
年代物のスコッチなど、主にモルトウイスキーの古いボトルを1千本あまり骨董品のコレクターのように集めている丸岡俊文さん(64)が、モルトバーを開いて25年になる。
作家の伊集院静さんが、2009年11月号の文芸春秋のグラビア記事で「こんなところにある」と紹介した「サイレンスバー」は、丸亀港のはずれにある。
時の流れを閉じ込めたオールドウイスキーは、追憶を呼び起こす。人生最後の一杯と思って飲んだウイスキーが、生きる力を与えてくれた話も聞く。その古いウイスキーを求めて、愛飲家が各地から訪れる。
スコッチ
英国スコットランドで製造されるウイスキー。
モルトウイスキー
麦芽を発酵させ、単式蒸留器で2回蒸留、オーク樽で熟成。原料は大麦 麦芽のみ。少量生産に適し、大量生産や品質の安定が難しい。
モルトバー
モルトウイスキーの品揃えが充実したバー。
店はオールドウイスキーの収蔵庫

数十年も前にボトリングされたオールドウイスキーは貴重だ。希少価値のある有名銘柄なら、発売当時の数十倍の値を付けることもあるという。
店の棚に並べているのは、スコッチがほとんどだが、五大ウイスキーのアイリッシュやアメリカン、カナディアンに日本のウイスキー、それ以外のニュージーランド、台湾、インド、ドイツのウイスキーもある。
店に収まりきらないボトルは、倉庫で保管しているが、毎年の棚卸しは大変だ。
レア物は売りたくない
オールドウイスキーは、1本10万円ほどのボトルを多く揃えているが、手ごろなものは、スコッチの12年クラスで3500円から4000円ほどだ。
50年物のマッカランを120万円で買ったことがある。「アルコール度数の割には、柔らかく飲みやすい超熟成感がありました」
「香りの芸術品」と呼ばれるモルトウイスキーは、「南国のフルーツの香り」とか、「スモークや皮の臭い」といったワインと同じ表現をする。
お気に入りのウイスキーは売りたくないが、そうはいかない。レア物が手に入ると試飲会を開いてお客さんに楽しんでもらう。去年の春、35万円で買ったマッカランの46年物は、希望者が60人いたが先着順の20人で試飲した。
そんな店に、遠方から飛行機便でなじみ客がやってくる。シンガーソングライターで俳優の売れっ子も訪ねてきた。
今年6月、25年の開店記念日には、伊集院静さんから花輪が届いた。
50年物
樽で50年以上熟成させたウイスキーで、ラベルに「50年」と表記されている。
マッカラン
シングルモルトのスコッチウイスキー。樽は、シェリーの貯蔵に使用したものだけを使う。徹底した樽へのこだわりがマッカランの特徴。
バーは港が似合う
17歳で東京へ出て、キャバレー・ミカドでバーテンダー見習いを振り出しに、都内のバーを転々としながら、安い給料の範囲で手の届くスコッチウイスキーを買った。
横浜港の近くでバーをやっている友達が何人かいて、休日はよく遊びに行った。バーは港がよく似合うと思った。
店のつくりは樽の中
店のつくりは、樽の中のイメージだから暗い。ウイスキーは太陽光や蛍光灯で劣化するから窓もないし、照明に蛍光灯は使わない。元倉庫だった内部は天井が高い長方形。壁一面にビンが並んでいる。ブランド名入りのミラーもある。25年間ほとんど内装は変えていない。
女性のサービスもカラオケもないが、興に乗ればモダンジャズを静かに流す。葉巻はウイスキーには欠かせないから、キューバやドミニカ産の銘柄を常備している。
天使の分け前
ウイスキーは、年数を重ねるごとに熟成するが、水分やアルコール分の蒸発で少しずつ樽の中の量が減っていく。「天使の分け前」と呼ぶ。
ウイスキーの熟成は、樽の中のわずかな酸素と、樽材成分やアルコールなどの化学反応のはずだが、「静かに」は、熟成をつかさどる天使への配慮かもしれない。
古いものほど新しい
「樽に仕込んで3年目、6年目、7年目と年数が古くなったモルトウイスキーの新製品を、年ごとに飲み比べると熟成の進化を味わえます」
ウイスキーは、古いものほど新しい。アイルオブアランは3年物モルトで5千円、一番古い新製品は2万円ほどだという。
ウイスキーのおいしい店
「全国に60人ほどいる、親しいモルトバーの店主の話でも、マニアは北海道から鹿児島まで、飲みたいウイスキーを求めてやってきます」
なじみ客の中には、定年退職後にバーを開いた人もいるという。「モルトバーは、仲のいい年配夫婦でやるのが一番です」
天使が熟成を采配するウイスキーだから、そんな店で飲むと一層おいしいのだろう。
齢を重ねるのも悪くはない

丸亀港のはずれの倉庫を改装した「サイレンスバー」
オールドウイスキーの収蔵庫のような店内
だが、「年を取るのも悪くはない。歳月が磨いてくれるものもあるはずだ」。オールドウイスキーに、問われているような気がしてならない。
人も、歳月によって分別や知性を超えて熟成する。
「人生の大半を共にした古い相棒には、敬意を払うだけです」。丸岡さんは苦労を重ねた日々のことは何も語らない。
◆写真撮影 フォトグラファー 太田 亮
丸岡 俊文 | まるおか としふみ
- 1949年 三豊市(旧:三豊郡豊中町)生まれ
17歳で東京のキャバレー・ミカドにバーテンダー見習いで入り、
東京都内のバーでバーテンダーとして働く。
30代前半に長距離トラックの運転手になる
1987年 サイレンスバー開店
<役職> 日本バーテンダー協会四国統括本部 副本部長
日本バーテンダー協会香川支部 常任相談役
- 写真
サイレンスバー
- 所在地
- 丸亀市港町307 32埠頭
TEL:0877-24-3646 - 営業時間
- 午後7時から翌日1時まで
不定休 - MENU
- チャージ \1000
カクテル \1000
ウイスキー \1000
スピリッツW調整 \1000
- 確認日
- 2018.01.04
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