島の特別支援教育拠点校に

香川県立小豆島みんなの支援学校 校長 林 省吾さん

Interview

2023.06.15

大学受験に当たって進路を相談した中学時代の恩師に「障害児教育は教育の原点だ」と勧められ、香川大学教育学部の養護学校教員養成課程へ進学。本格的に志を固めたのは、同大附属養護学校(当時)での教育実習だった。「給食の配膳中に大きなくしゃみをした子がいて、僕はとっさに『食事に飛沫が…』と思いましたが、隣の子は『大丈夫?』と真っ先に相手を気遣ったんです。なんてすごい世界だ、この子たちと教育の現場に立てたらこんなに楽しいことはないだろうと確信しました」

子どもたちに教えられた 特別支援教育の在り方

香川東部養護学校(当時)から教師のキャリアをスタート。「牧歌的だった」と振り返る5年を子どもたちとのびのび過ごした後、香川中部養護学校に移る。大規模校の環境に揉まれて経験を積む中で聞いた「先生がおるから私も学校に来るんで」という女子生徒の言葉は、今も心に残っている。

善通寺養護学校(当時)の小学部で適応障害の子どもたちを担当した11年間は、最も学ぶことが多かったという。「できるまで頑張れ!」と励ます従来の指導から「褒めて肯定感を高める」指導へ転換しつつあった時代で、自身の教育観も大きく変わった。「小さいことから達成できる環境を整えて、一つ一つ褒める。スモールステップの手法です。ボールを手渡し合うところからキャッチボールを練習し、休み時間の野球に参加できるようになった子もいました。教育に特効薬はない、どう支援すればいいかは子どもたち自身が答えを持っていると教えられた時期でした」

その後は学部主事や教頭として教師側の指導に当たることが増えたが、高松養護学校(当時)の教頭を務めた時に初めて肢体不自由の子どもたちの教育現場に触れ、ICTなどを駆使する専門性の高い指導も間近に見て、学びを深める機会も得た。

インクルーシブ教育の 新たなモデル校として

池田小との合同運動会の様子(2023年5月)

池田小との合同運動会の様子(2023年5月)

2023年、小豆島みんなの支援学校が開校。小・中学部と香川中部支援学校高等部分教室があり、現在は16人の教師が12人の生徒の指導に当たっている。落ち着いて学習に集中できる工夫を凝らした最新の施設・設備力とともに、隣接する池田小学校と通路で行き来ができる設計になっているのが特長だ。当初から両校の交流及び共同学習をコンセプトとする先進事例で、5月には小学部と池田小の児童が合同運動会を実施するなど連携が進んでいる。

校長として赴任した林さんは「これまでは高松の支援学校などに通っていた子も、地域で一緒に学べる環境が整いました。小さい歩みですが、島内のほかの学校との交流も視野に入れ、ここを支援教育拠点校としてインクルーシブ教育実践の足掛かりにしたい」と意欲的だ。

校長室の扉は常に開かれ、子どもたちの声が明るく響いてくる。「笑い声が高松まで届くくらい活気ある学校になればうれしい」と語った。

戸塚 愛野

林 省吾 | はやし しょうご

略歴
1966年 香川県生まれ
1990年 香川大学教育学部
    養護学校教員養成課程 卒業
    香川県立香川東部養護学校 教諭
1995年 香川県立香川中部養護学校 教諭
2006年 香川県立善通寺養護学校 教諭
2017年 香川県立香川丸亀養護学校 教諭(中学部主事)
2019年 同校 教頭
2021年 香川県立高松養護学校 教頭
2023年 香川県立小豆島みんなの支援学校 校長

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