“総合サービス業”へ 進化する地方銀行

中国銀行 頭取 加藤 貞則さん

Interview

2023.02.02

中国銀行が所蔵する平山郁夫「吉備路緑映」の前で=岡山市北区丸の内の中国銀行本店

中国銀行が所蔵する平山郁夫「吉備路緑映」の前で=岡山市北区丸の内の中国銀行本店

「5つの柱」で新たな価値を

本拠地は岡山県。だが中国銀行は、香川県内企業との結びつきが非常に強い金融機関の一つだ。同行は、明治から昭和初期にかけて岡山・香川の地域金融機関が合併を重ねて創立された背景から、香川県内での営業の歴史は古く、香川に本社を持つ企業のメインバンクを調べたランキングでは、常に上位にその名を連ねている。「香川には個性的でユニークな企業が多く、土地も魅力的。人口減少や高齢化など地方が抱える課題は共通しているので、私たちにできることをしっかり発揮し、香川の成長発展にも貢献していきたい」と加藤貞則頭取(65)は力強く語る。

中国銀行がいま特に力を注ぐのが「5つの柱」。1つ目は、主要エリアとする岡山、香川、広島の活性化を目指す『地方創生、SDGsの取り組み強化』、2つ目は、個々の顧客の立場に立った『営業の“深化”』、3つ目の『組織の活性化』の目玉は“女性活躍”だ。「これまでは男女で職種が偏っていたり、給与面で違いがあったりした。でも、もうそんな時代じゃない」。もっと多くの女性が幹部となり意思決定に加われる、大幅な人事改革制度を導入した。「時間はかかるかもしれないが、徹底して変えていきます」。4つ目の柱は、顧客企業のデジタル化支援などを行う『デジタル戦略強化』、5つ目には、地域、顧客、従業員に対する『持続可能な成長モデルの確立』を掲げる。「『5つの柱』を通して、中国銀行の新たな価値を創造していこうと思っています」

中でも特徴的なのが、「地方創生」と「SDGs」への取り組みだ。「『えっ?銀行がそんなことをするの?』と驚かれることがよくあります」
「脱炭素先行地域」選定授与式=岡山県西粟倉村

「脱炭素先行地域」選定授与式=岡山県西粟倉村

力を入れるのが「カーボンニュートラル」。岡山県西粟倉村や真庭市とタッグを組み、地域内の施設に再生可能エネルギー設備を置くなど「脱炭素」を後押しする。西粟倉村、真庭市ともに、全国的にもまだ数が少ない環境省の「脱炭素先行地域」に選ばれている。

全国4番目の規模を持つ岡山市の前方後円墳「造山古墳」。観光名所にしようと、PR動画やパンフレットを製作した。岡山県教委にも配布し、学校の教材としても活用されている。

コロナ禍で高校生が「ブラスバンドの発表ができない」と聞けば、地元楽器店などと連携。市民会館を貸し切りにし、コロナ対策を徹底して発表の場をつくり出した。「『高校生を元気づけよう』と地元店舗の行員総出でやりました。生徒や保護者、多くの人に喜んでいただきましたね」。加藤さんは目を細める。

「銀行の枠を超えたこれらの試みが今後の大きなビジネスに繋がるかどうかは分からない。でも、『地域のために仕事をする』のが地方銀行の本来の姿。地域を元気にする様々な仕掛けが、少しずつ形になりつつあるかなと感じています」

「ちゅうぎんFG」が始動

「ちゅうぎんフィナンシャルグループ」設立セレモニーの様子

「ちゅうぎんフィナンシャルグループ」設立セレモニーの様子

昨年10月、持ち株会社「ちゅうぎんフィナンシャルグループ」が発足し、加藤さんが社長に就いた。中国銀行を含むグループ会社9社が、持ち株会社の傘下に並列する。「大きな狙いは『事業軸の拡大』『経営資源の適正配分』『グループガバナンス強化』の3つです」

投資専門会社の「ちゅうぎんキャピタルパートナーズ」は、地元企業の事業承継やスタートアップなどを、事業者と一体になって企業価値を高めていく「エクイティ投資」で支える。コンサルティング会社の「Cキューブ・コンサルティング」は、企業や自治体のDX化や、持続可能性を重視した経営へ転換するSX化をサポートする。「金融を中心とした“総合サービス業”へと進化し、グループ全体で幅広い事業を進めていきます」。つまり、「えっ?銀行がそんなことをするの?」が更に強化される格好だ。

昨年12月には、自己啓発やリスキリング(学び直し)に充ててもらおうと、グループの全社員約5000人に1人5万円の「チャレンジ手当」を支給。「みんなの前向きな挑戦に期待している。グループ全体をレベルアップさせ、地域のニーズに応えていきたい」と加藤さんは意気込む。

「顧客起点」でポジティブに

1969年、アポロ11号による人類初の月面着陸。当時小学生だった加藤さんは、衛星中継の同時通訳に感動し、「英語や海外に憧れ、『アメリカに行きたい』と思うようになりました」

高校時代、米・ロサンゼルス郊外の高校に留学。そこで強く感じたのは、「“国際人とは何だろう”ということ。『この人のことを知りたい』『付き合ってみたい』と思ってもらうには、自分自身が日本のことや地域のことをもっと知らなければならないんですよね」。留学した1年間の出来事は衝撃的なことばかり。「今でも全て覚えています。私の思考ががらりと変わった本当に貴重な経験でした」

行員たちに望むのは、顧客のことを知り、顧客の立場で想像力を働かせること。「地方銀行の経営環境は急激に変化していますが、地域の発展に役立つことが仕事になる。これほど素晴らしいことはないと思う。みんなには『お客様起点』でポジティブに、仕事を楽しんでほしいですね」

篠原 正樹

加藤 貞則 | かとう さだのり

略歴
1957年 岡山県倉敷市生まれ
1976年 米・ロサンゼルス パームデール高校 卒業
1981年 早稲田大学政治経済学部 卒業
     中国銀行 入行
1993年 米・シカゴ大学経営大学院 修了
     鴨方支店長、岡南支店長、システム部長などを経て
2013年 取締役人事部長
2015年 常務取締役
2017年 代表取締役専務
2019年 頭取
2022年 ちゅうぎんフィナンシャルグループ 取締役社長

株式会社中国銀行

住所
岡山県岡山市北区丸の内1-15-20
代表電話番号
086-223-3111
設立
前身銀行創立 1878年12月9日/創立 1930年12月21日
社員数
2748人
店舗数
144カ店(本店、国内支店135(香川県内12)、出張所5、特別出張所2、海外1)
地図
URL
https://www.chugin.co.jp/
確認日
2023.02.02

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