「宝」は経験の中に

香川大学大学院 地域マネジメント研究科長 原 真志さん

Interview

2017.06.01

大阪府堺市出身。多くの人でにぎわう百舌鳥八幡宮の秋祭り「ふとん太鼓」には、子どもの頃から参加していた。香川に来て約20年。「最初から故郷のような親しみを感じていました」。西讃地域の「ちょうさ祭り」に登場する太鼓台が、地元のふとん太鼓によく似ていたからだ。

地域経済の「なぜ」を解明

高校卒業後は東京大学に進み、教養学部で経済地理学を学んだ。「なぜその場所なのか」にこだわって説明する学問だという。例えば、香川にうどん店が多いのはなぜか、東京に大企業が集中しているのはなぜかなどだ。

研究テーマには地元のふとん太鼓を選んだ。「祭りをデータ化してみようと思ったんです。祭りを通して、昔から住んでいる人と他地域から引っ越してきた人が交流するなど、堺の人々のネットワークがどのように出来上がっていくのかを調べました」

1995年から香川大学経済学部で教鞭をとる。学生時代に学んだ地理学の視点から、経済活動について考える。葉っぱビジネスを行う徳島県上勝町など、地域を元気にする活動に着目した研究の指導を行った。
米国留学時に、家族とモニュメントバレーへ

米国留学時に、家族とモニュメントバレーへ

98年9月から1年半、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)に留学。エンターテインメントの分野をすすめられ、映画産業に興味を持った。映画制作という一大プロジェクトを成功させる肝は、人のネットワークとスタッフのコーディネートではないかと考えた。

中でもコンピューターグラフィックス(CG)のスーパーバイザーに焦点を当てた。CGを使って監督が表現したい世界をどう作るか、制作会社の選定や予算管理を担う重要な仕事だ。原さんは映画関係者が集まる会議があると聞けば参加し、そこで知り合った人の会社を訪問。スーパーバイザーに関する調査への協力を依頼した。
カリブ海のセント・マーチン島でシーカヤック

カリブ海のセント・マーチン島でシーカヤック

研究においては現場主義を掲げる。現場に赴いて経験することの大切さを感じたのは、学生時代のバックパッカー旅行がきっかけ。大阪南港から船で上海へわたり、中国に1カ月滞在。中国からチベットにも行った。ヨルダンやイスラエルを訪れたこともある。「どの国も行ってみないと分からないことが多い。治安や人々の暮らしぶりなど日本で知る情報とはギャップがありましたね。日本とは環境の違う国に身を置いて、異文化を尊重する気持ちも生まれました」

プロを相手に授業

「香川大学ならではの大学院にしないと意味がない」と考え、2004年の地域マネジメント研究科(ビジネススクール)創設から携わる。

香川大学のビジネススクールは地域活性化に貢献する教育研究を目的とした経営系専門職大学院で、平日の夜間に授業を行う。学生の多くは社会人であるため、当初はプレッシャーを感じていた。

「企業や自治体などで働く学生たちは各々がいわば専門家。それぞれの仕事や産業については、学生の方がよく知っています。でも、様々な業界を俯瞰して見えてくる、物事に対する考え方や捉え方については十分助言できる。学生の成長を効果的に支援できることも実感し、指導を行ってきました」

学生たちの話を聞く中で分かったのは、それぞれの社会経験の中に本人も気付かない宝が眠っているということだ。学生からのフィードバックで、授業がより立体的になるように感じている。「まるでサーフィンみたいです。どんな波が来るかは分からない。来た波に合わせて乗っていくと、さらにいい波が来る。そんな授業ですね」

ビジネススクールのこれから

15年、研究科長に就任。ビジネススクール修了後のサポートが課題だと感じている。「修了生から引き続き教員のアドバイスを受けたいという要望もあります。在学中に考えたプロジェクトを修了後も継続して実現、修了生がより活躍できるように支援したいですね」

原 真志 | はら しんじ

略歴
1965年 大阪府堺市生まれ
1990年 東京大学教養学部 卒業
1995年 東京大学大学院総合文化研究科
     博士課程単位取得退学
     香川大学経済学部 専任講師
1996年 香川大学経済学部 助教授
1998年 UCLA客員研究員(2011年にも同職)
2004年 香川大学大学院地域マネジメント研究科 助教授
2007念 香川大学大学院地域マネジメント研究科 准教授
2011年 香川大学大学院地域マネジメント研究科 教授
2015年 香川大学大学院地域マネジメント研究科 研究科長

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