安心施工と機動力 人情と根性の管理

大協建工 代表取締役社長 板坂 直樹さん

Interview

2012.07.19

大手企業で11年、内装工事の営業から施工管理、資金繰りまで経験を積んで、父の会社に入った。業界は年功や根性がものを言う職人の世界だ。成果を出さないと社内に居場所はない。

リーマンショックと得意先の建築会社の倒産が会社を襲った。社長を継いで5年目、最大のピンチに立ち向かった。「夜も眠れませんでした。しかしこれで会社が一つになれたんです」

人は石垣、人は城、人こそ資源。創業者の父が組織した職人集団を引き継いで、他社が出来ない大規模工事も短期間工事もこなした。どこよりも少ない事故率でゼネコンの信頼を得た。

今年40周年を迎える大協建工の2代目社長板坂直樹さん(44)は、事業を全国へ拡大、人情と根性とデータに基づく管理力で、売上高と利益率、そして職人集団の機動力と安心施工の日本一を目指す。

※職人
内装仕上げ工事、各種金属下地工事、各種ボード貼り付け工事、冷蔵室内装、防音室内装などの技術者。

※人は城、人は石垣、人は堀、情けは味方、仇は敵なり
信玄を生んだ甲斐の戦国大名武田氏の戦略・戦術を記した軍学書「甲陽軍鑑」にある言葉。

息子が無能なら部下の独立OK

「息子に能力がなかったら、力のある者は独立してもいい」。創業者で現在相談役を務める父の板坂信定さん(71)の言葉に奮起した。社員を統率できなかったら、会社が分解する。
難しい仕事を買ってでた。2004年に落成した高松シンボルタワーは、県下初の高層タワーの免震構造で工事は難航、内装の工期が厳しくなった。


「約束の期日に間に合わせるために、職人さんを総動員して、夜中に資材を搬入、朝4時から突貫工事をやりました」

みんなの力を集めることで難題を克服した板坂さんは、組織を束ねていった。

5年目にピンチ、社員一つに

2009年、得意先が倒産した。危機をどう乗り越えるか。眠れない夜が続いた。

「当面の資金不足の心配はありませんでした。しかし、その先を考えると経営者としてうかうかしていられません。金融機関に忌憚(きたん)のない意見も求めて信頼関係を再構築していきました」

社内も業界も、板坂さんが父親譲りのタフで根性のある2代目だと気づいた。会社を継いで5年目、板坂さんの元に社員が一つにまとまった。

思いもよらない外部環境の変化が、会社を飲み込む。かじ取りを一つ間違えればどうなっていたかわからない。

「ピンチを乗り切る手立ては、お客さんのため、取引先メーカー、職人さん・社員、その家族の為に絶対に会社を潰さないという思いだけです」。板坂さんは当時を振り返った。

無駄と必要 見極め時間管理

2008年度、売上高63億円を計上したが、リーマンショックと得意先の倒産で、2010年度の売上げは35億円に激減した。

板坂さんはリーマンショックの2年前から、営業戦略を量から質に変えていた。2011年度の売上41億円、前年度0.5%だった営業利益率は、3.4%に上がった。

「作業の効率化で、生産コストを減らしたんです」。板坂さんは、職人の動きを分単位で分解する。

「内装の仕事は、下地材や石膏ボードを切って、組み立てて、ビスで固定する作業です。それに何分かかるか計ります。例えば12分とすると、正味は4、5分です」。残りの時間は、朝礼、材料搬入、仮設足場組、食事、トイレ、清掃等に費やしている。

規模によって数百トンになる資材の搬入方法や、置き場所を工夫するとコストは下がる。「二つの部屋を内装する場合、職人が最小の動きで仕事ができる所に置くんです」  現場で集めた詳細なデータは、「一歩」がもったいないと教えてくれる。

