刺繍で思いを 形にする

タナベ刺繍 代表取締役社長 田部 智章さん

Interview

2017.01.19

東かがわ市に、一流ファッションブランドの刺繍加工を数多く手掛ける刺繍会社がある。もともとは現社長・田部智章さん(44)の父母が約50年前に自宅で始めた小さな工場。なぜ、目の肥えたデザイナーたちに認められるようになったのか。そこには「技術」だけではない理由があった。
日本一の手袋生産地で創業した工場は、手袋をはじめとした雑貨小物の刺繍加工をメーカーから請け負っていた。田部さんは18歳で入社、8年ほどたった時に父が病で倒れる。何も教えられないまま経営者となったちょうどその頃は、製品の海外生産が進み今までのビジネスモデルでは立ち行かなくなってきた時代でもあった。「業績がどんどん悪くなって。あの時期が一番苦しかった」

そんな時、先輩経営者が教えてくれた映像を見て衝撃を受ける。世界的な服飾ブランドの刺繍を手掛けるフランスの刺繍アトリエ「ルサージュ」のドキュメンタリーだ。「あんな風になりたい。“存在そのもの”に憧れました。どうせ刺繍をやるならこんな製品を作りたい。日本のファッションブランドが世界レベルに成長していくのを刺繍でサポートしたい」

目標が見つかり、女性向け服飾の刺繍にも取り組むことにした。機械だけでなく手作業での刺繍も始めた。ファッションについて勉強するようになった。「最初にやったのが本屋さんでファッションの本を買い集めること。今思うと情けないんですが」
ブランドから刺繍の依頼を受けたら、言われた通り形にするだけで終わりにはしない。デザインを見て「なぜそのデザインなのか」を徹底的に考える。時には話を聞き、デザイナーが作品に込めた思いをつかむ。その上で、自分たちの引き出しの中からベストな技法を選んで作っていく。「同じ機械や技法を使っても、思いを持った人が作ると不思議と仕上がりが違うみたいなんです」

思いを形にすれば必ず伝わる-その信念を再確認する出来事があった。昔から憧れていた日本のデザイナーが「刺繍を見てデザインに込めた私の思いが伝わったことが分かった。どんなところでやっているのか見たい」と突然工場を訪ねてきた。「まさかそんな事が自分の人生にあると思っていなかったので、その夜は嬉しくて泣きました」
「縫製技術」という地域資源を活用した刺繍イヤホン

「縫製技術」という地域資源を活用した刺繍イヤホン

難しいオーダーに応えていくうち技術力も上がり、自分たち独自の表現、試してみたいデザインも増えてきた。それを生かしたいと思う中で生まれたのが「ハピネスコード」。鮮やかな刺繍糸でコードを包み、葉っぱのデザインを施した絡みにくいイヤホンだ。

「コンセプトを話し合ううちイヤホン=電気製品ではなく、ファッションアイテムの一つという切り口が見えてきました」。その発想から、イヤホンとコサージュの組み合わせやピアスなど「ハピネススタイル」というシリーズが生まれた。名前の「ハピネス」は、これを身に付けたら誰かに見てもらいたい、会って話したくなる、そんな幸せな気持ちをイメージしている。
「ハピネススタイル」のアクセサリーは多彩な色がそろう

「ハピネススタイル」のアクセサリーは多彩な色がそろう

「刺繍はコミュニケーションツールだと思っています。自分たちの刺繍がきっかけで人と人がいい関係になるのが嬉しいんです」。思いを込めた刺繍は人の心を惹きつけ、人々をつないでいく。

編集長補佐 石川 恭子

田部 智章 | たなべ ともあき

1972年9月 東かがわ市生まれ
1990年 株式会社タナベ刺繍 入社
1999年 代表取締役社長 就任
写真
田部 智章 | たなべ ともあき

株式会社タナベ刺繍

住所
東かがわ市西村1023
TEL:0879-25-5108
事業の概要
企画及びデザイン製作、服飾二次加工全般
衣類及び雑貨OEM
資本金
1000万円
社員数
27人
認定
四国経済産業局「平成26年度地域産業資源活用事業」
地図
URL
http://www.e-tanabe.net/
確認日
2018.01.04

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