“鉄”のイメージを変え 新たな可能性を広げる

潮製作所 社長 行成 望さん

Interview

2021.08.19

コンテナガレージはバイクの収納場所に(丸亀市垂水町の本社)

コンテナガレージはバイクの収納場所に(丸亀市垂水町の本社)

うちだけの新たな商品を

「鉄工所というと、一般の人にはなじみのない製品を職人さんが工場で黙々とつくる、というイメージかもしれません。その固定概念を壊したいと思っていました」と言う潮製作所代表取締役・行成望(41)さん。潮製作所は、船舶や工場内の巨大な配管、貯蔵タンクなどを設計・製造し、施工まで行う製作所として、行成さんの父親が創業した。自身も同社で働いていたが、33歳のときに父が急逝し、二代目となった。

「経営のことなんてわからない、けれど時間は待ってくれない。競合会社から二代目は大丈夫かという声が聞こえてきたし、銀行からも心配されました」。悩んだ末、自分が社長なんだからと開き直り、いいと思ったことをやっていこうと決めた。

まず、取り組んだのは会社組織としての体制を整えること。福利厚生を充実させ、経営理念を「Challenge For Next」と定め、行動指針も明確にし、社員と積極的にコミュニケーションをとるようにした。
パイプラインガレージ

パイプラインガレージ

新たな商品開発にも取り組んだ。ヒントになったのが、アメリカへの旅行だ。社長を継いですぐのころ、興味があったアンティーク品を、ニューヨークに見に行った。「買い物するのは観光客だけだと思っていたら、現地の人たちもたくさんいて驚きました。欧米では歴史あるものに価値を見出す文化があり、家もリノベーションして長く住み続ける。日本でも、古材や古民家改装に注目が集まっている。「いいものであれば、人は古いものに引かれるんじゃないかという感覚をもちました」

今あるものを大切にする、という発想から工場で生産していた配管、鉄パイプを使った「パイプラインガレージ」と、古いコンテナを生かした「コンテナガレージ」を開発した。鉄パイプの無機質さを生かしながら、ヴィンテージ感や味わいのあるおしゃれなデザインに仕上げ、若い世代にも人気を集めた。

「もともと製品の設計・デザインを手掛けていたし、職人の高い技術もあったからできた。顧客の要望に丁寧に応える今までの受注型に加えて、提案型商品ができたのは新たな強みです」

鉄+木で――

素材としての鉄のおもしろさをさらに追求したい。そこで、関連企業「MUKU-MO」を設立し、鉄と木を組み合わせた商品開発を始めた。「鉄は工業製品というイメージが強いですが、もとは鉄鉱石で自然素材。木も自然素材で、どちらも生活の中で使ううちに変化し、味わいが出てくる」。経年変化も含めた、あるがままの自然な姿「MUKU(無垢)」と、ものづくりという意味の「MO」が名前の由来だ。「古くてもいいものは残る。鉄も木も、いずれは土にかえるけれど、それまでの間、使う人たちに長い年月愛される商品をつくりたい」

MUKU-MOでは、テーブルや椅子といった家具、収納ボックスのほか、バーベキュー用焚き火台、薪スタンドなどを製造。アウトドアブームもあり、受注が増えているという。「潮製作所として、質の高いプラント用製品をつくることが第一なのはこれからも変わらない。ただ、コロナ禍でそれらの受注が落ち込む中、MUKU-MOのオリジナル商品があることは大きかった」

発信しなければ伝わらない

地元チームにゴールポストを寄贈

地元チームにゴールポストを寄贈

「職人はいいものさえつくればいい、と思いがちですが、それだけでは販売先はゼロです」。ものをつくり、それを誰にどう伝えるか。潮製作所とMUKU-MOのサイトでは、ものづくりへの思いや、オリジナル商品を製造した若手社員自身による商品情報を掲載している。「情報発信した商品が売れると、自分がつくったものを誰かが使ってくれているんだ、と感動する。仕事のモチベーションにもつながります」。サイトがきっかけで、東京の有名メーカーからの受注にもつながった。また、求人に対して、若い人材が集まるようになった。

地域とのつながりも大切にしている。「最近、ご近所の人が『こいのぼりの先端についている矢車がまわらなくなった』と相談にきたんです。基本的に、依頼は断らないようにしているので、ボランティアとはいえいろいろ手を尽くして何とか回るようにしたら、ものすごく喜んでくれました」

地元の小学生・中学生、社会人のサッカーチームのスポンサーとして協賛活動もしている。小学生チームには、自社でサッカーゴールをつくりプレゼントした。「地域貢献したいという気持ちもありますが、自分にプレッシャーをかけるため、という方が大きいかもしれません。スポンサーとして名前が出て、注目されるからには会社として結果を出さなければならないと自分に言い聞かせています」

会社の理念「Challenge For Next」には、失敗しても何度もチャレンジし続けるという思いを込めた。「これからも、商品開発、発信、技術力向上……さまざまな取り組みにチャレンジして、鉄の可能性を広げていきたい」

石川恭子

行成 望 | ゆきなり のぞむ

略歴
1980年 丸亀市生まれ
1998年 県立飯山高校 卒業
    (株)潮製作所 入社
2013年 代表取締役
2014年 (株)MUKU-MO 設立

株式会社 潮製作所

住所
香川県丸亀市垂水町883-1
代表電話番号
0877・28・8733
設立
1989年
社員数
43人
事業内容
陸船舶配管工事、一般製缶鉄工製品、輸送設備、機器部品、大小船舶用甲板艤装品、アルミ、ステンレス製缶製品の製造など
地図
確認日
2021.08.19

記事一覧

おすすめ記事

メールマガジン登録
メールマガジン登録
ビジネス香川Facebookページ