署は違った。一歩前に踏みしたら、面白かった。その遣(や)り甲斐(がい)が、みんなに次のもう一歩を踏み出させた。

輝き生む心意気

広い浅いキャリアで培われた人脈と視点が、三野さんを後押しした。04年日本栄養士会理事に、06年退職と同時に香川県栄養士会会長と香川短期大学教授に、08年日本栄養士会常任理事に就任した。常任理事6人のうち、女性は三野さんだけだ。09年に短大を辞めるまで、三つの役職をこなした。

今年4月、社団法人の香川県栄養士会は、公益社団法人になった。活動範囲を広げるためだ。

「非会員の栄養士や看護師、歯科衛生士などに門戸を広げて研修したり、県民向けに食生活改善の指導や医師会と連携しての糖尿病公開講座や、親子の調理実習にも取り組みます」

「3カ月1日350グラムの野菜を食べると、体の調子も、顔色も良くなって、スリムになります」・・・三野さんの輝きは、野菜の効用だけではない。「もう一歩」踏み出すその心意気だ。

おとし豚??

香川県栄養士会の会員664人のうち、男性の栄養士は30人ほどいる。ご飯を炊いたこともない後輩の管理栄養士が、食生活改善推進協議会で主婦に調理実習することになった。

「家で、お母さんに献立どおりに作ってもらい、講習会で説明だけしましたが、相手が主婦ですから何とかなりました。しかし仕事にならないので料理学校に通いました」

短大教師の時の経験・・・学生が、「落し蓋」といわれてふたを落としたり、「落し豚という豚がいるんですか」という質問が出た。栄養士になろうという学生が、料理も出来ないし、言葉も知らない・・・。

食の工業化が進む。コンビニと外食産業は食を手軽にした。飽食で、健康を支える食への関心は希薄になった。食と健康への危機感と使命感が、三野さんの情熱をかき立てる。

三野 安意子 | みの あいこ

1946年 高松市生まれ
1968年 京都府立大学卒業
    香川県庁入庁保健所、県立病院、福祉を歴任
1999年 中部保健所(旧高松保健所)保健予防課長
2002年 東讃保健福祉事務所健康福祉課長
2006年 香川県庁定年退職
    香川短期大学生活文化学科食物栄養専攻の教授として勤務
2009年 香川短期大学退職
公職
2004年 (社)香川県栄養士会副会長 (社)日本栄養士会理事
2006年 (社)香川県栄養士会会長就任 現在に至る
2008年 (社)日本栄養士会常任理事(広報国際部担当)現在に至る
写真
三野 安意子 | みの あいこ

公益社団法人 香川県栄養士会

所在地
高松市末広町1番地2
TEL:087-811-2858 FAX:087-811-2859
URL
http://www.kagawa-eiyo.or.jp/
確認日
2018.01.04

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