山幸彦と豊玉姫のロマンスが残る島々

村井 眞明

column

2019.12.19

鰐に乗る豊玉姫の絵馬(和爾賀波神社)

鰐に乗る豊玉姫の絵馬(和爾賀波神社)

海幸・山幸兄弟の物語は、童話として知られていますが、このもとは次のような古事記の記述にあります。あるとき弟の山幸彦は兄の海幸彦から釣針を借りて漁をしますが、それを紛失してしまいます。困っていた山幸彦は塩椎神(しおつちのかみ)の案内で、海神である大綿津見神(おおわたつみのかみ)<豊玉彦命:とよたまひこのみこと>の龍宮へ行きます。そこでその娘の豊玉姫と出会い結婚します。その後、山幸彦は豊玉彦の力で釣針を見つけて地上に戻りますが、その後を追って豊玉姫も地上にやってきます。そして身ごもっていることを告げ、山幸彦に中を覗かないようにと念を押して産屋(うぶや)に籠ります。ところが山幸彦は約束を破ってこっそり中を覗いてしまいます。すると八尋(やひろ)の鰐(わに)が身悶えていました。生まれた子は、鵜の羽の屋根を葺き終わらないうちに生まれたところから鵜葺草葺不合命(うがやふきあえずのみこと)といいます。豊玉姫は正体を見られたことを恥じて海へ帰りますが、生まれた子が気になり、妹の玉依姫(たまよりひめ)に子の世話を頼み地上に遣ります。鵜葺草葺不合命は玉依姫と結婚し、その間に生まれた子が神倭伊波禮毘古命(かむやまといわれびこのみこと)すなわち初代天皇の神武天皇です。

通説ではこの物語の舞台は南九州だとされていますが、東備讃瀬戸の島々にもこの物語にまつわる神社、地名、伝説が残っています。豊島は豊玉彦、男木島は大姫島つまり豊玉姫、女木島は姪姫島つまり玉依姫をそれぞれ祀る島と言われており、豊島家浦の神子ヶ浜(みこがはま)は鵜葺草葺不合命が生まれた地で、男木島には豊玉姫を祀る豊玉姫神社と山幸彦を祀る加茂神社があり、女木島には玉依姫を祀る玉依姫神社(今の八幡神社)があります。また屋島の浦生(うろ)にも豊玉姫がお産をした所という鵜羽(うのは)神社があり、屋島も元は八尋島(やひろのしま)といい山の姿が屋根に似ていることから今の表記になったということです。また大槌・小槌島の辺りの海は鱗が金色に光る鯛が採れたことから龍宮のあった所だといいます。さらに新川を遡ると三木町には鰐河(わにかわ)神社と和爾賀波(わにかわ)神社があり、豊玉姫は鰐に乗って川を遡りこの地に上陸したといいます。

歴史ライター 村井 眞明さん

多度津町出身。丸亀高校、京都大学卒業後、香川県庁へ入庁。都市計画や観光振興などに携わり、観光交流局長を務めた。
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