「トイレや食事に行く時、歩きながら次の仕事の、足場の組み方を考えるだけでも、効率が上がります」

データは無駄と必要とを見極める。「切って、組み立てて、固定する」以外の無駄な時間を短縮すると、事故のリスクも減っていく。

弊害気にせず長時間会議

40人の社員と680人の職人集団を束ねるのは大変だ。「営業と現場管理を担当する社員を、業界では番頭といいます。一番大事な仕事は、職人さん達との信頼関係です」

板坂さんは、効率化と安全の「手段」をデータで示す。「職人さんに分かってもらえるように、何回も黒板に書いて話します。2~5割ではなく10割の人に理解してもらわないといけないんです」

全員に周知徹底させるために開く周知会は重要だ。高松支店の場合は月に2回、朝7時の朝礼に高松支店の職人さん100人が集まる。月に1回、全社の支店長と番頭さんが出席する会議もある。

テーマは、「目標管理」、「現場管理」、「安全・事故対策」、「新技術の勉強会」・・・などなどから「顧客対応と女性を口説くことの共通点」、「個人の夢、会社の夢」まで盛りだくさんだ。

板坂さんは長い会議の弊害は気にしない。「朝から始めて、夜11時になったりします」。激しい会議が評判になって、大阪の会社が視察に来たこともある。

賞与返上・給料減の連判状

2009年の冬、社員たちが連判状を持ってきた。「会社が苦しいでしょうから、ボーナスはいりません。給料も減らしてください」とあった。

「心配するな」とはねつけたらまた持ってきた。「うれしかったですよ。涙がでそうになりました。結局、みんなの気持ちをありがたく受けました」

2010年の冬、危機を乗り越えて賞与を復活した。社員の奥さんと、独身者には両親宛てに手紙を添えた。

「あなたのご主人は会社のホープです。これからも旦那さんを支えてください。ありがとう」「今までの功績に感謝いたします」などと、ねぎらいの言葉を書いた。

それから1カ月後、年が明けた1月だった。「私の誕生日に、朝飯を食べていたら、嫁さんが『みんなから届いてるよ』と封筒を食卓に置いたんです」。社員から、妻の奈津子さんに宛てた手紙だった。

「社長は私たちのためにがんばってくれています。夜や休日も休みがなく、奥さんにはご苦労をお掛けしているでしょう」「悩んでいる時に、声を掛けてくれる社長です。お茶を入れたらありがとうと言ってくれます。これからも社長を支えてください」。板坂さんはトイレにこもって泣いたという。

「連判状と手紙は宝物です」といった板坂さんの目がまた潤んだ。

強みは品質と安全意識の高さ

競争は激しい。

「5社6社の競合が当たり前ですが、大手ゼネコンから指名発注が来ます」。理由は、40年の歴史で培った機動力と安心施工だ。

「前の工事がどんなに遅れていても、680人の職人集団を動員して竣工に間に合せるように協力します。それと作業品質と安全意識の高さが強みです」

人は城。人こそ資源。人情と根性と緻密な管理が、一人ひとりの潜在能力を引き出す。板坂さんは、信頼と合理主義を組み合わせるマネージメントの「匠(たくみ)」だ。

板坂 直樹 | いたさか なおき

1968年 東かがわ市生まれ
1990年 日本大学卒業
1990年 大建工業株式会社入社
2001年 大協建工株式会社入社
2004年 代表取締役社長に就任
写真
板坂 直樹 | いたさか なおき

大協建工株式会社

所在地
〒761-8013
高松市香西東町547番地3
TEL:087-882-8778 FAX:087-881-5995
メールアドレス:takamatu@daikyokenko.co.jp
設立
1972年
資本金
1000万円
代表者
代表取締役社長 板坂直樹
売上高
44億6000万円(2011年9月期)
従業員数
営業・事務55人、技術者682人
事業内容
内装工事
(耐震天井・リフォーム・防音・二重床・断熱・特殊内装他)
事業所
高松、徳島、淡路、松山、岡山、大阪、神戸、東京
沿革
1972年 大協建工有限会社設立
1979年 株式会社に変更
1979年 徳島営業所(現 徳島支店)開設
1983年 松山営業所(現 松山支店)開設
1988年 岡山営業所(現 岡山支店)開設
2004年 大阪支店開設
2007年 東京支店開設
2009年 淡路営業所開設
2009年 神戸営業所開設
確認日
2018.01.04

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