リベラル・アーツで「考える人間」を育てる

四国学院大学学長 末吉 高明さん

Interview

2022.01.06

約25万冊が収蔵されている図書館「エクテス」=善通寺市文京町の四国学院大学

約25万冊が収蔵されている図書館「エクテス」=善通寺市文京町の四国学院大学

感性磨く「ドラマ教育」

「『考える人間』になってほしい」

文学部、社会福祉学部、社会学部の3学科1149人の学生に向けて、末吉高明学長(72)はメッセージを送る。「デジタル、AI、SNS……。これからの社会の中で、考えることのできない人間は、気づかないうちにシステムの一部に組み込まれていく。そんな時代がやってきています」

考える人間を育てる。そのために掲げているのが「リベラル・アーツ教育」だ。欧米の大学で多く取り入れられている教育プログラムで、“自由学芸”と訳される。日本で一般的な「学部」「学科」「ゼミ」という枠組みの中で専門知識を深めていくのではなく、様々な分野を横断的に自由に学んでいくというもの。「高校卒業後、半数以上が大学へ行く時代、今や大学は一握りの研究者やエリート官僚を育てる場ではない。専門に縛られることなく、創発的な教育を提供していくべきだと思います」
舞台芸術公演の様子

舞台芸術公演の様子

四国学院大学の「リベラル・アーツ教育」は実にユニークだ。まず1年次に教養教育をみっちり行い、2年次からは「メジャー制度」に進む。学生は学部や学科の枠を超え、「文学」「哲学」「英語」「情報加工学」など幅広い分野を網羅する20のメジャー(主専攻領域)と、4つのマイナー(副専攻領域)から学びたい専攻を選ぶ。例えば文学部の学生でも「スポーツ科学」を受講できるし、社会学部の学生でも「子ども福祉」を受講できる。一つの専攻を集中して学ぶも良し、途中で替えるも良し、いくつかを組み合わせるも良し。学生自身が自由に“学びのカタチ”をつくり、主体性や考える力を身につけていく。「多様な学びに触れ、時間をかけて学びのモチベーションを高めていってほしいですね」

講義一つ一つも独自色が強い。演劇を活用したカリキュラム「ドラマ教育」では、演出家や振付師など一流の演劇人を講師に招いて演技や舞台技術を学び、学内の劇場などで定期的に公演を行う。履修することでプロの役者への道も開ける本格的な内容だが、末吉さんの狙いはそれだけではない。「最大の目的はコミュニケーションです。社会に出ると様々な人と関わっていく。言葉だけでなく、『言葉にならないもの』をいかに汲み取り表現していくか。感性を養うことは極めて重要です」

10年程前、日本を代表する演出家の平田オリザさんが演劇のワークショップを行っていることを知り、すぐさま連絡を取った。「『ぜひ協力したい』と二つ返事で受けていただき、授業内容まで熱心に考えてくれました」。末吉さんは嬉しそうに話す。

大学教育ができること

リニューアルした 「カフェテリア コイノス」

リニューアルした
「カフェテリア コイノス」

以前から“日本式”の教育システムに疑問を感じていた。高校3年の時には、「受験戦争から抜け出したくて」アメリカへ留学。日本の大学を出たあとも渡米し、神学や黒人思想などを学ぶ中で、アメリカと日本の大学教育の違いを痛感した。

アメリカでは、社会ですぐに通用する実践的な教育が主流。「授業について行けずドロップアウトする学生も多く、入学したと言っても喜んでいられません」。一方、日本は「一番大変なのは大学に入ること。社会へ出ると、学んだことよりも学歴や偏差値、大学ブランドが重視されます」

 大学教育ができることは何なのか、人づくりをどう考えていくのか。「システムは一筋縄では変わらないが、真剣に考えないといけない時期に来ていると思う」と末吉さんは警鐘を鳴らす。

心から人と関われているか

昨年4月にできた「マグノリア学寮」

昨年4月にできた「マグノリア学寮」

履修の自由度をさらに高めようと昨年、前期・後期の2学期制から、春・秋・冬の3学期制に変えた。最新の照明・音響設備を備えた多目的施設を新設し、食堂はカフェテリアにリニューアル。「学生たちが共に生き、共に試行錯誤する場になってほしい」という思いを込め、近代的な学生寮もつくった。

大学は淘汰の時代と言われる。18歳人口は1992年の200万人超のピーク後、減少の一途をたどり、10年後には100万人を割り込む見通しだ。「人口減少は、ある意味プラスに捉えてもいいのかも知れない」と末吉さんは言う。「この大学に存在価値はあるのか、社会に貢献できているのか。それらがなければ続ける意味はない。そういう覚悟でやっていますから」

学生たちに望むことがある。「資格を取るため、経済的な安定を得るため、生活を良くするため……自分のためだけの学びで終わってほしくない。本当に心から人と関われているか、地域社会と繋がっているか。しっかり考え、学んでほしいです」

迎えた2022年、何より願うのは、学生たちの生き生きとした姿だ。「社会に出るとどうしても、利害関係が生まれる。そんなことお構いなしに人と付き合えるのが学生時代。コロナが一刻も早く収束し、思う存分キャンパスライフを楽しんでほしいですね」

篠原 正樹

末吉 高明 | すえよし たかあき

1949年 奈良県御所市出身
 68年 米ミネソタ州マデリア高校 卒業
 73年 国際基督教大学教養学部人文学科 卒業
 75年 奈良県立生駒高校教諭
 78年 米ジョージア州アトランタ大学センター
    Interdenominational Theological Center
    神学修士号(M.Div.)取得
 79年 私立大阪女学院高校教諭
 86年 四国学院大学 勤務
 87年 助教授
 96年 教授
2003年 社会学部カルチュラル・マネジメント学科長
    学長

四国学院大学

住所
香川県善通寺市文京町3-2-1
代表電話番号
0877-62-2111
設立
1949年10月20日(財団法人 四国基督教学園)
学部
文学部、社会福祉学部、社会学部
大学院
文学研究科、社会福祉学研究科、社会学研究科
地図
URL
https://www.sg-u.ac.jp/
確認日
2023.05.18

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