自動車の社会的費用・再考

著:上岡 直見/緑風出版

column

2022.08.04

この本はタイトルに“再考”とありますように、元になる本があります。その元となる「自動車の社会的費用」が出版されたのは今からもう50年程前になります。ノーベル経済学賞受賞も取りざたされた、経済学者の故宇沢弘文が出した小さな新書版の本でした。当時すぐに買って読んだことを今でも思い出します。その最新版といえる本がこの5月に出版されました。当時、宇沢弘文は自動車の所有者が本来負担すべき社会的費用は1台あたり年額で200万円に及ぶことを示しました。それから半世紀後、この新しい本の著者は現代の社会的費用を計算し直しました。その金額はどのくらいになるか本書で示されています。

いま自動車をめぐる環境は大きな転換点を迎えています。電気自動車、自動運転等、新しい技術も生まれていますが、カーボンニュートラルの問題、高齢者の運転免許返納問題、公共交通の衰退など自動車を巡っては様々な問題が山積しています。著者は現在の状況は、80歳を過ぎても自動車を運転しなければ日常生活も困難となるクルマ強制社会が形成されてしまっていると言います。電気自動車も、仮に今のガソリン車がすべて電気自動車に変わると、原発4、5基分の電力が別に必要になると本書にありますが、トヨタ自動車の豊田章男社長の原発なら10基ほど必要になるとの発言もあります。著者は電気自動車などの技術に頼る議論は的外れで、このまま行ったらどうなるかの議論があまりに不足しているといいます。

私は1km以内なら徒歩で、3km以内なら自転車で、それ以上はなるべく公共交通機関を利用するように心がけていますが、残念ながらその距離も寄る年波、年を経るごとにだんだんと短くなっていきます。地方の人は歩かないと言われます。でも自動車中心のまちづくりがなされている以上、仕方がないのかもしれません。私の周りでも、普段電車やバスに乗る人は、圧倒的少数派になってしまいました。

自動車の走行距離を減らすより自動車の社会的費用を減らす方法はありません。豊かな地域を形成するには、その代わりに自動車に乗れない人たちのためにも、もっと公共交通を充実させるべきだし、その議論がもっと必要だと思います。

山下 郁夫

宮脇書店 総本店店長 山下 郁夫さん

坂出市出身。約40年書籍の販売に携わってきた、
宮脇書店グループの中で誰よりも本を知るカリスマ店長が
珠玉の一冊をご紹介します。
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宮脇書店 総本店店長 山下 郁夫さん

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