憧れだった地元商店街
「子どもの頃、何か良いことがあれば家族で商店街へ行き、食事をするのが楽しみでした」。丸亀市で生まれ育った秋山興産の社長、秋山憲夫さん(70)にとって通町商店街は、賑やかできらびやかな憧れの場所だった。「毎月1日や6日など1と6のつく日は『16(イチロク)デー』という夜市が開かれ、いつも大混雑していましたね」
その後、「私のところも買ってほしい」という話が次々と舞い込み、秋山さんはこれまでに周辺の空き店舗や土地など4000m²余りを取得している。「この場所は駅や市役所、銀行、病院、介護施設も近く、生活するのにとても便利。潜在的な可能性は十分にあると思っています」
しかし、ただ無計画に土地を持ち続けているわけではない。「経営コンサルタントに調べてもらい、立地条件などからビジネスホテルなら採算が取れるという調査結果が出ました」
まちを元気にしたい。故郷に恩返しがしたい。その思いは確かにあるが、「気持ちを入れ過ぎて深みにはまり、共倒れするわけにはいきません」
常に心掛けている教えがある。日本資本主義の父と言われた実業家、渋沢栄一の言葉「片手に論語、片手に算盤」だ。「ビジネスというのは、世のため人のためという情熱だけじゃダメ。本当に成立するかどうか、きちんと算盤も弾かなければなりません」
その考えへと至った苦い経験が秋山さんにはあった。
30年がかりで借金返済
秋山さんは1982年、秋山組の関連会社として、不動産などを扱う秋山興産を創業。さらに88年、瀬戸大橋の開通に合わせて開催された「瀬戸大橋博'88四国」の会場に高さ108メートル、360度パノラマのアミューズメント施設、回転式展望塔「瀬戸大橋タワー」を数人の仲間と共同出資で建設、開業した。しかし、「この経営が厳しかった」と苦笑する。
タワーは当初、一日5000人が訪れる大人気スポットになった。だが、やがて架橋ブームは去り、個人保証した建設費など数億円に上る借金だけが残った。「開業から間もなく30年だが、ずっと借金を抱えているというプレッシャーは相当なものでした」
秋山興産が数年前から手掛けている太陽光発電などが好調で、ようやく返済のメドが立ったと話すが、「論語と算盤のバランスを間違えると本当に大変。人生の貴重な経験になりました」。秋山さんはしみじみと振り返る。
パン屋で可能性を証明
空き店舗が出ても、買い取って商売を始める人は現れない。それはなぜか。「ここで店を出しても、誰も成功すると思わないからだ」と秋山さんは口調を強める。「『たぶん大丈夫だから店を出してみて』とお願いしても全く説得力はありません」
種類が豊富で値段も手頃。イートインコーナーも備えたパン屋はオープン直後から、一日に300人以上が訪れる人気店になった。「しばらくすると、隣にかき氷屋さんもできました。地元の人も喜んでくれているようで良かったです」
ビジネスホテルの予定地周辺で取得した土地の使い道にまだ具体策はないが、「駐車場の整備から始めて、食堂や居酒屋をつくるのはどうかと考えています」。店舗が立ち並ぶ昔の商店街の賑わいを取り戻すのではなく、まずはホテルの利用者や地元にとって必要な場所にしたいと話す。「これからのまちづくりとはどう在るべきか、私も考えるし、市や地元の人にも考えてほしいと思っています」
人生の後半、情熱を注げる新たなテーマが見つかってとても楽しいと秋山さんは笑う。「論語と算盤を持って、できる範囲でやっていく。ここが上手くいき、『丸亀には何かええことがあるんちゃうん』とさらに広がっていけばとてもうれしいですね」
篠原 正樹
秋山 憲夫 | あきやま のりお
- 1947年 丸亀市生まれ
1966年 香川県大手前高校(現大手前丸亀高校)卒業
1971年 東京大学工学部 卒業
1972年 秋山組 入社
1982年 秋山興産 設立
代表取締役 就任 - 写真
秋山興産株式会社
- 所在地
- 丸亀市飯野町東二1787番地9
TEL.0877・24・3363/FAX.0877・24・3364 - 資本金
- 2000万円
- 社員数
- 10人
- 事業内容
- 分譲宅地の開発販売
商業店舗・事務所の賃貸
太陽光発電による売電 - 関連会社
- 株式会社秋山組
瀬戸大橋タワー株式会社 - 地図
- URL
- https://www.akiyamakousan.co.jp
- 確認日
- 2018.01.04
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