世界中の命 高品質ワクチンで守る

BIKEN 社長 宅 康次さん

Interview

2018.03.01

クリーンに保たれた株式会社BIKEN本社瀬戸事業所の製造棟=観音寺市瀬戸町

クリーンに保たれた株式会社BIKEN本社瀬戸事業所の製造棟=観音寺市瀬戸町

ワクチン生産を牽引

毎年のように流行するインフルエンザ。A型とB型の同時流行や、高熱が出ない“隠れインフル”と呼ばれる症状が出るなど今シーズンも全国で大流行し、昨年9月からの累積患者数は1000万人を超えた。

「高い技術力と充実した設備で高品質なワクチンをつくっています」

観音寺市に本社を構える株式会社BIKENは、インフルエンザなどの感染症を予防するワクチンの国内トップメーカーだ。社長の宅康次さん(69)は「感染症の脅威から社会を守るため、ワクチンを安定供給するのが私たちの使命」と力を込める。
観音寺発のワクチンを世界中に届けたい

観音寺発のワクチンを世界中に届けたい

1934年、ワクチンを製造する大学発ベンチャーとして、「阪大微生物病研究会(BIKEN財団)」が設立。世界初の水痘(水ぼうそう)ワクチンなど数々の国産第一号ワクチンを世に送り出してきた。そのワクチンを量産しようと46年、製造拠点として観音寺市に「BIKEN財団観音寺研究所」がつくられた。「戦後、需要が高まった発疹チフスのワクチンは、ウイルスの増殖に適したニワトリの卵をベースにつくる。観音寺周辺には養鶏業者が多く、ワクチン製造に理解のある医師もいたことから拠点を置いた経緯があります」

インフルエンザワクチンの原料も鶏卵だ。「最盛期には一日に数十万個の卵が必要になります。半数以上を地元で調達していますが、特別な衛生管理に対応していただけるレベルの高い養鶏業者さんばかりで、非常にありがたく思っています」

昨年、生産体制を強化しようと、製薬大手の田辺三菱製薬とBIKEN財団との共同出資で「株式会社BIKEN」が誕生した。現在、本社を兼ねる瀬戸事業所と八幡事業所、東京事業所の3拠点で、インフルエンザをはじめ、麻疹(はしか)や風疹など11種類のワクチンを製造。国内のワクチン生産を牽引している。

初代コンプラ部長に

ワクチン製造の様子

ワクチン製造の様子

SARS(重症急性呼吸器症候群)、エボラ出血熱、鳥インフルエンザ・・・・・・近年、新たな病原体による新興感染症が次々と発見され、世界規模の問題になっている。

「まだ撲滅できていない感染症もあれば、経験していない感染症も現れる。人類の感染症との闘いに終わりはなく、公衆衛生に寄与するメーカーとして社会の期待に応えなければならない」。BIKENの初代社長になった宅さんは強い決意を語る。

出身は奈良県。幼い頃は、フランスの科学者・パスツールの実験などを紹介するテレビ番組が大好きで、「サイエンスの道に進みたいと思っていました」

大学は特別理科課程、大学院では理学研究科に進み、物質中の化学成分の種類や量を解析する分析化学を中心に学んだ。「その流れで製薬会社に入りました」。1973年、田辺製薬(現田辺三菱製薬)に入社。研究者として新薬の開発などに携わった。「想定外のことが起こる度にサイエンスの奥深さを痛感していました。でも、工夫することで解決できる。自分が手掛けたものが認可され、製品になって市場へ出ていくというワクワク感はたまらないものでした」

田辺製薬ではその後、情報システムや人事、監査なども担当した。印象深いのは初代の「コンプライアンス推進部長」になったことだ。時流を受けてできた新しい部署で、「引き継ぎ資料もなく、社長から指名された時に『何をする部署ですか?』と尋ねたら、『それを考えるのが君の仕事だ』と言われました」と苦笑する。

「仕事に対して一生懸命であっても、方向を見誤ることもある。そうなった時に犠牲になるのは従業員。けなげに頑張っている人が傷つかないよう、従業員を守るシステムをつくりました。今思うとそれは、会社にとっての“ワクチン”でしたね」。とてもやりがいのある仕事だったと当時を振り返る。

定年退職後、経営コンサルタントやBIKEN財団の役員を経て、新会社の社長になった。観音寺に住んで3年になるが、「気候も人も穏やかでアットホーム。地元に愛され、誇りに思ってもらえる会社にしていきたいですね」。宅さんは笑顔で話す。

感染症への不安を解消

2011年に開所した瀬戸事業所。 16万5000m²の広大な敷地に立つ

2011年に開所した瀬戸事業所。
16万5000m²の広大な敷地に立つ

海に近い、広大な敷地に立つ瀬戸事業所。現在、ラインの増設などをしており、来年度からは国内トップの生産能力をさらにアップさせる計画だ。「日本市場への安定供給が最優先事項ですが、将来的にはここから海外へも供給できる体制にしたいと思っています」

4年前から水ぼうそうのワクチンが、3歳までの子どもは原則無料で受けられる定期接種になり、患者数が激減している。全ての病気がワクチンで予防できるわけではない。だが、「劇的な効果をもたらす可能性を秘めているのがワクチンなんです」

宅さんには思い描く大きな理想がある。「優れたワクチンを通じて、多くの人たちの命を守りたい。感染症への不安も取り除きたい。予防薬であるワクチンだからこそ、できることだと思っています」。そして、力強くこう続ける。「思いは大きく持っていないといけません。ここ観音寺発のワクチンを世界中に届けたいですね」

篠原 正樹

宅 康次 | たく こうじ

1948年 奈良県生まれ
1967年 奈良県立畝傍高校普通科 卒業
1971年 奈良教育大学教育学部特別教科(理科)卒業
1973年 大阪市立大学大学院理学研究科 修了
    田辺製薬(現田辺三菱製薬)入社
2003年 コンプライアンス推進部長
    定年退職後、経営コンサルタントなどを経て
2011年 独立行政法人医薬基盤研究所 監事
2013年 BIKEN財団 監事
2015年 BIKEN財団 理事
2017年 BIKEN 社長

株式会社BIKEN

住所
観音寺市瀬戸町4丁目1番70号
TEL. 0875・25・4171/FAX. 0875・25・4305
操業開始
2017年9月1日
資本金
1億円
従業員数
553人(17年9月1日現在)
事業内容
ワクチンを含む生物学的製剤の製造及び供給
地図
URL
https://www.biken.or.jp/
確認日
2018.03.01

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