「未知を楽しむ それが登山 そして人生」

工代 祐司

column

2023.06.01

登山家の田部井淳子さんの言葉だ。去る3月31日、6年間の教育長職を退任した。ともに過ごした天神前分庁舎の皆さんが、心のこもった「天神前小学校卒業式」を行ってくれた。授与された卒業証書には田部井さんの言葉が墨書されていた。書家でもある金子先生(現高松工芸高校校長)の筆によるものだ。

人生は誰にとっても未知だ。未知なるものは怖くて不安で苦しいものだ。だからこそ、挑戦し乗り越える価値が生ずる。そして、それを楽しむ心を持てたなら、その人生は一段と充実したものになる。そう語ってくれているように思えた。

城山三郎さんの著作に「この日、この空、この私-無所属の時間で生きる-」がある。「無所属の時間でどう生き直すか」についての洞察に満ちたエッセイ集だ。この日、この空の下にあるこの私を、かけがえのないものとして前向きに受けとめ、一日に一つでも爽快だ、愉快だと思える日常を送れるかどうかが、人生の最終章には極めて大切だと作家は言う。

組織人生の最後に教育行政を担当させて頂いたことは幸運だった。子どもたちの学びを考えることは、翻って自分自身の学びや生き方を改めて問い直すことに通じた。今後、天神前小学校卒業を心の支えとして、「無所属の時間の中で、未知を楽しみ、生き直す」をテーマに、「今日は深く生きたなあ」と思える日々を重ねていきたいと思う。

ただ、退任後2か月近く過ぎ、「毎日なんしょんなぁ?」と問われれば、「うどん屋巡り!」としか答えられないのだけれど。さぬき人だからしょうがないよね。

最後に、「潮流」、「瀬戸標」と9年余にわたり、当欄を担当させていただきました。拙文をお読みいただいた皆様、遅い原稿を毎回お待ちいただいた編集部の皆さん、本当にありがとうございました。皆様が日々の暮らしの中で、沢山の未知なる楽しみと巡り合われることを心よりお祈り申し上げます。

工代 祐司 | くだい ゆうじ

1956年坂出市生まれ。81年香川県採用。環境森林部長、政策部長、審議監などを経て、2017年香川県教育委員会教育長。趣味は読書と木工

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