ウイルスは悪者か お侍先生のウイルス学講義

著:高田 礼人 構成:萱原 正嗣/亜紀書房

column

2020.05.08

新型コロナウイルスの感染はとどまるところを知らず、世界ではやや落ち着き始めたところはあるものの、日本を含めまだ終息の兆しは見えません。先の見えない中、どのような本を紹介すべきか、つい考えてしまいます。

ところで私たちは、日々大きく変化していく感染状況ばかりにとらわれて、ウイルスとはどんなものかと問われてもよくわかりません。専門家にとっても、正しく答えるのは簡単ではないようです。

この本の著者は人獣共通感染症を引き起こすウイルスの研究を行っている研究者です。アフリカのザンビアの森へ、もう10年以上エボラウイルスの自然宿主といわれるオオコウモリを捕らえるために通っているといいます。今までに1,000匹以上捕らえたけれども、エボラウイルス発見というドラマチックな展開にはなっていません。唯一かつてウイルスに感染していたことを示す抗体をもったオオコウモリが発見されたのみです。もちろん感染の恐怖と隣り合わせです。

ウイルスは地球上のあらゆるところ存在します。その領域は陸上にとどまらず、それどころか海洋には陸地以上の膨大な量のウイルスが存在しているそうです。著者は、ウイルスは宿主を生かして自分も生きるという共生関係を自然宿主と築いており、にもかかわらずウイルスが宿主に致命的な病気を引き起こすのはなぜか。宿主を殺してしまえばウイルスが生き延びるのは困難になる。このような関係は、ウイルスの生存の観点からは望ましくないエラーなのであるといいます。そしてそのようなエラーはなぜ起こるか。それは自然界で長い間をかけて築きあげられたウイルスと自然宿主との蜜月関係に人間が踏み込んでしまっているからだともいいます。ウイルスの存在そのものを悪とみなすのは行き過ぎだという理由は、ここにあります。

山下 郁夫

宮脇書店 総本店店長 山下 郁夫さん

坂出市出身。約40年書籍の販売に携わってきた、
宮脇書店グループの中で誰よりも本を知るカリスマ店長が
珠玉の一冊をご紹介します。
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宮脇書店 総本店店長 山下 郁夫さん

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